弦理論入門19
S双対性(S-duality)は、弦理論における重要な双対性の一つで、理論の結合定数 gs(弦の相互作用の強さ)に関する自己双対性である。この双対性により、強結合領域(gs≫1)での理論が、弱結合領域(gs≪1)での別の理論として記述できる。
具体的には、ある弦理論の結合定数 gs と別の理論の結合定数が逆数の関係にある場合、これらの理論は物理的に等価とみなされる。この性質により、強結合領域での理論を弱結合領域の計算可能な方法で解析することができる。
例えば、タイプIIB超弦理論では、理論は自己双対的であり、S双対性により強結合と弱結合の対応が確立されている。一方、ヘテロ弦理論では、ヘテロSO(32)理論とヘテロE8×E8理論の間にS双対性が存在する。
この双対性は、異なる弦理論の間の深い関係を明らかにし、弦理論が統一的なフレームワークの中で記述可能であることを示唆している。ここでは、このS双対性についてより詳細にまとめることにしよう。
S 双対性
S 双対性とは、弱い結合領域にある超弦理論は強い結合領域にあるもう1つの超弦理論に写されるという意味の強弱結合双対性(strong-weak coupling duality)である。T 双対性でコンパクト化された次元の半径Rがα′/Rへ写ったのと同じように、S 双対性では弦の結合定数gsが1/gsへ写るという関係がある。
S 双対性が存在する理論の典型例はIIB 型超弦理論である。IIB 理論はS 双対性変換の下でIIB 理論へ写される。このことは、S 双対性がIIB 型超弦理論のSL(2,Z)対称性の特別な場合であるという事実に依っている。零質量の場合のIIB 型超弦理論のスペクトラムでは、スカラーϕとC(0)と2形式のポテンシャルB(2)とC(2)がそれぞれペアになって存在している。R-R スカラーC(0)とディラトン場ϕを複素スカラーτ=C(0)+iexp(−ϕ)と採ると、IIB 型超重力理論の運動方程式のSL(2,Z)対称性は、ad−bc=1を満たすような実数のパラメーターa、b、c、dを用いて以下のようにはたらく。
τ↦aτ+bcτ+d
更に、R-R 2形式ポテンシャルC(2)とNS-NS 2形式ポテンシャルB(2)も次のように変換する。
(B(2)C(2))↦(d–c–ba)(B(2)C(2))
電荷の量子化によってこの対称性の群はフルな超弦理論のSL(2,Z)に分解する。この対称性の特別な場合こそがS 双対性なのである。もしR-R スカラーC(0)が消えるなら、IIB 型超弦理論の結合定数gs=exp(ϕ)は、a=d=0かつb=−c=1のときのSL(2,Z)変換によって1/gsへ写される。すなわち、
ϕ↦–ϕ,B(2)↦C(2),C(2)↦–B(2)
となる。IIB 型超弦理論のSL(2,Z)は、同じ理論の異なる領域に関連した強弱結合双対性であることに注意しなければならない。
NS-NS 場B(2)は基本的な弦と結合しているので、基本的な弦はB(2)の単位電荷を運ぶが、R-R 場C(2)の下では電荷を帯びない。R-R 2形式の場C(2)の下では電荷を帯びたソリトン的な弦が存在するが、Kalb-Ramond 場B(2)の下では存在しない。これらの物体はD1 ブレーンである。S 双対性の下では、基本的な弦はD1 ブレーンに変換され、その逆も成り立つ。更に、一般のSL(2,Z)変換は基本的な弦を、NS-NS 電荷p、R-R 電荷qであらわされる(p,q)弦と呼ばれる基底状態に写す。基本的な弦の磁気双対におけるNS5 ブレーンでも同じことが言える。これは後のコラムで詳細な議論を行う。これにもNS-NS 電荷p、R-R 電荷qであらわされる(p,q)NS5 ブレーンを呼ばれる基底状態が存在する。