$\def\bm#1{{\boldsymbol{#1}}}$
$\def\rmd#1{\mathrm{d}{#1}}$
$\def\Braket#1{\langle{#1}\rangle}$
$\def\Bra#1{\langle{#1}|}$
$\def\Ket#1{|{#1}\rangle}$
$\def\kb{k_{\text{B}}}$
$\def\dag{\dagger}$
$\def\ap{\alpha’}$
弦理論入門04
ミンコフスキー時空における弦のスペクトラム(続き)
標的時空座標$X^M$において、NN 境界条件の場合、$X^M(\tau,\sigma)$を以下の形式のモードに分解することが出来る。
\begin{equation}
X^M(\tau,\sigma)=x_0^M+2\ap p^M\tau+i\sqrt{2\ap}\sum_{n\neq0}\dfrac{\alpha_n^M}{n}\mathrm{e}^{-in\tau}\cos{(n\sigma)}\label{eq:4.18}
\end{equation}
ここで、我々は$\alpha_0^M=\sqrt{\frac{\ap}{2}}p^M$と定義することも出来る。NN 境界条件におけるモード展開では質量中心における$x_0^M$と$p^M$で与えられるということには注意を要する。つまり、ここでの$x_0^M$は$x_0^M$、$\tilde{x}_0^M$に対して
\[
x_0^M = \dfrac{x_0^M+\tilde{x}_0^M}{2}
\]
と再定義していることになる。また、$p^M$も今までの$p^M$を$2p^M$と再定義している。加えて、以下の式が成り立つために、$p^M$は閉弦における全運動量である。
\begin{equation}
p^M=\int_0^\pi d\sigma~\Pi^M(\tau,\sigma) 、 正準運動量 \Pi^M(\tau,\sigma)=\dfrac{\partial_\tau X^M(\tau,\sigma)}{2\pi\ap}\label{eq:4.19}
\end{equation}
特に、NN 境界条件における全運動量$p^M$は保存している。閉弦のときとは対照的に、我々は実条件$\alpha^M_{-n}=\left(\alpha^M_n\right)^*$を満たすような$1$組の振動子$\alpha^M_n$を要するだけである。
次に、$X^M$におけるDD 境界条件を考えよう。境界条件のおかげで、$X^M$は$X^M(\tau,0)=x_{\mathrm{i}}^M$と$X^M(\tau,\pi)=x_{\mathrm{f}}^M$を満たす必要がある。但し、$x_{\mathrm{i}}^M$と$x_{\mathrm{f}}^M$はいずれも弦の端点の座標である。モード展開は
\begin{equation}
X^M(\tau,\sigma)=x^M_{\mathrm{i}}+\dfrac{1}{\pi}(x^M_{\mathrm{f}}-x^M_{\mathrm{i}})\sigma+\sqrt{2\ap}\sum_{n\neq0}\dfrac{\alpha^M_n}{n}\mathrm{e}^{-in\tau}\sin{(n\sigma)}\label{eq:4.20}
\end{equation}
と与えられる。開弦の運動量$p^M$はDD 境界条件において明らかに保存しない。しかしながら、ディリクレ境界条件を課すことによって並進方向の不変性がこの方向で破られ、運動量が保存されなくなるため、これは驚くには値しない。運動量はどこへ流れるだろうか?開弦の端点は$x^M=x_{\mathrm{i}}^M$と$x^M=x_{\mathrm{f}}^M$でパラメトライズされた$2$つの超曲面に留まり、これらの超曲面は開弦の運動量を吸収する必要があり、それゆえにダイナミカルになる必要がある。$x_{\mathrm{i}}^M=x_{\mathrm{f}}^M$の場合には、我々は$2$つの端点が留まっているような$1$つの超曲面を有するだけで良い。これらのような開弦の端点が留まるダイナミカルな物体はディリクレブレーン、もしくは略してD ブレーンと呼ばれる。D ブレーンはノイマン 境界条件が課された方向に拡がっており、ディリクレ 境界条件が課された方向に横断している。
練習問題
ND 境界条件、すなわち、$\bar{\sigma}=0$におけるノイマン境界条件と$X^M(\tau,\pi)=x_{\mathrm{f}}^M$の$\bar{\sigma}=\pi$におけるディリクレ境界条件でのモード展開を実行せよ。
$\sigma=0$でのノイマン境界条件より、
\[
\partial_\sigma X^M(\tau,\sigma)\biggr|_{\sigma=0}=\dfrac{\ap}{2}(\tilde{p}^M-p^M)+\sqrt{\dfrac{\ap}{2}}\sum_{n\neq0}\left\{\mathrm{e}^{-in\tau}\left(\tilde{\alpha}^M_n-\alpha^M_n\right)\right\}=0
\]
であるから、$\tilde{p}^M=p^M$と$\tilde{\alpha}^M_n=\alpha^M_n$が結論される。これより、
\[
