MENU

第03講 数学的準備1:ベクトルの内積と外積

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

$\def\bm#1{{\boldsymbol{#1}}}
\def\coloneqq{{:=}}
\newcommand{\rmd}{\mathrm{d}}$

第03講の導入

第02講で1次元空間内の運動学を考えました。そこで次はこれを2、3次元に拡張することを考えていきます。しかし、そこではベクトル解析の知識が必要ですから、これについて準備をしておきましょう。多くは高校でやった内容の復習になりますが、記法が若干違うところがあるため注意が必要です。また、外積という概念が新しく登場するので、これについてしっかり理解するようにしましょう。

ベクトルとは何か

ベクトルとは、質点の速度や加速度、あるいは電場や磁場などのように大きさと向きを併せ持った量です。高校ではこれらのベクトルを$\vec{v}$、$\vec{E}$などと表記していたと思いますが、大学では普通これらを太字にして$\bm{v}$、$\bm{E}$などと書きます。表記が変わっただけですが、混乱しないようにしてください。

さて、ベクトルは向きをもつ量なので、それを指定するための自由度の数だけの成分をもつことになります。例えば3次元空間を動き回る質点の位置P は座標系を決めると、例えば$(x,y,z)$で指定されることになります。原点から点P に引いたベクトル$\overrightarrow{\mathrm{OP}}\coloneqq\bm{r}$を位置ベクトルと言います。また、相対性理論を勉強すると、時間と空間を同一視して時空として再考することになりますが、そのときは4次元時空の各点を$(t,x,y,z)$と表記することになります。以下、特に断らない限りベクトルの成分は3成分であるとして話を進めていきます。

やや発展的な注意ですが、向きのある、あるいは多成分の物理量をベクトルであらわすことは大変便利であり、今後物理学を勉強していくとベクトルが幾度となくことになりますが、ベクトルの成分の数と問題が設定されている実際の空間の自由度は必ずしも一致しないということに留意してください。

さて、ベクトル$\bm{A}=(A_x,A_y,A_z)$を考える際に便利なように、以下のような3つのベクトルを導入します。
\[
\left\{
\begin{array}{r}
\bm{i}=(1,0,0)\\
\bm{j}=(0,1,0)\\
\bm{k}=(0,0,1)
\end{array}
\right.
\]
これらは大きさ(長さ)が1でそれぞれ$x$軸、$y$軸、$z$軸を向いているベクトルで、これらを基本ベクトルと呼びます。これらを用いれば$\bm{A}$は次のようにも書けますね。
\[
\bm{A}=A_x\bm{i}+A_y\bm{j}+A_z\bm{k}
\]
このように書けば、ベクトル$\bm{A}$の大きさ$A$が$A=|\bm{A}|=\sqrt{A_x^2+A_y^2+A_z^2}$であらわせることも明らかでしょう。また、先程の位置ベクトル$\bm{r}$は$\bm{r}=x\bm{i}+y\bm{j}+z\bm{k}$と書けることになります。

ベクトルの内積

次にベクトルの内積について考えましょう。まず、2つのベクトル$\bm{A}$、$\bm{B}$の内積を次のように定義します。
\[
\bm{A}\cdot\bm{B}\coloneqq AB\cos{\theta}
\]
但し、$\theta$は2つのベクトル$\bm{A}$、$\bm{B}$のなす角です。この定義によって、内積のもつ特徴が以下のように分かります。

内積の性質

(1) $\bm{A}$、$\bm{B}$が直交する時、内積は0である。すなわち、$\bm{A}\cdot\bm{B}=0 (\bm{A}\perp\bm{B})$

(2) 自分自身との内積は大きさの2乗になる。すなわち、$\bm{A}\cdot\bm{A}=A^2$

(3) 交換律が成り立つ。すなわち、$\bm{A}\cdot\bm{B}=\bm{B}\cdot\bm{A}$

(4) 分配律が成り立つ。すなわち、$\bm{A}\cdot(\bm{B}+\bm{C})=\bm{A}\cdot\bm{B}+\bm{A}\cdot\bm{C}$

特に、基本ベクトルについては、それらの大きさが1であり、互いに直交することが容易に確認できます。
\[
\bm{i}^2=\bm{j}^2=\bm{k}^2=1 、 \bm{i}\cdot\bm{j}=\bm{j}\cdot\bm{k}=\bm{k}\cdot\bm{i}=0
\]
これを用いると、$\bm{A}$、$\bm{B}$の内積は以下のようにもあらわせることが分かります。
\[
\bm{A}\cdot\bm{B}=(A_x\bm{i}+A_y\bm{j}+A_z\bm{k})\cdot(B_x\bm{i}+B_y\bm{j}+B_z\bm{k})=A_xB_x+A_yB_y+A_zB_z
\]

ベクトルの外積

さて、ベクトルの内積は高校でも習ったかと思いますが、ベクトルにはもう1つ外積という演算が存在します。これも物理学をやる上では頻繁に利用することになりますから、準備を行っておきましょう。2つのベクトル$\bm{A}$、$\bm{B}$の外積を次のように定義します。
\[
\bm{A}\times\bm{B}\coloneqq (AB\sin{\theta})\bm{n}
\]
但し、$\theta$は2つのベクトル$\bm{A}$、$\bm{B}$のなす角です。また、$\bm{n}$は$\bm{A}$と$\bm{B}$の両方に垂直な単位ベクトルであり、向きは$\bm{A}$を$\bm{B}$の方向に回転した時に右ネジの進む向きにとると約束しておきます。この定義によって、外積のもつ特徴が以下のように分かります。

