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代数的加法公式と関数2
今回も引き続き代数的加法公式と関数の性質について調べていこう。
簡単のために$f(u)$を一価有理型関数とし、これが
\[R\left(\xi,\ \eta,\ \zeta\right)=0\tag{$1$}\label{1}\]
となる代数的加法公式をもつものとする。ただし
\[\xi=f(u),\ \ \eta=f(v),\ \ \zeta=f\left(u+v\right)\]
で、また$R$は定数のみを係数とする有理整関数を表す。$\eqref{1}$を$u$及び$v$に関してそれぞれ微分すれば
\begin{eqnarray*}\frac{\partial R}{\partial\xi}\frac{d\xi}{du}+\frac{\partial R}{\partial\zeta}\frac{\partial\zeta}{\partial u}&=&0\\[1mm]\frac{\partial R}{\partial\eta}\frac{d\eta}{dv}+\frac{\partial R}{\partial\zeta}\frac{\partial\zeta}{\partial v}&=&0\end{eqnarray*}
そして$\dfrac{\partial\zeta}{\partial u}=\dfrac{\partial\zeta}{\partial v}$だから、上の二式からただちに
\[\frac{\partial R}{\partial\xi}\frac{d\xi}{du}-\frac{\partial R}{\partial\eta}\frac{d\eta}{dv}=0\tag{2}\label{2}\]
を得る。$\eqref{1}$、$\eqref{2}$の間に$\zeta$を消去した結果を
\[R_1\left(\xi,\ \eta,\ \frac{d\xi}{du},\ \frac{d\eta}{dv}\right)=0\tag{3}\label{3}\]
とし、この式において$v=c$(任意の定数)とおいたものを
\[R_2\left(\xi,\frac{d\xi}{du}\right)=0\]
すなわち
\[R_2\left\{f(u),\ f^\prime(u)\right\}=0\tag{4}\label{4}\]
とする。ただし$R_1$、$R_2$はいずれも定数のみを係数とする有理整関数を表す。
$\eqref{3}$において$v=c$とおいたときその結果が$0=0$となっては困るが、これに対しては次のように考える。$R_1$を$\xi$、$\dfrac{d\xi}{dv}$の冪にしたがって整理し、
\[R_1=\sum A_{i,j}\xi^i\left(\frac{d\xi}{du}\right)^j=0\]
とする。$R_1$は必ず$\dfrac{d\eta}{dv}$を含むはずだから、すべての$A$が形式的に$0$となることはない。よって一つの$A$を$0$にするような$v$の値を$c$とすればよい。もしまたその$A$が$v$のすべての値で$0$になるならば、$A$の中の$\eta$、$\dfrac{d\eta}{dv}$をそれぞれ$\xi$、$\dfrac{d\xi}{du}$と書き直したものを$R_2$とすればよい。
これで$\eqref{4}$の微分方程式は常に得られることがわかる。ゆえに
定理1. $f(u)$が代数的加法公式をもつならば、$f(u)$は定数のみを係数とする第一階の代数的微分方程式を満足する。
微分方程式
\[R_2\left(\xi,\ \xi^\prime\right)=0\hspace{1.5cm}\left(\xi^\prime=\frac{d\xi}{du}\right)\]
をさらに$u$で微分すれば、
\[\frac{\partial R_2}{\partial\xi}\xi^\prime+\frac{\partial R_2}{\partial\xi^\prime}\xi^{\prime\prime}=0\]
これから
\[f^{\prime\prime}(u)=\xi^{\prime\prime}=-\frac{\ \displaystyle\frac{\partial R_2}{\partial\xi}}{\ \displaystyle\frac{\partial R_2}{\partial\xi^\prime}}\xi^\prime\]
を得る。この右辺は$\xi$、$\xi^\prime$の有理関数である。なお逐次に微分することによって$\xi^{\prime\prime\prime}$、$\cdots$等をすべて$\xi$、$\xi^\prime$の有理関数として表すことが出来る。ゆえに以下の定理が成り立つ。
定理2. $f(u)$が代数的加法公式をもつならば、$f^{(n)}(u)\ \ \left(n\geqq2\right)$は$f(u)$及び$f^\prime(u)$の有理関数として表される。
