$\def\bm#1{{\boldsymbol{#1}}}$
$\def\rmd#1{\mathrm{d}{#1}}$
$\def\Braket#1{\langle{#1}\rangle}$
$\def\Bra#1{\langle{#1}|}$
$\def\Ket#1{|{#1}\rangle}$
$\def\kb{k_{\text{B}}}$
$\def\dag{\dagger}$
$\def\ap{\alpha’}$
弦理論入門03
ミンコフスキー時空における弦のスペクトラム
ここでは弦の古典的な解について調べてみる。$X^M(\tau,\sigma)$を$\sigma^+$のみに依存する左モード$X^M_{(\mathrm{L})}$と$\sigma^-$のみに依存する右モード$X^M_{(\mathrm{R})}$に分解することで、前回導いた方程式は直ちに解くことが出来る。すなわち、
\begin{equation}
X^M(\tau,\sigma)=X^M_{(\mathrm{L})}(\sigma^+)+X^M_{(\mathrm{R})}(\sigma^-)\label{eq:4.12}
\end{equation}
となる。左モード$X^M_{(\mathrm{L})}$と右モード$X^M_{(\mathrm{R})}$はそれぞれフーリエ分解することが出来て、
\begin{equation}
\left\{
\begin{array}{rcl}
X^M_{(\mathrm{L})}(\sigma^+)=\dfrac{\tilde{x}_0^M}{2}+\dfrac{\ap}{2}\tilde{p}^M\sigma^++i\sqrt{\dfrac{\ap}{2}}\displaystyle\sum_{n\neq0}\dfrac{\tilde{\alpha}_n^M}{n}\mathrm{e}^{-in\sigma^+}\\
&&\\
X^M_{(\mathrm{R})}(\sigma^-)=\dfrac{x_0^M}{2}+\dfrac{\ap}{2}p^M\sigma^-+i\sqrt{\dfrac{\ap}{2}}\displaystyle\sum_{n\neq0}\dfrac{\alpha_n^M}{n}\mathrm{e}^{-in\sigma^-}
\end{array}
\right.\label{eq:4.13}
\end{equation}
という形になる。定数$x_0^M$、$\tilde{x}_0^M$は弦の質量中心に関係していて、$\left(x_0^M+\tilde{x}_0^M\right)/2$である。更に、$p^M$、$\tilde{p}^M$はモードの運動量であり、それゆえに質量中心の運動量は$\left(p^M+\tilde{p}^M\right)/2$である。後でように、$\alpha_0^M$と$\tilde{\alpha}_0^M$を$\alpha_0^M=\sqrt{\frac{\ap}{2}}p^M$、$\tilde{\alpha}_0^M=\sqrt{\frac{\ap}{2}}\tilde{p}^M$と導入しておくと便利である。$\alpha^M_{-n}=\left(\alpha^M_n\right)^*$かつ$\tilde{\alpha}^M_{-n}=\left(\tilde{\alpha}^M_n\right)^*$なので、$X^M$は実である必要があるという事も注意しなければならない。
世界面$\Sigma$の観点から、境界条件を満たすということには別の可能性もある。すなわち、自由な弦において、世界面は閉弦なら円柱の、開弦なら細長い切れ端のトポロジーを持つ。
初めに$\sigma_0=2\pi$であるような(今、$0$は下付きなので座標変数$\sigma^0$とは関係無い。混乱しないように注意。)、つまり空間方向の広がりが$\sigma\in[0,2\pi]$という範囲であるような$\sigma$についての閉弦を議論しよう。埋め込みの関数$X^M(\tau,\sigma)$は周期的境界条件、
\begin{equation}
X^M(\tau,0)=X^M(\tau,2\pi) 、 \partial_\sigma X^M(\tau,0)=\partial_\sigma X^M(\tau,2\pi)\label{eq:4.14}
\end{equation}
を満たす。また、$h_{\alpha\beta}(\tau,0)=h_{\alpha\beta}(\tau,2\pi)$である。周期的恒等式によって、上の境界項の式は自動的に満たされている。$p^M=\tilde{p}^M$とすれば、左モード及び右モードは境界条件を満たす。更に、$x_0^M=\tilde{x}_0^M$とすることも便利である。
次に$\sigma_0=\pi$とするのが便利であるような、つまり空間方向の広がりが$\sigma\in[0,\pi]$という範囲であるような$\sigma$についての開弦を議論しよう。但し、$2$つの端点は$\sigma=0$、$\sigma=\pi$であるとする。$\bar{\sigma}$を$\bar{\sigma}=0$もしくは$\bar{\sigma}=\pi$である、すなわち、$\bar{\sigma}$は$2$つの端点のうちの$1$つであると約束する。消える必要がある境界項は次の$2$つの異なる境界条件となる可能性がある。
ノイマン境界条件
\begin{equation}
\partial_\sigma X^M(\tau,\bar{\sigma})=0\label{eq:4.15}
\end{equation}
ディリクレ境界条件
\begin{equation}
\delta X^M(\tau,\bar{\sigma})=0\label{eq:4.16}
\end{equation}
これは$\sigma=\bar{\sigma}$で与えられるような弦の端点が$\bar{x}_0^M$に固定されている、つまり
\begin{equation}
X^M(\tau,\bar{\sigma})=\bar{x}_0^M\label{eq:4.17}
\end{equation}
であるということを意味している。
いずれの境界条件も弦のそれぞれの端点とそれぞれの標的時空次元について独立に実現することが出来る。唯一の例外は、ノイマン境界条件を課す必要のある時間方向である。空間方向については、$\bar{\sigma}=0$で与えられる弦の端点にディリクレ境界条件もしくはノイマン境界条件を課すことが出来る。また、$\bar{\sigma}=\pi$で与えられる他の弦の端点にディリクレ境界条件もしくはノイマン境界条件を課すことも出来る。いずれの境界条件もノイマン境界条件を課す場合、境界条件をNN と略記し、これに対して、いずれの境界条件もディリクレ境界条件を課す場合、境界条件をDD と略記する。$2$つの端点の境界条件にノイマン境界条件とディリクレ境界条件が混ざっている場合、$\bar{\sigma}=0$で与えられる端点がディリクレ境界条件なのかノイマン境界条件なのかに基づいて境界条件をDN またはND と略記することにする。