外積の性質

(1) $\bm{A}$、$\bm{B}$が平行な時、外積は0である。すなわち、$\bm{A}\times\bm{B}=0 (\bm{A}\parallel\bm{B})$となり、特に、自分自身との外積は0になる。すなわち、$\bm{A}\times\bm{A}=0$

(2) $\bm{n}$の向きの定義から、交換律は成り立たない。
すなわち、$\bm{A}\times\bm{B}=-\bm{B}\times\bm{A}$

(3) 分配律が成り立つ。すなわち、$\bm{A}\times(\bm{B}+\bm{C})=\bm{A}\times\bm{B}+\bm{A}\times\bm{C}$

特に、基本ベクトルについては、以下の式が成り立つことが容易に確認できます。
\[
\bm{i}\times\bm{i}=\bm{j}\times\bm{j}=\bm{k}\times\bm{k}=0
\]
\[
\bm{i}\times\bm{j}=-\bm{j}\times\bm{i}=\bm{k} 、 \bm{j}\times\bm{k}=-\bm{k}\times\bm{j}=\bm{i} 、 \bm{k}\times\bm{i}=-\bm{i}\times\bm{k}=\bm{j}
\]
このとき、$\bm{i}\rightarrow\bm{j}\rightarrow\bm{k}\rightarrow\bm{i}\rightarrow\cdots$という順番になっていることに注意してください。これをサイクリックな交換と言います。これを用いると、$\bm{A}$、$\bm{B}$の内積は以下のようにもあらわせることが分かります。
\begin{eqnarray}
\bm{A}\times\bm{B}&=&(A_x\bm{i}+A_y\bm{j}+A_z\bm{k})\times(B_x\bm{i}+B_y\bm{j}+B_z
\bm{k})\nonumber\\
&=&(A_yB_z-A_zB_y)\bm{i}+(A_zB_x-A_xB_z)\bm{j}+(A_xB_y-A_yB_x)\bm{k}\nonumber
\end{eqnarray}
ここでも下付きの添字$x$、$y$、$z$がサイクリックになっていることに注意しましょう。

因みに、外積の定義より$|\bm{A}\times\bm{B}|=|\bm{B}\times\bm{A}|=AB\sin{\theta}$となりますが、これはベクトル$\bm{A}$、$\bm{B}$がつくる平行四辺形の面積をあらわしています。

内積と外積の計算練習

内積と外積の計算を練習するために$\bm{A}=\bm{i}-2\bm{j}+3\bm{k}$、$\bm{B}=3\bm{i}+2\bm{j}+4\bm{k}$について$\bm{A}\cdot\bm{B}$と$\bm{A}\times\bm{B}$を計算してみましょう。まず、内積は以下のように計算できます。
\[
\bm{A}\cdot\bm{B}=(1\times3)+(-2\times2)+(3\times4)=3-4+12=11
\]
続いて、外積は以下のように計算できます。
\[
\bm{A}\times\bm{B}=(-2\times4-3\times2)\bm{i}+(3\times3-1\times4)\bm{j}+(1\times2+2\times3)\bm{k}=-14\bm{i}+5\bm{j}+8\bm{k}
\]

第03講のまとめ

最後に一言コメントをして第03講を終わりにしましょう。皆さんはベクトルに対してどういうイメージをもっているでしょうか。筆者は、高校生にベクトルを教える際には必ず、以下のように動機付けを行います。

「ベクトルというのは今まで補助線を引いたりして試行錯誤しながら解いていた幾何学の問題を、少ない道具で統一的に議論出来るように使うものです。」

例えば、「ひし形の対角線2本は直交する。」ということを証明したいとします。これを初等幾何的に証明するのは若干大変な作業になってしまいます。しかし、ベクトルを利用すれば以下のように簡潔な証明が可能です。

まず、下図のようにひし形の辺上にベクトル$\bm{a}$、$\bm{b}$を定めます。すると、2本の対角線は始点と終点を定めれば、それぞれ$\bm{a}-\bm{b}$と$\bm{a}+\bm{b}$であらわせますから、これらの内積をとって
\[
(\bm{a}-\bm{b})\cdot(\bm{a}+\bm{b})=|\bm{a}|^2-|\bm{b}|^2
\]
となります。しかし、ひし形の性質から全ての辺の長さは等しいので$|\bm{a}|=|\bm{b}|$です。よって上の内積は0となり、ひし形の対角線2本が直交すると言えます。

図3.1 ひし形

このように、細々とした道具を使い分けることなく、少ない道具で初等幾何学を操れるのが高校数学でベクトルを用いる利点でした。

では、大学の科目におけるベクトルの役割はどうでしょうか?物理学に限定して言うと、ベクトルは必要不可欠な数学の道具です。このあとやるように(あるいは高校で習ったように)、古典力学の基礎方程式であるニュートンの運動方程式はベクトルを用いてあらわされます。また、高校ではあまり表立って習うことはありませんでしたが、電磁気学の基礎方程式はマクスウェル方程式というベクトルを用いた4本の方程式であらわされます。

そして、バネの振動を議論する際などにはベクトルが行列という形で自然に拡張され、そしてその行列という道具は剛体の運動や相対論効果を考える際にテンソルという形で自然に一般化がなされます。このような考えを理解する基礎として、ベクトルの理解は欠かせません。この先の込み入った数学の話は一旦置いておくとして、とりあえず今はベクトルの重要性を意識しながらこの先の講義を進めていきましょう!

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。