$\def\bm#1{{\boldsymbol{#1}}}$
$\def\rmd#1{\mathrm{d}{#1}}$
$\def\Braket#1{\langle{#1}\rangle}$
$\def\Bra#1{\langle{#1}|}$
$\def\Ket#1{|{#1}\rangle}$
$\def\kb{k_{\text{B}}}$
$\def\dag{\dagger}$
弦理論入門10
開いた超弦
開弦のセクターにおいて、$\sigma=0$と$\sigma=\pi$から生じる寄与は別々に消える。これは以下の式と同等である。
\begin{equation}
\psi_-^M\delta\psi_{-M}-\psi_+^M\delta\psi_{+M}\biggr|_{\sigma=0,\pi}=0\Longleftrightarrow\delta(\psi_{+M})^2\biggr|_{\sigma=0,\pi}=\delta(\psi_{-M})^2\biggr|_{\sigma=0,\pi}=0
\end{equation}
スピノールの全ての成分の符号は任意に選ぶことが出来るから、$\psi^M_+(\tau,0)=\psi^M_-(\tau,0)$を課す。これにより$\sigma=\pi$での境界条件は、理論のNeveu-Schwarz(NS) セクターとRamond(R) セクターという$2$つに分かれることとなって、
\begin{equation}
\left\{
\begin{array}{rl}
\mathrm { R } : & \psi _ { + } ^ { M } ( \tau , \pi ) = + \psi _ { – } ^ { M } ( \tau , \pi )\\
&\\
\mathrm { NS } : & \psi _ { + } ^ { M } ( \tau , \pi ) = – \psi _ { – } ^ { M } ( \tau , \pi ) \end{array}
\right
\end{equation}
が成り立つ。これらの境界条件はGrassmann 数的な値を取るFourier モード$d_n$、$b_r$を用いたFourier 展開を生じて、
\begin{equation}
\left\{
\begin{array}{rl}
\mathrm { R } : & \psi _ { \mp } ^ { M } ( \tau , \pi ) = \dfrac { 1 } { \sqrt { 2 } } \displaystyle\sum _ { n \in \mathbb { Z } } d _ { n } ^ { M } e ^ { – i n \sigma _ { \mp } }\\
&\\
\mathrm { NS } : & \psi _ { \mp } ^ { M } ( \tau , \pi ) = \dfrac { 1 } { \sqrt { 2 } } \displaystyle\sum _ { r \in \mathbb { Z } – \frac { 1 } { 2 } } b _ { r } ^ { M } e ^ { – i r \sigma _ {\mp} }
\end{array}\right.
\end{equation}
となる。ここでもBoson 的弦理論のときにFourier モードを演算子に昇格して、(反)交換関係を課したのと同じようにする。$d_n$と$b_r$についての反交換関係は、
\begin{equation}
\left\{ d _ { m } ^ { M } , d _ { n } ^ { N } \right\} = \eta ^ { M N } \delta _ { m , – n } , \quad \left\{ b _ { r } ^ { M } , b _ { s } ^ { N } \right\} = \eta ^ { M N } \delta _ { r , – s }
\end{equation}
となる。これらのモードは理論の状態を構成するために利用することが出来る。NS セクターの場合、基底状態は$r>0$での$b^M_r\Ket{0}_{\mathrm{NS}}=0$で定義され、$r<0$でのモード$b^M_r$は生成演算子である。R セクターでも、基底状態は$m>0$での$d^M_m$によって消滅させられるように定義される。しかしながら、$m>0$で$\{d^M_m,d^N_0\}=0$となるので、すなわち、$d^M_0$はもう$1$つの基底状態を取ることになるため、R セクターではこの基底状態は縮退している。$d^M_0$はこの代数を満たすから、我々は$d^M_0$を標的空間のガンマ行列$\Gamma^M$を用いて表現することが出来る。故に、R セクターの基底状態は時空のスピンが$1/2$の時空のスピノールである。
より高い弦の状態は、生成演算子$r,m<0$での$b_r$と$d_m$をR セクターとNS セクターの基底状態にそれぞれ作用させることで得られる。モード$b_r$と$d_m$は反可換であり、それ故に我々はたった$1$度しかそれぞれの生成演算子を作用させることが出来ない。 Boson 的弦理論の場合のように、我々はこれらの状態の質量を計算することが出来る。例えば、NS セクターにおける励起状態(ここで、$b^M_{-1/2}$の添字$M$を$i=1,\cdots,D-2$に置き換えたことに注意せよ。厳密には、ここで、Virasoro 拘束条件を解くために標的時空での光錐座標を再び導入している。)$b^i_{-1/2}\Ket{0}_{\mathrm{NS}}=0$は \begin{equation} M ^ { 2 } = \frac { 1 } { \alpha ^ { \prime } } \left( \frac { 1 } { 2 } - \frac { D - 2 } { 16 } \right) \end{equation} という質量を持ち、$SO(D-2)$の下でベクトルとして変換する。しかしながら、我々は、状態が零質量でない限り$SO(D-1)$であると予測していた。故に、超弦理論において、$D=10$次元であると結論づけることが出来る。このことは、ただちに、NS 基底状態$\Ket{0}_{\mathrm{NS}}$が$M^2=-1/2\alpha'$でタキオン的であるということを示唆する。R セクターでは、真空は零質量であるがそれでもなお両方のカイラリティを有している。$10$次元において、$SO(8)$の表現による零質量の開弦の状態が分類されている。$\mathbf{8_v}$は$SO(8)$の基本表現を示しているのに対して、$\mathbf{8}$と$\mathbf{8}'$は相反するカイラリティのスピノール的な既約表現になっている。 R セクターでのカイラリティのうちの$1$つと同様に、NS セクターでのタキオンを排除するためには、真空にFermion 的な生成演算子が何回掛ったかを数えるようなFermion 数$\exp{(i\pi F)}$を導入する必要がある。我々は奇数個の生成演算子が$\Ket{0}_{\mathrm{NS}}$に作用したときだけ、それらの状態を保つ。R セクターでは、我々は偶数個の生成演算子が真空に作用したときだけ状態を保つのか、奇数個の生成演算子が真空に作用したときだけ状態を保つのかを選択する。その選択によって、R セクターにおける物理的な零質量の弦の状態は確かなカイラリティを持ち、それが実になる、すなわち、Majorana-Weyl スピノールとなる。 この切り捨て(truncation)処方は、Gliozzi, Schreck, Olive にちなんでGSO 射影として知られており、全てのタキオン的状態を射影し、更に、各質量レベルで同数のFermion とBoson を残す。従って、これは標的時空の超対称性へつながる。例えば、零質量レベルでは$\{b^i_{-1/2}\Ket{0}_{\mathrm{NS}}\Ket{0}_{\mathrm{R}}\}$が残る。これは、$\mathcal{N}=1$超対称性ゲージ多重項であると同定出来る。ここで、$b^i_{-1/2}\Ket{0}_{\mathrm{NS}}$はBoson であり、対して、時空のスピノール$\Ket{0}_{\mathrm{R}}$はゲージーノである。 GSO 射影の詳細は前回のコラムにまとめてある。