古典力学、電磁気学、熱力学、量子力学、の後に勉強するのが統計力学という科目です。
統計力学は熱力学と同様、平衡系の統計力学と非平衡系の統計力学に分かれます。
以下、特に断りがなければ平衡系の統計力学について話しているものとします。
但し、非平衡系の統計力学の入門書も1冊紹介します。
ここでは皆さんが図書館や書店で簡単に手に取れる本をピックアップするため、和書に限定して紹介していきたいと思います。
統計力学を勉強する前に
統計力学とはどういう学問か
統計力学は等重率の原理とボルツマンの原理を基礎にして導かれます。
これらの原理をもとにして考えている系の熱力学的性質を見ようというのが統計力学の基本姿勢です。
統計力学を勉強するためには確率論と熱力学の理解が必要です。
平衡系の統計力学は古典統計力学と量子統計力学に分けられます。
前者はマクスウェル・ボルツマン統計と呼ばれ、後者はさらにボース・アインシュタイン統計とフェルミ・ディラック統計に分けて呼ばれています。
量子統計力学は、量子力学で勉強したボース粒子とフェルミ粒子という量子力学的粒子ごとに統計規則が異なります。
ボース粒子が従う統計がボース・アインシュタイン統計であり、フェルミ粒子が従う統計がフェルミ・ディラック統計です。
統計力学に必要な物理数学
さて、統計力学を勉強するためには簡単な確率論の知識が必要です。
具体的な計算ではなく、特に中心極限定理など、確率論の根本的な考え方が必要になるため、計算ではなく定理の理解に重きを置くことが大切です。
統計力学の基礎を理解したい人への3冊
統計力学をサクッとマスターするならコレ!
馬場敬之、『統計力学』、マセマ、2016
【難易度:★☆☆☆☆ ボリューム:★☆☆☆☆ 網羅性:★★☆☆☆】
お馴染みマセマシリーズです。
統計力学の基礎をサクッとマスターしたいという人にはこの本がオススメです。
発展的な問題は扱っていませんが、統計力学の基礎を例題を交えて分かりやすく解説しています。
なお、マセマのシリーズはそれぞれの分野をマスターするために最低限必要な知識が分かりやすくまとめられているので、新しい分野を勉強する時の1冊にオススメです。
ちなみに、マセマの統計力学は古典力学等と違って演習書がありません。
統計力学の基本を理解したいアナタにオススメ!
芦田正巳、『統計力学を学ぶ人のために』、オーム社、2006
【難易度:★☆☆☆☆ ボリューム:★★☆☆☆ 網羅性:★☆☆☆☆】
統計力学の基礎を理解したい人には、前述のマセマのほかにこの本もあります。
ところどころで著者による自問自答があり、初学者が躓きやすいところがしっかりとフォローされています。
なお、必要最低限の演習問題もあるため、理解を確かめながら進んでいくことが出来ます。
統計力学のエッセンスがコンパクトにまとめられた入門書!
香取眞理、『統計力学』、裳華房、2010
【難易度:★★☆☆☆ ボリューム:★★☆☆☆ 網羅性:★★☆☆☆】
この本は統計力学のエッセンスがまとめられた、新定番の教科書です。
統計力学に必要な数学の知識も丁寧に導入されており、初学者に親切な形になっています。
各章末に演習問題もあるため理解していることを確認しながら進んでいくことが出来ます。
統計力学の大家によって書かれた、歯ごたえのある教科書!
久保亮五、『統計力学』、共立出版、2003
【難易度:★★☆☆☆ ボリューム:★★☆☆☆ 網羅性:★★★☆☆】
この本は線型応答理論の構築に貢献した統計力学の大家、久保亮五さんによる統計力学の教科書です。
同著者による演習書(後述)も出版されているため、そちらとセットで使うのが良いでしょう。
統計力学の問題演習をしたい人への3冊
量子統計力学の問題演習をしたいアナタにオススメ!
石原純夫・泉田渉、『量子統計力学』、共立出版、2014
【難易度:★★☆☆☆ ボリューム:★★☆☆☆ 網羅性:★★☆☆☆】
量子統計力学の問題演習を重点的にこなしたい人にオススメなのがこの本です。
量子統計力学の問題がテーマごとに収録されており使いやすい形になっています。
なお、古典統計力学にの問題は復習程度にしか収録されていません。
統計力学の標準的な演習問題をまとめた、昔から定評のある1冊!
