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【弦理論入門05】ボソン弦の理論5

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$\def\bm#1{{\boldsymbol{#1}}}$
$\def\rmd#1{\mathrm{d}{#1}}$
$\def\Braket#1{\langle{#1}\rangle}$
$\def\Bra#1{\langle{#1}|}$
$\def\Ket#1{|{#1}\rangle}$
$\def\kb{k_{\text{B}}}$
$\def\dag{\dagger}$
$\def\ap{\alpha’}$

弦理論入門05

ミンコフスキー時空における弦のスペクトラム(続き)

負のノルム状態はゲージ理論で既に生じており、ゲージ対称性を固定することで回復させることが出来る。弦理論において、レレバントなゲージ対称性は微分同相写像であり、共形ゲージを用いることによって固定した、ヴィラソロ拘束条件を生じさせるようなワイル対称性になっている。これらのヴィラソロ拘束条件は、これからやる光錐座標系の下では直ちに解くことが出来る。$X^\pm=X^0\pm X^{D-1}$と定義し、
\begin{equation}
X^+=x^+_0+2\ap p^+\tau\label{eq:4.28}
\end{equation}
と採ると、$X^-$を$X^i~(i=1,\cdots,D-2)$と定数$x_0^-$による$X^+$の関数として表現することで、ヴィラソロ拘束条件を解くことが出来る。故に運動の自由度は$M\rightarrow i$、$N\rightarrow j$、$\eta^{MN}\rightarrow\delta^{ij}$としたときの交換関係を満たす$p^i$、$x_0^i$,
$a_m^i$、$a_m^{i\dag}~(i=1,\cdots,D-2)$であるのと同様に$p+$、$x_0^-$である。真空$\Ket{0,k}$を
\begin{equation}
p^M\Ket{0,k}=k^M\Ket{0,k} 、 a^i_m\Ket{0,k}=0\label{eq:4.29}
\end{equation}
と定義すると、$a_m^{i\dag}$を$\Ket{0,k}$に作用させることで一般の状態$\Ket{N,k}$を
\begin{equation}
\Ket{N,k}=\left[\prod_{i=1}^{D-2}\prod_{n=1}^\infty\dfrac{\left(a^{i\dag}_n\right)^{N_{in}}}{\sqrt{N_{in}!}}\right]\Ket{0,k}\label{eq:4.30}
\end{equation}
と構成することが出来る。ここで、$N_{in}$はそれぞれのモードの占有数である。すなわち、$\Ket{N,k}$は
\begin{equation}
a^{i\dag}_na^i_n\Ket{N,k}=N_{in}\Ket{N,k}\label{eq:4.31}
\end{equation}
を満たす。但し、左辺の$i$と$n$は和を取らない。では、ヴィラソロ拘束条件を実行してみよう。この目的のために、生成・消滅演算子$a_m^{i\dag}$、$a_m^i$を$L_n~n\neq0$で書き直す。$L_0$については正規順序化の曖昧さがあるため注意が必要である。$L_0$は
\begin{equation}
L_0=\ap p^Mp_M+\sum_{i=1}^{D-2}\sum_{n=1}^\infty na^{i\dag}_na^i_n=:\ap p^Mp_M+N\label{eq:4.32}
\end{equation}
と書くことが出来る。物理的な状態$\Ket{\psi}$はヴィラソロ拘束条件を解決する必要があるので、
\begin{equation}
(L_0-a)\Ket{\psi}=0 、 L_n\Ket{\psi}=0 \mathrm{for~all~n\in\mathbb{N}}\label{eq:4.33}
\end{equation}
となることが必要である。但し、$a$は順序化のあいまいさから生じるもので、
\begin{equation}
a=\dfrac{D-2}{2}\sum_{n\geq0}n\label{eq:4.34}
\end{equation}
で与えられる。素朴には、この和は発散するが、ゼータ関数正則化を用いることで$a$は
\begin{equation}
a=-\dfrac{D-2}{24}\label{eq:4.35}
\end{equation}
と与えられることになる。

練習問題

無限和$\sum_{n=1}^\infty n$を微小な$\epsilon$についての式$\sum_{n=1}^\infty n\mathrm{e}^{-\epsilon n}$によって正則化し、
\[
\sum_{n=1}^\infty n\mathrm{e}^{-\epsilon n}\sim\dfrac{1}{\epsilon^2}-\dfrac{1}{12}+\mathcal{O}(\epsilon^2)
\]
を示せ。$a$の式はどのようにして得られるだろうか?

