$\def\bm#1{{\boldsymbol{#1}}}$
$\def\rmd#1{\mathrm{d}{#1}}$
$\def\Braket#1{\langle{#1}\rangle}$
$\def\Bra#1{\langle{#1}|}$
$\def\Ket#1{|{#1}\rangle}$
$\def\kb{k_{\text{B}}}$
$\def\dag{\dagger}$
$\def\ap{\alpha’}$
$\def\coloneqq{:=}$
弦理論入門01
点粒子から弦へ
弦理論の背後にある基本的なアイデアは、点粒子よりも、むしろ$1$次元的に伸びた弦を基本的な物体とみなすということである。時空上でこのような弦は、点粒子の場合のような世界線ではなく、$(1+1)$次元の世界面を掃く。
世界面$\Sigma$は固有時間$\tau$と弦の空間的広がり$\sigma$という$2$つの座標でパラメトライズされる。座標$\sigma$は$[0,\sigma_0]$の範囲で値をとる。但し、$\sigma_0$は後で便利な方法で選ばれる。基本的な弦の世界面の標的時空への埋め込みは関数$X^M(\tau,\sigma)$で与えられる。ここで我々は標的時空が計量$\eta_{MN}$の$D$次元ミンコフスキー時空であると仮定する。これは後で曲がった時空へと一般化される。弦の物理は標的時空への埋め込みのみに依存しており、世界面のパラメーターの取り方には依存していない。弦の不変作用を与える最も簡単なパラメーターの取り方は南部・後藤作用、
\begin{equation}
\mathcal{S}_{\mathrm{NG}}=-\dfrac{1}{2\pi\ap}\int_\Sigma d^2\sigma~\sqrt{-\mathrm{det}\left(\partial_\alpha X^M\partial_\beta X^N\eta_{MN}\right)}\label{eq:4.1}
\end{equation}
である。但し、$(\sigma^0,\sigma^1)\coloneqq(\tau,\sigma)$を用いて$d^2\sigma=\rmd \sigma^0\rmd \sigma^1$と仮定した。$\ap$は$\ap=l_\mathrm{s}^2$という関係を通して弦の長さ$l_\mathrm{s}$と関連している。これを用いて基本的な弦の張力を$\tau_{\mathrm{F}1}=\frac{1}{2\pi\ap}$とする。
ここで、質量$m$、速度$v$の点粒子の相対論的古典力学の作用は
\[
\mathcal{S}_{\mathrm{particle}}=-m\int\rmd t~\sqrt{1-v^2}=-m\int\rmd s
\]
と与えられる。但し、$\rmd s$は世界線の長さを測る線素である。この作用がローレンツ変換の下で不変であることは、作用が世界線の長さという、座標に依存しない幾何学的な量に比例していることから明らかである。また、世界線の上にどのような座標を導入しても作用は不変である。この点粒子の議論との類推から、弦の作用は世界面の面積に比例するような作用が適当であると推測することが出来る。そのような作用こそ、南部・後藤作用に他ならない。
南部・後藤作用には平方根の部分があるので、これを解析することは困難である。例えば、この作用で特徴づけられる理論を量子化することは非常に困難なものとなる。補助場としての世界面計量(上の式には$h_{\alpha\beta}$はあたかも世界面上の計量であるかのような形で入っている。これは、誘導軽量(induced metric)$G_{\alpha\beta}=\partial_\alpha X^M\partial_\beta X^N\eta_{MN}$に対して固有計量(intrinsic metric)と呼ばれる。)$h_{\alpha\beta}(\sigma)$を導入することで、(\ref{eq:4.1})の平方根は取り除くことが出来る。そうして得られる弦のダイナミクスはポリヤコフ作用、
\begin{equation}
\mathcal{S}_\mathrm{P}=-\dfrac{1}{4\pi\ap}\int_\Sigma d^2\sigma~\sqrt{-h}h^{\alpha\beta}\partial_\alpha X^M\partial_\beta X^N\eta_{MN}
\end{equation}
となる。但し、$h=\mathrm{det}(h_{\alpha\beta})$であり、$h^{\alpha\beta}$は$h_{\alpha\beta}$の逆行列、すなわち$h^{\alpha\beta}h_{\beta\gamma}=\delta^\alpha_\gamma$である。
南部・後藤作用とポリヤコフ作用の等価性
ここで、ポリヤコフ作用と南部・後藤作用が等価であることを示す。$h_{\alpha\beta}$は補助場であり、その微分が含まれていないので、運動方程式を解くことで消去することが出来る。今、計算の便宜上、$h_{\alpha\beta}$ではなく$h^{\alpha\beta}$を基本的な場であるとみなすことにして、ポリヤコフ作用を$h^{\alpha\beta}$で変分すると、
\[
\delta\mathcal{S}_{\mathrm{P}}=-\dfrac{1}{2}\int\sqrt{-h}\delta h^{\alpha\beta}\dfrac{1}{2\pi\ap}\left(G_{\alpha\beta}-\dfrac{1}{2}h_{\alpha\beta}h^{\gamma\delta}G_{\gamma\delta}\right)
\]
となる。これが、任意の変分$\delta h^{\alpha\beta}$に対して$0$となることを考えれば、南部・後藤作用に関連した表式が得られる。従って、
\[
G_{\alpha\beta}=\dfrac{1}{2}h_{\alpha\beta}h^{\gamma\delta}G_{\gamma\delta}
\]
であり、この式の両辺について行列式をとってマイナス符号をつけたものの平方根をとれば、
\[
\sqrt{-\mathrm{det}G_{\alpha\beta}}=\dfrac{1}{2}\sqrt{-h}h^{\gamma\delta}G_{\gamma\delta}
\]
となる。この式の両辺に$-\frac{1}{2\pi\ap}$をかけて世界面上で積分すれば、左辺は南部・後藤作用に、右辺はポリヤコフ作用になる。
さて、$h_{\alpha\beta}$についての運動方程式$\delta\mathcal{S}_{\mathrm{P}}/\delta h^{\alpha\beta}=0$を用いると、世界面のエネルギー・運動量テンソル$T_{\alpha\beta}$は消える必要があるということが結論づけられて、
\begin{equation}
T_{\alpha\beta}\coloneqq-\dfrac{4\pi\ap}{\sqrt{-h}}\dfrac{\delta\mathcal{S}_{\mathrm{P}}}{\delta h^{\alpha\beta}}=\partial_\alpha X^M\partial_\beta X^N\eta_{MN}-\dfrac{1}{2}h_{\alpha\beta}h^{\rho\sigma}\partial_\rho X^M\partial_\sigma X^N\eta_{MN}=0\label{eq:4.3}
\end{equation}
となる。故に世界面の計量をポリヤコフ作用から消すことが出来て、南部・後藤作用を得ることが出来る。方程式$T_{\alpha\beta}=0$はポリヤコフ作用のダイナミカルな場$X^M$へ拘束条件を課す。この拘束条件をヴィラソロ拘束条件という。従って、両者の作用は古典的なレベルでは同値な作用である。これから、ポリヤコフ作用を量子化の理論の視点から調べていくことにする。次回は、ポリヤコフ作用によって保存している対称性を調べてみよう。