市村浩、『熱学演習 統計力学』、裳華房、1993
【難易度:★★★☆☆ ボリューム:★★★★☆ 網羅性:★★★★☆】
この本は統計力学全般の標準的な問題をまとめた演習書です。
解説はやや簡潔ですが、その分問題が豊富に収録されています。
また、同著者による統計力学の教科書(後述)も有名なので、そちらも参考にするとよいかも知れません。
統計力学演習の決定版!辞書として持っておきたい問題集!
久保亮五 他、『大学演習 熱学・統計力学』、裳華房、1998
【難易度:★★★★☆ ボリューム:★★★★★ 網羅性:★★★★★】
演習書として古くから使われ続けている本としてこの本があります。
この本は古典統計力学や量子統計力学の問題は勿論、ゆらぎや非平衡統計物理学の問題も収録されています。
収録問題数はかなり豊富であり、網羅性という点において他の演習書の追随を許さない本であると言えます。
全てこなすのは現実的ではありませんが、分からない問題を調べるための辞書として有用であるため、しっかりと統計力学を勉強したいという人はぜひ持っておきたい1冊です。
より深く統計力学を学びたい人への4冊
本格的に統計力学を学ぶ人のための教科書!
田崎晴明、『統計力学I・II』、培風館、2008
【難易度:★★★★☆ ボリューム:★★★☆☆ 網羅性:★★★☆☆】
統計力学を本格的に学びたいための教科書として田崎晴明さんによるこの本が挙げられます。
確率論や量子力学の復習から始めて、統計力学の考えをじっくりと解説しています。
注釈で私見をたくさん述べられており、ややクセが強くなっていますがじっくりと向き合えば得るものは多いはずです。
統計力学の隠れた名教科書!?
市村浩、『統計力学』、裳華房、1992
【難易度:★★★★☆ ボリューム:★★★☆☆ 網羅性:★★★☆☆】
田崎晴明さんによる本が出版される前は、この本が定番の1冊となっていました。
やや記述が古いところや解説があっさりしている章もありますが、豊富な内容が扱われていて、統計力学をしっかり勉強するのに最適であると言えます。
熱力学・統計力学の名著!
キャレン、『熱力学および統計物理入門 上・下』、吉岡書店、1999
【難易度:★★★★☆ ボリューム:★★★★☆ 網羅性:★★★★☆】
昔から定評のある名著としてこの本が挙げられます。
今日多くの本で目にする説明はこの本が基になっていることが多いです。
ちなみに、上・下となっていますが、上巻の内容は殆どが熱力学です。
追記:下巻は2022年現在、絶版となってしまっています。
物理学徒の登竜門!ランダウによる理論物理学教程!
ランダウ・リフシッツ、『統計物理学(上)・(下)』、吉岡書店、2011・2013
【難易度:★★★★★ ボリューム:★★★★☆ 網羅性:★★★★☆】
古典力学で紹介したランダウ・リフシッツによる統計物理学の本です。
基礎的な部分の解説はやや物足りないものがありますが、固体物性や相平衡、化学反応など扱われている問題は大変豊富です。
最近復刊されたため、入手が比較的容易になりました。
統計力学のさらに先を学びたい人への2冊
非平衡統計力学の考えを知りたい人に最適な入門書!
香取眞理、『非平衡統計力学』、裳華房、1999
【難易度:★★★☆☆ ボリューム:★★☆☆☆ 網羅性:★★☆☆☆】
この本は非平衡系の統計力学の入門に適した教科書です。
平衡系の統計力学と何が違うのかを解説するところから始め、非平衡系の統計力学の考えに迫っています。
ファインマンによる統計力学の教科書!
ファインマン、『ファインマン統計力学』、丸善出版、2012
【難易度:★★★★★ ボリューム:★★★★★ 網羅性:★★★★☆】
この本はノーベル賞受賞物理学者、ファインマンによる統計力学の教科書です。
統計力学、とタイトルにありますが第2量子化という、場の量子論などにつながる考えを大変分り易く説明しており、天才の語り口が響く貴重な1冊です。
ちなみに、ファインマンは第2次世界大戦中のアメリカによる原子爆弾開発プロジェクトであるマンハッタン計画や、1986年に起こったチャレンジャー号事故の事故原因調査委員会に参加したことでも有名です。
まとめ
さて、いかがだったでしょうか?
入門書を探している人、演習書を探している人、発展的な本を探している人、様々かもしれませんが少しでもこの記事が皆さんの参考になることを願って筆をおきたいと思います。