X^M(\tau,\sigma)=x^M_0+\ap p^M\tau+i\sqrt{\dfrac{\ap}{2}}\sum_{n\neq0}\dfrac{\alpha^M_n}{n}\mathrm{e}^{-in\tau}(\mathrm{e}^{-in\sigma}+\mathrm{e}^{in\sigma})
\]
である。これを用いると、$\sigma=\pi$でのディリクレ境界条件より、
\[
\partial_\tau X^M(\tau,\sigma)\biggr|_{\sigma=\pi}=\ap p^M+\sqrt{\dfrac{\ap}{2}}\sum_{n\neq0}\alpha^M_n\mathrm{e}^{-in\tau}(\mathrm{e}^{-in\pi}+\mathrm{e}^{in\pi})=0
\]
であるから、$p^M=0$と$n\in\mathbb{Z}+\frac{1}{2}$が結論される。これによって、
\[
X^M(\tau,\sigma)=x^M_0+i\sqrt{\dfrac{\ap}{2}}\sum_{n\in\mathbb{Z}+\frac{1}{2}}\dfrac{\alpha^M_n}{n}\mathrm{e}^{-in\tau}(\mathrm{e}^{-in\sigma}+\mathrm{e}^{in\sigma})
\]
と得られる。そしてこのとき、
\[
X^M(\tau,\sigma)\biggr|_{\sigma=\pi}=x^M_{\mathrm{f}} \Longleftrightarrow x_0^M=x^M_{\mathrm{f}}
\]
であるから、結局、このときのモード展開は
\[
X^M(\tau,\sigma)=x^M_{\mathrm{f}}+i\sqrt{2\ap}\sum_{n\in\mathbb{Z}+\frac{1}{2}}\dfrac{\alpha^M_n}{n}\mathrm{e}^{-in\tau}\cos{(n\sigma)}
\]
となる。
まとめ
我々は古典的な運動方程式と境界条件を解いた。しかし、まだ完璧にやり終えた訳ではない。加えて、ヴィラソロ拘束条件を満たす必要がある。閉弦において、
\begin{equation}
T_{++}=\ap\sum_m\tilde{L}_m\mathrm{e}^{-im\sigma^+} 、 T_{–}=\ap\sum_mL_m\mathrm{e}^{-im\sigma^-}\label{eq:4.21}
\end{equation}
を導入すると、拘束条件は
\begin{equation}
\tilde{L}_m=L_m \mathrm{for~all~}m\label{eq:4.22}
\end{equation}
となる。但し、
\begin{equation}
\tilde{L}_m=\dfrac{1}{2}\sum_n\tilde{\alpha}^M_n\tilde{\alpha}_{m-n,M} 、 L_m=\dfrac{1}{2}\sum_n\alpha^M_n\alpha_{m-n,M}\label{eq:4.23}
\end{equation}
である。開弦の場合は、我々は$\alpha_n^M$というただ$1$種類の振動モードのみを持っているので、$L_m=0$と定める必要がある。
今までの我々の議論は全て古典的なものであった。次に同時間正準交換関係
\begin{equation}
[X^M(\tau,\sigma),\Pi^N(\tau,\sigma’)]=i\eta^{MN}\delta(\sigma-\sigma’)\label{eq:4.24}
\end{equation}
を課すことによって開弦と閉弦の量子化をすることを考えよう。例えば、全ての$D$次元標的時空でのNN 境界条件を満たす開弦において、モード展開を用いることで、消えない交換関係は以下のもののみということが結論づけられる。
\begin{equation}
[x^M_0,p^N]=i\eta^{MN} \mathrm{and} [\alpha^M_m,\alpha^N_n]=m\eta^{MN}\delta_{m,-n}\label{eq:4.25}
\end{equation}
任意の$m$における生成演算子$a^{M\dag}_m$と消滅演算子$a^M_m$を
\begin{equation}
a^M_m=\dfrac{1}{\sqrt{m}}\alpha^M_m \mathrm{and} a^{M\dag}_m=\dfrac{1}{\sqrt{m}}\alpha^M_{-m}\label{eq:4.26}
\end{equation}
と定義する。これによって交換関係を
\begin{equation}
[a^M_m,a^{N\dag}_n]=\eta^{MN}\delta_{mn} 、 [a^M_m,a^N_n]=[a^{M\dag}_m,a^{N\dag}_n]=0\label{eq:4.27}
\end{equation}
と表現することが出来る。$m$と$M$で特徴づけられるようなそれぞれの弦のモードは$a^0_m$、$a^{0\dag}_m$を別扱いとする調和振動子のヒルベルト空間を生じさせる。この場合、交換関係$[a^0_m,a^{0\dag}_m]=-1$を満たすので、これに関連するヒルベルト空間は負のノルムの状態を含む。賢明な量子論を得るためには、これらの負のノルム状態が理論から分離することを示す必要がある。実際、これは実現され、それはヴィラソロ拘束条件の結果であるということをこれから見ていく。