$\def\bm#1{{\boldsymbol{#1}}}$
$\def\rmd#1{\mathrm{d}{#1}}$
$\def\Braket#1{\langle{#1}\rangle}$
$\def\Bra#1{\langle{#1}|}$
$\def\Ket#1{|{#1}\rangle}$
$\def\kb{k_{\text{B}}}$
$\def\dag{\dagger}$
弦理論入門10
超弦理論の導入
これまで議論してきたBoson 的弦理論は主に$2$つの欠点を抱えている。まず、開弦のセクターも閉弦のセクターもタキオンを有しているため、すなわち、質量の$2$乗が負になる状態がある。そして、Boson 的弦理論には自然界で観測されているFermion の自由度が欠落している。
Fermion の自由度は超対称性を導入することで自然に得られる(弦理論では弦の世界面と標的時空という$2$種類の時空が存在するため、超対称性を導入する際にどちらを時空と解釈するかによって$2$種類の方法がある。最終的に必要なのは標的時空上の超対称性である。標的時空に対して直接超対称性を導入する方法はGreen-Schwarz の定式化と呼ばれる。これに対して、時空座標$X^M$それぞれにFermion 場$\Psi^M$を導入する方法はRamond-Neveu-Schwarz の定式化と呼ばれる。ここでは後者を用いている。
Ramond-Neveu-Schwarz の定式化で得られる弦の作用の超対称性は世界面上の超対称性であるが、後で出てくるGSO 射影という処方によって、Green-Schwarz の定式化と同様の標的時空上の超対称性を得ることが出来る。Ramond-Neveu-Schwarz の定式化では世界面上に超共形対称性が存在するため、共形場理論の手法が利用出来るという特徴がある。)。共形ゲージ$h_{\alpha\beta}(\tau,\sigma)=\mathrm{e}^{2\omega(\tau,\sigma)}$における弦の位置$X^M$とその世界面での超パートナー$\Psi^M$に関して超対称化されたPolyakov 作用は以下で与えられる。
\begin{equation}
\mathcal { S } = – \frac { 1 } { 4 \pi \alpha ^ { \prime } } \int \mathrm { d } ^ { 2 } \sigma \eta ^ { \alpha \beta } \left( \partial _ { \alpha } X ^ { M } \partial _ { \beta } X ^ { N } + i \bar { \Psi } ^ { M } \gamma _ { \alpha } \partial _ { \beta } \Psi ^ { N } \right) g _ { M N } ( X )
\end{equation}
ここでは、再び平らな$D$次元標的空間、すなわち、$g_{MN}=\eta_{MN}$の場合を考えている。$\Psi^M$は$2$次元世界面上のスピノールである。これらはMajorana スピノール、すなわち、$2$つの実成分$\psi^M_\pm$を用いて$\Psi^M=(\psi_-^M,\psi_+^M)^{\mathrm{T}}$と選ぶことが出来る。それと同時に、これらのスピノール$\Psi^M$は標的空間では添字が$M$で指し示されたベクトルである。$\gamma^\alpha$は$1$つの可能な表現として、
\begin{equation}
\gamma ^ { 0 } = \left( \begin{array} { c c } { 0 } & { – i }\\ { i } & { 0 } \end{array} \right) , \quad \gamma ^ { 1 } = \left( \begin{array} { c c } { 0 } & { i }\\ { i } & { 0 } \end{array} \right)
\end{equation}
と書かれた世界面のDirac 行列である。故に、作用のFermion 的な部分は
\begin{equation}
\mathcal { S } _ { \mathrm { f } } = \frac { i } { 2 \pi \alpha ^ { \prime } } \int \mathrm { d } ^ { 2 } \sigma \left( \psi _ { – } ^ { M } \partial _ { + } \psi _ { – M } + \psi _ { + } ^ { M } \partial _ { – } \psi _ { + M } \right)
\end{equation}
と書き直すことが出来る。Boson 的セクターのときと同様、運動方程式は左回り成分と右回り成分を記述していて、
\begin{equation}
\partial _ { + } \psi _ { – } ^ { M } = \partial _ { – } \psi _ { + } ^ { M } = 0
\end{equation}
が成り立つ。全作用は世界面での超対称性変換$\delta_\epsilon X^M=\bar{\epsilon}\Psi^M$と$\delta_\epsilon\Psi^M=\gamma^\alpha\partial_\alpha X^M\epsilon$の下で不変である。但し、$\epsilon$はMajorana スピノールの微小定数である。
作用をそれぞれ部分積分すると、境界条件が課された境界項
\begin{equation}
\delta \mathcal { S } _ { \mathrm { f } } = \frac { i } { 4 \pi \alpha ^ { \prime } } \int \mathrm { d } \tau \left( \psi _ { – } ^ { M } \delta \psi _ { – M } – \psi _ { + } ^ { M } \delta \psi _ { + M } \right) \biggr| _ { \sigma = 0 } ^ { \sigma = \pi }
\end{equation}
を得る。Boson 的弦理論の場合のように、これから境界条件を満たす$2$種類の異なる弦、すなわち、開弦と閉弦について議論する。$X^M$についての解析は先にやった通りである。故に、我々はFermion 的な場$\psi^M_\pm$についてのみ議論をする。
GSO 射影
上で登場したGSO 射影について簡単に解説しておく。GSO射影(Gliozzi-Scherk-Olive Projection)は、超弦理論において登場する重要な手法で、理論の一貫性と物理的意味を確保するために導入される。
GSO射影は、理論のスペクトル(許容される状態の集合)を制限し、超対称性が実現するように調整される。これにより、ボソンとフェルミオンの間の対称性が保たれ、超弦理論が一貫した形になる。
GSO射影は、世界面上のフェルミオンに関するパリティ($(-1)^F$)を用いて実現される。ここで$F$はフェルミオン数を表し、状態の選択基準として作用するものとする。具体的には、特定のパリティ条件を満たす状態のみを物理的に許容されるスペクトルとして残す。
GSO射影を適用することで、超弦理論のタイプI、タイプII、ヘテロ弦のような安定で一貫した理論が構築される。また、このプロセスは理論のチャージ対称性や一貫性(アノマリーの消去)を保証する重要なステップでもある。
まとめると、GSO射影は「不整合な状態を取り除き、超弦理論を整えるフィルター」のような役割を担っている。