以下のように計算する。まず無限級数の公式を利用して、

\begin{align}
\sum_{n=1}^\infty(\mathrm{e}^{-\epsilon})^n= & ~ \dfrac{\mathrm{e}^{-\epsilon}}{1-\mathrm{e}^{-\epsilon}}=\dfrac{1}{\mathrm{e}^{\epsilon}-1}\nonumber\\
=&\dfrac{1}{\left(1+\epsilon+\dfrac{\epsilon^2}{2!}+\dfrac{\epsilon^3}{3!}+\cdots\right)-1}=\dfrac{1}{\epsilon}\times\dfrac{1}{1+\left(\dfrac{1}{2}\epsilon+\dfrac{1}{6}\epsilon^2+\mathcal{O}(\epsilon^3)\right)}\nonumber\\
=&\dfrac{1}{\epsilon}\left\{1-\left(\dfrac{1}{2}\epsilon+\dfrac{1}{6}\epsilon^2+\mathcal{O}(\epsilon^3)\right)+\left(\dfrac{1}{2}\epsilon+\dfrac{1}{6}\epsilon^2+\mathcal{O}(\epsilon^3)\right)^2\mp\cdots\right\}\nonumber\\
=&\dfrac{1}{\epsilon}\left\{1-\dfrac{1}{2}\epsilon+\left(-\dfrac{1}{6}+\dfrac{1}{2^2}\right)\epsilon^2+\mathcal{O}(\epsilon^3)\right\}=\dfrac{1}{\epsilon}-\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{12}\epsilon+\mathcal{O}(\epsilon^2)\nonumber
\end{align}
を得る。これを利用すれば、
\[
\sum_{n=1}^\infty n\mathrm{e}^{-\epsilon n}=-\dfrac{d}{d\epsilon}\sum_{n=1}^\infty(\mathrm{e}^{-\epsilon})^n=\dfrac{1}{\epsilon^2}-\dfrac{1}{12}+\mathcal{O}(\epsilon)\overset{\epsilon\rightarrow0}{\sim}\sum_{n=1}^\infty n
\]
と正則化を行うことが出来る。これは、第$1$項が発散項、第$2$項が定数項、第$3$項が消滅項に対応している。
この宇宙を創った神はどんな級数にも真の値となる有限確定値を決めているはずであると信じて、無限級数の見かけの量が発散項と定数項と消滅項の和になっているときは、消滅項は全体に寄与せず、発散項は繰り込めると解釈し、定数項だけがその級数の実際の値であると考える。これは、数学的には$s>1$で収束する級数、
\[
\sum_{n=1}^\infty\dfrac{1}{n^s}
\]
を解析接続して定義されるリーマンのゼータ関数$\zeta(s)$の$s=-1$での値が
\[
1+2+3+\cdots=\dfrac{1}{1^{-1}}+\dfrac{1}{2^{-1}}+\dfrac{1}{3^{-1}}+\cdots\sim\zeta(-1)=-\dfrac{1}{12}
\]
となることに対応する。
先の式を用いることで、弦の状態の質量は
\begin{equation}
M^2=\dfrac{1}{\ap}\left(N+\dfrac{2-D}{24}\right)\label{eq:4.36}
\end{equation}
と決定することが出来る。但し、$N$は暗に定義されていた。さて、最も質量が低い状態の開弦のスペクトラムを決定しよう。最も軽い状態は、質量が$M^2=(2-D)/(24\ap)$の真空$\Ket{k,0}$である。$D>2$のとき、質量の$2$乗は負になる。すなわち、$\Ket{k,0}$はタキオン的になり、それ故に真空は不安定になる。ボソン的弦理論に安定した真空が存在するかは知られていないが、超弦理論における真空は安定であることが分かっている。そのため、この問題にはこれ以上立ち入らない。

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