線形代数【第2章】線形写像について

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線形写像

のちにより抽象的な「ベクトル」の概念を導入しますが,ひとまずは親しみやすい,数を並べたベクトルに関して考えることにします.線形写像の定義は以下です.

定義(線形写像)

$n$項数ベクトル空間$\mathbb{R}^n$から$m$項数ベクトル空間$\mathbb{R}^m$への写像
\[f:\mathbb{R}^n \to \mathbb{R}^m\]
が線形写像であるとは,$\forall { x},{y}\in \mathbb{R}^n, \forall k\in \mathbb{R}$について,
\[(1) f({x+y}) = f({x})+f({y})\]
\[(2) f(k{x}) = kf({x})\]
が成り立つような写像である.

軽く用語の解説をします.「ベクトル空間」の正確な定義は後で与えますが,今のところは高校で習ったようなベクトルをイメージしてもらえば構いません.$n$項数ベクトル空間の元は
\[\left(
\begin{array}{c}
a_1 \\
a_2 \\
\vdots \\
a_n
\end{array}
\right)
\]
のように,実数を$n$個並べたものです.

「写像」は,実数以外にも値をとる関数のことと考えてもらえばいいです.ここでは,$n$項数ベクトルを1つ与えると,$m$項数ベクトルを1つ返す関数という意味です.$f:\mathbb{R}^n \to \mathbb{R}^m$とは,「$f$は$\mathbb{R}^nから\mathbb{R}^m$への写像である.」という意味です.

さて,写像が線形写像であるとはどういう意味か,具体例を通じて探っていきます.

例1

$f(x)=ax$により定まる写像$f:\mathbb{R} \to \mathbb{R}$は線形写像である.

線形写像の定義に合致しているか確かめてみましょう.

\[f(x+y)=a(x+y)=ax+ay=f(x)+f(y)\]なので条件(1)は成り立っています.\[f(kx)=akx=kax=kf(x)\]なので条件(2)も成り立っています.したがって,$f(x)=ax$は線形写像であるといえます.(当たり前に思えるかもしれませんが,このように定義を一つ一つ確かめることは数学の学習で非常に重要です.)

例2

$f(x)=ax+b(b \neq 0)$で定まる写像は線形写像ではない.(条件を確かめて証明してみましょう)

例3

$f(x_1,x_2)=(2x_1+3x_2, x_1+2x_2)$で定まる写像は線形写像である.(これも証明してみましょう)

この写像はどのような写像でしょうか?座標平面で考えてみてください.

例4

$f(x)=(2x, 3x), g(x,y)=(x+y, 2x+y, x)$とするとき,$h(x)=g(f(x))$で定まる写像$h:\mathbb{R} \to \mathbb{R}^3$は線形写像である.

一般に,2つの線形写像の合成はまた線形写像になります.

演習問題

1. 2つの線形写像の合成が線形写像になることを示せ.
2. $f(x)=ax^2$で定まる写像が線形写像になるための$a$の条件を求めよ.

線形写像と行列

この節では線形写像が行列によって表現されることを見ます.

 定義(標準基底)

$\mathbb{R}$のベクトルを列ベクトルで表すことにして,以下の$n$個のベクトルを考える.
\[{e_1}=\left(
\begin{array}{c}
1 \\
0 \\
\vdots \\
0
\end{array}
\right) \;\;
{e_2}=\left(
\begin{array}{c}
0 \\
1 \\
\vdots \\
0
\end{array}
\right)\;\;\cdots\;\;
{e_n}=\left(
\begin{array}{c}
0 \\
0 \\
\vdots \\
1
\end{array}
\right)
\]
このような$n$個のベクトルの組${e_1}, \cdots , {e_n}$を$\mathbb{R}^n$の{\bf 標準基底}と呼ぶ.

さて,ここで線形写像$f:\mathbb{R}^n \to \mathbb{R}^m$が与えられたとします.$\mathbb{R}^n$の標準基底が$f$によって
\[f({e_1})=\left(
\begin{array}{c}
a_{11} \\
a_{21} \\
\vdots \\
a_{m1}
\end{array}
\right) \;\;
f({e_2})=\left(
\begin{array}{c}
a_{12} \\
a_{22} \\
\vdots \\
a_{m2}
\end{array}
\right)\;\;\cdots\;\;
f({e_n})=\left(
\begin{array}{c}
a_{1n} \\
a_{2n} \\
\vdots \\
a_{mn}
\end{array}
\right)
\]
と変換されたとします.線形写像$f$についてこのように得られた$n$個の列ベクトルを順に並べると$m\times n$行列が定まります.この行列を$A$と書くことにすると,
\[
A=\left(
\begin{array}{cccc}
a_{11} & a_{12} & \ldots & a_{1n} \\
a_{21} & a_{22} & \ldots & a_{2n} \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
a_{m1} & a_{m2} & \ldots & a_{mn}
\end{array}
\right)
\]
つまり,線形写像$f:\mathbb{R}^n \to \mathbb{R}^m$が1つ与えられると,それに対応する$m\times n$行列が1つ定まる,といえます.この行列$A$には線形写像$f$の情報,つまり$f$が$\mathbb{R}^n$のベクトルをどのように変換するかという情報を全て含んでいます.このことを調べてみましょう.

