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代数的加法公式と関数1
Weierstrass-Phragménの定理の証明
今回はWeierstrass-Phragménの定理、すなわち代数的加法公式をもつことが広義における楕円関数の特徴であることを証明する。
まず、そのために次の予備定理を確認しておこう。
一価解析関数$f(z)$が$z=a$において独立真正特異点をもつとき、$C$を任意の一数とすれば$C$の任意の近傍に適当な一数$C^\prime$をとって、方程式
\[f(z)=C^\prime\]が$a$の任意の近傍において無数に多くの根をもつようにすることが出来る。
$z$平面上において$a$を中心として任意の円$A_1$を描き、また$w=f(z)$の平面上においても$C$を中心として任意の円$B_1$を描く。そのときは$A_1$内に適当な一数$z_1$をとればこれに対する$f\left(z_1\right)=w_1$を用いてちょうど$B_1$内にあるようにすることが出来る。かつここで$f^\prime\left(z_1\right)\neq0$と考えることが出来る。
なぜならば、$z_1$を極めてわずかに変動させても$z_1$、$w_1$はそれぞれ$A_1$、$B_1$の外に出ないから、その範囲内で$f^\prime\left(z_1\right)\neq0$となるような$z_1$を取ってあると考えればよいからである。
従って、$z_1$の十分小さな近傍は$w_1$の近傍と一対一の対応をなす、$z_1$を中心とし$A_1$内において$a$を含まない小円$K_1$を描きその写像を${K_1}^\prime$とする。
次に$a$を中心として半径が$A_1$の半径の半分よりは小さくかつ$K_1$に達しない円$A_2$を描き、また$w_1$を中心として${K_1}^\prime$の内部に円$B_2$を描く。そのときは前に$A_1$、$B_1$について考えたのと同様にして、$A_2$内に適当な$z_2$をとれば、$f\left(z_2\right)=w_2$が$B_2$内にあってかつ$f^\prime\left(z_2\right)\neq0$となるようにすることが出来る。$z_2$を中心とし$a$を含まない小円を$K_2$とし、その写像を${K_2}^\prime$とする。
このような手続きを繰り返して次第に$a$に収束する小円$K_1$、$K_2$、$K_3$、$\cdots$及びその写像${K_1}^\prime$、${K_2}^\prime$、${K_3}^\prime$、$\cdots$を作る。一般に${K_n}^\prime$は常に${K_{n-1}}^\prime$の内にあるから、すべての${K_n}^\prime$に共通に含まれる点が少なくとも一つある。これを$C^\prime$とする。そうすれば$C^\prime$は各${K_n}^\prime$内にあるから各$K_n$内にそれぞれ一つずつ対応点をもつ。それがすなわち方程式
\[f(z)=C^\prime\]
の根であり、明らかに$a$の任意の近傍に無数に多くある。
ここで、簡単のために$a$を有限の点としてあるが、$a=\infty$でも証明の論法は同じように応用可能である。
つまり、$a$が極の集積点となる真性特異点でも本定理は成立する。
なぜならば、もし$f(z)=C$が$a$の任意の近傍に無数に多くの根をもてば本定理はそれで成立する。もしそうでなければ\[g(z)=\frac{1}{f(z)-C}\]の関数を考えればこれは$a$を孤立真性特異点としてもつから、これについては本定理が成立する。したがって$f(z)$についてもそうである。
Weierstrass-Phragménの定理の応用
Weierstrass-Phragménの定理は、楕円関数の周期性や特定の挙動を特徴づけるために使用される。例えば、次のような場面で役立つ。
楕円関数の基本的な性質の理解
Weierstrassの楕円関数($\wp$関数)のような楕円関数の解析では、関数が持つ零点や極の構造を理解することが重要である。この定理は、そのような関数の基本的な周期性や性質を研究する際に重要になる。
周期的な振る舞い
楕円関数は二重周期を持つ特別な複素関数である。Weierstrass-Phragménの定理は、これらの周期性や対称性の性質を扱うときに役立つ。
モジュラー形式や代数幾何への応用
このコラムでは詳しく扱っていないが、モジュラー形式や代数幾何学にも応用されることがあって、楕円関数はモジュラー形式や代数曲線の研究において重要な役割を果たす。この定理を利用して、楕円曲線の構造やそれに関連する代数的性質を解析できる。
参考文献
参考文献は以下の通り。
[1]竹内端三,『楕円関数論』,岩波書店,1936
出版社在庫無し、著作権消失済み。
[2]E.T. Whittaker, et al., A Course of Modern Analysis (AMS PRESS, 1927)
著作権消失済み。
[3]戸田盛和,『楕円関数入門』,日本評論社,2001
[4]戸田盛和,『臨時別冊・数理科学SGC ライブラリ49 ソリトンと物理学』,サイエンス社,2006
同出版社より電子書籍の形で復刊済み。
[5]Landau・Lifshitz,『力学』,東京図書,2017