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【古典力学】第08講 数学的準備3:常微分方程式

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第08講の導入

第05講でニュートンの運動方程式が登場しました。もう1度書いておきましょう。ニュートンの運動法則に依れば力$\bm{F}$、質量$m$、加速度$\ddot{\bm{r}}$は以下の関係を満たします。
\[
\bm{F}=m\ddot{\bm{r}}
\]
さて、一般に$\bm{F}$は$\bm{r}$、$\dot{\bm{r}}$、$t$の関数です。この$\bm{F}$が具体的に指定されるとき、運動方程式を用いて物体の位置$\bm{r}(t)$を求めよ、というのがニュートン力学における具体的な問題です。この、「運動方程式$\bm{F}=m\ddot{\bm{r}}$を解いて物体の位置$\bm{r}(t)$を求めよ。」という問題は、数学で言うと、「常微分方程式$\bm{F}=m\ddot{\bm{r}}$を解いて解$\bm{r}(t)$を求めよ。」という問題になっています。従って、運動方程式を解くにはこの常微分方程式というものを道具として使いこなせるようにならなければなりません。そこで第08講ではこの常微分方程式について準備しておくことにしましょう。

常微分方程式とは何か

$t$を変数とする未知関数$x(t)$があったとします。このとき、
\[
t , x(t) , \dot{x}(t)\coloneqq\frac{dx(t)}{dt} , \ddot{x}(t)\coloneqq\frac{d^2x(t)}{dt^2} , \cdots
\]
からなる方程式
\[
E(t,x,\dot{x},\ddot{x},\cdots)=0
\]
を常微分方程式と言います。また、導関数の微分回数を階数といい、$n$階導関数$x^{(n)}\coloneqq d^nx(t)/dt^n$が最高階数の導関数となっている方程式を$n$階常微分方程式と言います。そして、この方程式を満たす具体的な形をした$x(t)$のことを解といい、$t=0$のときの$x(t)$の値$x(0)$が$x(0)=x_0$を満たすという条件を初期条件と言います。勿論、$x_0$は定数です。

常微分方程式の例として2つの1次元運動を考えてみましょう。

例えば、$x$軸上で、位置$x$のみに依存する力$F(x)$を受けて運動する質量$m$の質点があったとします。このとき、時刻$t$での座標$x(t)$はニュートンの運動方程式
\[
m\ddot{x}(t)=F(x)
\]
に従います。これは変数が$t$、未知関数が$x(t)$の2階常微分方程式となります。

別の例として、$x$軸上で、速度$\dot{x}$のみに依存するような力$F(\dot{x})$を受けて運動する質量$m$の質点があったとします。このとき、時刻$t$での座標$x(t)$はニュートンの運動方程式
\[
m\ddot{x}(t)=F(\dot{x})
\]
に従います。ここで$\dot{x}=v$とおくと、運動方程式は
\[
m\dot{v}(t)=F(v)
\]
と書き直すことが出来ます。これは変数が$t$、未知関数が$v(t)$の1階常微分方程式となります。こうして$v(t)$を求め、それからそれを更に$t$で積分して$x(t)$を計算すれば、具体的なニュートン力学の問題が解けたことになります。

これらのような常微分方程式をどのように解いていくのかをこれから考えていきましょう。

1階変数分離型の線型常微分方程式の解法

1階の常微分方程式について考えましょう。一般に、変数が$t$、未知関数が$v(t)$の1階の常微分方程式は以下のように書くことが出来ます。
\[
\dot{v}(t)=E(t,v)
\]
特に、$E(t,v)$が$t$だけの関数$T(t)$と$v$だけの関数$V(v)$だけであらわせる場合を考えてみましょう。このとき、微分方程式は以下のようになります。
\[
\frac{dv}{dt}=T(t)V(v)
\]
このとき、方程式は以下のように書き換えることが出来ます。
\[
\frac{dv}{V(v)}=T(t)dt
\]
こうすると、左辺は$v$だけを、右辺は$t$だけを含む形になっていますから、あとはこれを両辺で積分すれば解を求めることが出来ます。このような形の常微分方程式を1階変数分離型の線型常微分方程式と言います。線型という言葉はまだ説明をしていませんが、これについては後で解説します。とりあえず、この型の常微分方程式がどのように解けるのかというのをしっかり理解してください。

2階定数係数型の同次線型常微分方程式の解法

次に2階の常微分方程式について考えましょう。。一般に、変数が$t$、未知関数が$x(t)$の2階の常微分方程式は以下のように書くことが出来ます。
\[
\ddot{x}+P(t)\dot{x}+Q(t)x=R(t)
\]
特に、左辺にある係数$P(t)$と$Q(t)$が独立変数$t$に依らない定数である場合を考えてみましょう。このとき、微分方程式は以下のようになります。
\[
\ddot{x}+2a\dot{x}+bx=R(t)
\]
左辺の$a$に2がかかっているのは後で計算を楽にするためなので、ここでは気にしないでください。右辺の$R(t)$は非同次項と言います。後で見るように、この項がある場合を解くためには、予めこの項が無い場合を解いておかないといけないので、ここでは$R(t)=0$の場合を考えます。つまり、今解きたい方程式は以下の形です。
\[
\ddot{x}+2a\dot{x}+bx=0
\]
この方程式を2階定数係数型の同次線型常微分方程式と言います。定数係数というのは、$\dot{x}$と$x$の係数が定数であるということを意味しています。