$\mathbb{R}^n$の任意のベクトル${x}$は,
\[
{x}=\left(
\begin{array}{c}
x_{1} \\
x_{2} \\
\vdots \\
x_{n}
\end{array}
\right)
\]
と表すことができます.さらにこの${x}$を標準基底に分解してみると,
\begin{eqnarray*}
{x}&=&\left(
\begin{array}{c}
x_{1} \\
x_{2} \\
\vdots \\
x_{n}
\end{array}
\right)\\
&=&\left(
\begin{array}{c}
x_{1} \\
0 \\
\vdots \\
0
\end{array}
\right)
+\left(
\begin{array}{c}
0 \\
x_{2} \\
\vdots \\
0
\end{array}
\right)+\cdots+\left(
\begin{array}{c}
0 \\
0 \\
\vdots \\
x_{n}
\end{array}
\right)\\
&=&x_1\left(
\begin{array}{c}
1 \\
0 \\
\vdots \\
0
\end{array}
\right)+x_2\left(
\begin{array}{c}
0 \\
1 \\
\vdots \\
0
\end{array}
\right)+\cdots+x_n\left(
\begin{array}{c}
0 \\
0 \\
\vdots \\
1
\end{array}
\right) \\
&=&x_{1}{e_1}+x_{2}{e_2}+\cdots+x_{n}{e_n}
\end{eqnarray*}
となります.ここで線形写像$f$を${x}$に作用させてみましょう.$f$の線形性をフル活用します.
\begin{eqnarray*}
f({x})&=& f(x_{1}{e_1}+x_{2}{e_2}+\cdots+a_{n}{e_n}) \\
&=& x_1f({e_1})+x_2f({e_2})+\cdots +x_nf({e_n}) \\
&=& x_1\left(
\begin{array}{c}
a_{11} \\
a_{21} \\
\vdots \\
a_{m1}
\end{array}
\right)+x_2\left(
\begin{array}{c}
a_{12} \\
a_{22} \\
\vdots \\
a_{m2}
\end{array}
\right)+\cdots +x_n\left(
\begin{array}{c}
a_{1n} \\
a_{2n} \\
\vdots \\
a_{mn}
\end{array}
\right) \\
&=& \left(
\begin{array}{c}
x_1a_{11}+x_2a_{12}+\cdots+x_na_{1n} \\
x_1a_{21}+x_2a_{22}+\cdots+x_na_{2n} \\
\vdots \\
x_1a_{m1}+x_2a_{m2}+\cdots+x_na_{mn}
\end{array}
\right)
\end{eqnarray*}
1行目から2行目で$f$の線形性を,2行目から3行目で上で調べた$\mathbb{R}^n$の標準基底の変換を使いました.
最後のベクトルは,次のように行列とベクトルの積の形に書くことができます.
\begin{eqnarray*}
\left(
\begin{array}{c}
x_1a_{11}+x_2a_{12}+\cdots+x_na_{1n} \\
x_1a_{21}+x_2a_{22}+\cdots+x_na_{2n} \\
\vdots \\
x_1a_{m1}+x_2a_{m2}+\cdots+x_na_{mn}
\end{array}
\right)&=&\left(
\begin{array}{cccc}
a_{11} & a_{12} & \ldots & a_{1n} \\
a_{21} & a_{22} & \ldots & a_{2n} \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
a_{m1} & a_{m2} & \ldots & a_{mn}
\end{array}
\right)\left(
\begin{array}{c}
x_{1} \\
x_{2} \\
\vdots \\
x_{n}
\end{array}
\right)\\
&=& A{x}
\end{eqnarray*}
$A$は上で出てきた行列です.すなわち,
\[f({x})=A{x}
\]
となります.
つまり,任意の線形写像$f$に対し,ある行列$A$が定まり,線形写像$f$はベクトルにその行列$A$をかけることによって得られる,といえます.

例1
$f\Biggl(\left(\begin{array}{c}
x_{1} \\
x_{2}
\end{array}
\right)\Biggl)=\left(\begin{array}{c}
2x_1+3x_2 \\
x_1+x_2
\end{array}
\right)$によって定まる線形写像$f$に対応する行列を求める.
\[\left(\begin{array}{c}
2x_1+3x_2 \\
x_1+x_2
\end{array}
\right)=\left(
\begin{array}{cc}
2 & 3 \\
1 & 1 \\
\end{array}
\right)\left(\begin{array}{c}
x_{1} \\
x_{2}
\end{array}
\right)
\]
なので,対応する行列は$\left(
\begin{array}{cc}
2 & 3 \\
1 & 1 \\
\end{array}
\right)$と求まる.

この,「行列を使って線形写像を表現できる」という点に,行列を使う利点が凝縮されています.線形写像という扱いにくいものを,行列の和や積を使ってあたかも数のように扱うことができます.
次の章では,いろいろな種類の線形写像と,行列の積の意味を見ていきます.

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