さて、$f(u)$は一価有理型と仮定しているから、もしそれが$u=\infty$において正則であるかまたは極をもつならば$f(u)$は有理関数である。
また$u=\infty$において真性特異点をもつならば、それは孤立するものかまたは極の集積点である。よって適当な数$C^\prime$をとれば
\[f\left(u_1\right)=f\left(u_2\right)=\cdots=C^\prime\]
となる無数に多くの$u_1$、$u_2$、$\cdots$を見つけ得る。これに対する
\[f^\prime\left(u_1\right),\ f^\prime\left(u_2\right),\ \cdots\tag{5}\label{5}\]
の値はいずれも\[R_2\left(C^\prime,x\right)=0\]の方程式の根になっているはずだが、一般に代数方程式は有限個数しか相異なる根をもち得ないから、$\eqref{5}$の中には無数に多くの等しい値があると言える。それらに対する$u$の値を便宜上やはり$u_1$、$u_2$、$\cdots$で表すこととすれば
\[\left\{\begin{array}{l}\hphantom{^\prime}f\left(u_1\right)=f\left(u_2\right)=\cdots\\[1mm]f^\prime\left(u_1\right)=f^\prime\left(u_2\right)=\cdots\end{array}\right.\]
となる。そうすれば定理2により一般に
\[f^{(n)}\left(u_1\right)=f^{(n)}\left(u_2\right)=\cdots\hspace{1.5cm}\left(n\geqq2\right)\]
でなければならない。したがって$f(u)$のそれぞれ$u_1$及び$u_2$を中心とした展開式は一致しなければならない。すなわち
\[\left\{\begin{array}{l}f(u)=c_0+c_1\left(u-u_1\right)+c_2\left(u-u_1\right)^2+\cdots\\[1mm]f(u)=c_0+c_1\left(u-u_2\right)+c_2\left(u-u_2\right)^2+\cdots\end{array}\right.\]
この第一式において$u$を$u+u_1-u_2$に変えれば
\[f\left(u+u_1-u_2\right)=c_0+c_1\left(u-u_2\right)+c_2\left(u-u_2\right)^2+\cdots\]
となる。これを第二式と比較すれば
\[f\left(u+u_1-u_2\right)=f(u)\]
すなわち$f(u)$は$u_1-u_2$の周期をもつことがわかる。
そこで$u_1-u_2=\omega$とおき、平面の原点と点$\omega$を通る直線を$g$とし、$\omega$の整数倍の各点を通り$g$に垂線を引いて全平面を幅$\left|\omega\right|$の帯状の無限面分に分けたとする。
変数$u$が一つの周期帯の内にあっていずれか一方の向きに無限遠に近づくとき$\lim f(u)$が存在するならばこれをその方向における端値という。一つの周期帯内で無限遠に近づく方向が二つあるからその各々について端値の存否が考えられる、たとえ両方とも存在するとしてもその値は必ずしも等しいと限らない。
さて我々の考えている$f(u)$が上記の周期帯内で両方向ともに端値をもつ場合を考える。ここで
\[e^{\displaystyle\small\frac{2\pi iu}{\omega}}=z\]
とおけば$f(u)$は$z$の一価関数となる。これを$f(u)=\varphi(z)$とする。この置換によって$u$平面の周期帯は$z$平面の全部に対応し、周期帯の無限に延びた両端は$z=0$及び$\infty$に対応する。すると仮定により$f(u)$は有理型でかつ端値をもつから、$\varphi(z)$も$0$、$\infty$以外においては有理型でかつ$0$、$\infty$においても真性特異点をもつことはない。ゆえに$\varphi(z)$は$z$の有理関数である。
したがってこの場合は$f(u)$は$\displaystyle e^{cu}$の有理関数である。
参考文献
参考文献は以下の通り。
[1]竹内端三,『楕円関数論』,岩波書店,1936
出版社在庫無し、著作権消失済み。
[2]E.T. Whittaker, et al., A Course of Modern Analysis (AMS PRESS, 1927)
著作権消失済み。
[3]戸田盛和,『楕円関数入門』,日本評論社,2001
[4]戸田盛和,『臨時別冊・数理科学SGC ライブラリ49 ソリトンと物理学』,サイエンス社,2006
同出版社より電子書籍の形で復刊済み。
[5]Landau・Lifshitz,『力学』,東京図書,2017