さて、この方程式を解くためには線型という言葉について説明が必要なので、まずは線型とは何かについてお話ししましょう。微分方程式
\[
\ddot{x}+2a\dot{x}+bx=0
\]
において$x=x_1(t)$と$x=x_2(t)$が共にこの微分方程式の解であるとき、その線型結合
\[
x(t)=c_1x_1(t)+c_2x_2(t) (c_1、c_2は定数)
\]
もその解であると言えます。何故なら、この線型結合の式を微分方程式に代入すると
\[
c_1(\ddot{x}_1+2a\dot{x}_1+bx_1)+c_2(\ddot{x}_2+2a\dot{x}_2+bx_2)=0
\]
となりますが、$x_1$と$x_2$は解なので、2つの括弧の中は0になります。よって、任意の$c_1$と$c_2$について線型結合を取った式も解になることが言えました。これを解の重ね合わせと言います。線型というのはこの解の重ね合わせが出来る方程式であるという意味なのです。

さて、2つの関数があって、一方がもう一方の定数倍であらわされるとき、互いに線型従属であると言います。例えば、$x_1(t)=t^2$と$x_2(t)=-2t^2$は互いに線型従属です。これに対して、定数倍ではあらわせないとき、互いに線型独立であると言います。例えば、$x_1(t)=\sin{t}$と$x_2(t)=\cos{t}$は互いに線型独立です。また、$x_1(t)=t^2$と$x_2(t)=t^2+2t-3$も互いに線型独立です。

先の微分方程式について、互いに線型独立な2つの解$x_1(t)$と$x_2(t)$の線型結合こそが微分方程式の一般解となります。従って、同次方程式
\[
\ddot{x}+2a\dot{x}+bx=0
\]
が与えられたとき、互いに線型独立な2つの解を求めることが課題となります。

さて、いよいよ同次方程式$\ddot{x}+2a\dot{x}+bx=0$の一般解を求めましょう。まず、この式の解として$x=\mathrm{e}^{\lambda t}$を仮定してみます。これを同次方程式に代入すると
\[
(\lambda^2+2a\lambda+b)\mathrm{e}^{\lambda t}=0
\]
が得られます。$\mathrm{e}^{\lambda t}\neq0$だから、$\lambda$は2次方程式
\[
\lambda^2+2a\lambda+b=0
\]
を満たします。$\lambda$についてのこの方程式を特性方程式と言います。この特性方程式の解は
\[
\lambda=-a\pm\sqrt{a^2-b}
\]
となります。これを、$\lambda_1=-a+\sqrt{a^2-b}$と$\lambda_2=-a-\sqrt{a^2-b}$とおいておきましょう。根号の中が正か、0か、負かによって一般解の形が変わるので、以下、場合分けをして議論しましょう。

  • (1)$a^2-b>0$のとき:
    このとき、$\lambda_1\neq\lambda_2$なので、当然、$x_1=\mathrm{e}^{\lambda_1t}$と$x_2=\mathrm{e}^{\lambda_2t}$は互いに線型独立です。従って、この場合の一般解は以下のようになります。
    \[
    x(t)=c_1\mathrm{e}^{\lambda_1t}+c_2\mathrm{e}^{\lambda_2t} (c_1、c_2は定数)
    \]
  • (2)$a^2-b=0$のとき:
    このとき、特性方程式は重解$\lambda=-a$を持つので、特性方程式から解が$x_1=\mathrm{e}^{\lambda t}$しか決まりません。天下り的ですが、この場合は$x_2=t\mathrm{e}^{\lambda t}$も元の同次方程式の解となります。実際、元の同次方程式に代入すると
    \[
    \ddot{x}_2+2a\dot{x}_2+bx_2=\{2(\lambda+a)+(\lambda^2+2a\lambda+b)t\}\mathrm{e}^{\lambda t}=0
    \]
    となるので、確かに$x_2$は同次方程式の解であることが分かります。そして明らかに$x_1$と$x_2$は互いに線型独立です。従って、この場合の一般解は以下のようになります。
    \[
    x(t)=(c_1+c_2t)\mathrm{e}^{\lambda t} (c_1、c_2は定数)
    \]
  • (3)$a^2-b<0$のとき:
    このとき、特性方程式は互いに複素共役な虚数解$\lambda_{1,2}=-a\pm i\sqrt{b-a^2}$を持ちます。従って、一般解は
    \[
    x(t)=c_1\mathrm{e}^{(-a+i\sqrt{b-a^2})t}+c_2\mathrm{e}^{(-a-i\sqrt{b-a^2}t)}
    \]
    これはオイラーの公式
    \[
    \mathrm{e}^{i\theta}=\cos{\theta}+i\sin{\theta}
    \]
    を用いて以下のように変形することが出来ます。
    \[
    x(t)=\mathrm{e}^{-at}\{C_1\cos{(\sqrt{b-a^2}t)}+C_2\sin{(\sqrt{b-a^2})t}\}
    \]
    但し、$C_1$と$C_2$は新しい定数で$C_1\coloneqq c_1+c_2$、$C_2\coloneqq i(c_1-c_2)$と定義しています。さらに、$C_1=A\cos{\alpha}$、$C_2=A\sin{\alpha}$となるように新しい定数$A$と$\alpha$を導入して、加法定理を用いれば一般解は以下のようになります。
    \[
    x(t)=A\mathrm{e}^{-at}\cos{(\sqrt{b-a^2}t+\alpha)}
    \]

このように、2階定数係数型の同次線型常微分方程式を解くことは、対応する特性方程式を解くという簡単な問題に帰着されます。

第08講のまとめ

最後に一言コメントをして第08講を終わりにしましょう。今回は常微分方程式についてお話しをしました。今回の内容はちょっと抽象的だったかもしれませんが、このあと早速使っていくので手を動かしながら慣れていくようにしていきましょう。

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