トレースと部分トレース
C∈End(V1⊗V2)についてトレースと部分トレースというものを定義しよう。まず、トレースを次のように定義する。
trC:=Caa,jj(=N1∑a=1N2∑j=1Caa,jj)
次に、部分トレースを次のように定義する。
(tr1C)jk:=Caa,jk , (tr2C)ab:=Cab,jj
但し、このとき、tr1C∈End(V2)、tr2C∈End(V1)である。
問題04
N1=N2=2とするとき、tr1P=1l2、tr2P=1l2を示せ。
解答04
先に求めたPを利用すれば、
{(tr1P)11=P11,11+P22,11=1+0=1(tr1P)12=P11,12+P22,12=0+0=0(tr1P)21=P11,21+P22,21=0+0=0(tr1P)22=P11,22+P22,22=0+1=1(tr2P)11=P11,11+P11,22=1+0=1(tr2P)12=P12,11+P12,22=0+0=0(tr2P)21=P21,11+P21,22=0+0=0(tr2P)22=P22,11+P22,22=0+1=1
と求まる。よって題意は示された。
複数個のベクトル空間のテンソル積
ここでは表題の通り、複数個のベクトル空間のテンソル積V1⊗V2⊗⋯⊗VNを考えたい。以下では簡単のため、Vkを2次元複素ベクトル空間とする。これによって、2N次元のベクトル空間を構成することが出来る。
次に成分表示を考えよう。z∈V1⊗V2⊗⋯⊗VNは2N次元ベクトルであり、この成分を次のようにあらわすことにする。
za1,a2,⋯,aN (aj=1,2 and j=1,⋯,N)
また、A∈End(V1⊗⋯⊗VN)という2N×2N行列の成分を
Aa1b1,a2b2,⋯,aNbN (aα,bβ=1,2 and α,β=1,⋯,N)
と表すことにする。
このとき、A,B∈End(V1⊗V2⊗⋯⊗VN)のとき、C=ABの成分はCa1b1,⋯,aNbN=Aa1c1,⋯,aNcNBc1b1,⋯,cNbNとあらわされることに注意せよ。
また、Akn∈V1⊗⋯⊗VNについて
(Akn)a1b1,⋯,aNbN=Aakbk,anbnN∏j=1 (j,k≠n)δajbj
となる。すなわち、VkとVnのみに非自明に作用するということになる。
問題05
(1)Pkn∈End(V1⊗⋯⊗VN)をx1⊗⋯⊗xNに対して、
Pkn(x1⊗⋯⊗xk⊗⋯⊗xn⊗⋯⊗xN):=x1⊗⋯⊗xn⊗⋯⊗xk⊗⋯⊗xN
で定義する。このとき、(Pkn)a1b1,⋯,aNbNを求めよ。
(2)W12⋯N∈End(V1⊗⋯⊗VN)に対して、
PknW12⋯NPkn=W1,⋯,n⋯,k,⋯,N
を示せ。但し、W1⋯n⋯k⋯Nは
(W1⋯n⋯k⋯N)a1b1,⋯,aNbN:=(W1⋯N)a1b1,⋯,anbn,⋯,akbk,⋯,aNbN
で定義される。
解答05
(1)法則を掴むために具体的に計算してみると、例えば、N=3の場合は、
P23=(1000000000100000010000000001000000001000000000100000010000000001) , P13=(1000000000001000001000000000001001000000000001000001000000000001)
となる。これらをヒントに一般化すると以下のようになる。
P={1(ak=bn∩an=bk∩aα=bα(α≠k,n))0(otherwise)
(2)これまでの問題から、Pknは左から作用するとakとanを入れ替え、右から作用するとbkとbnを入れ換える役割があるということが分かる。よって、題意は明らかに成り立つ。
1次元Ising 模型と転送行列
Ising 模型の下でのHamiltonian は
H=−L∑x=1σxσx+1−hL∑x=1σx
となる。但し、σx∈{−1,+1}は格子点xにおけるスピンをあらわしており、−1ならスピン下向き、+1ならスピン上向きを示している。また、h∈Rは磁場を、Lは格子点の数をあらわしている。また、今、周期的境界条件σ1=σL+1が課せられている。
このとき、分配関数は
Z=∑σ1=±1⋯∑σL=±1e−βH
と書くことが出来る。但し、βは逆温度で、β:=1/(kBT)と定義される
問題06
1次元Ising 模型について以下の問いに答えよ。
(1)分配関数Zを転送行列を用いて求めよ。
(2)磁化、磁化率、及びそのL→∞の極限を求めよ。
解答06
(1)与えられた周期的境界条件を利用して、以下のように分配関数を書き直すことが出来る。
H=L∑i=1Hii+1
但し、Hii+1は以下のように定義している。
Hii+1=−σiσi+1−hσi+σi+12
従って、L個のサイトの状態σ1,σ2,⋯,σLを固定した時の系の全体のBoltzmann 重みは以下のように書くことが出来る。
Z=e−βH12(σ1,σ2)e−βH23(σ2,σ3)⋯e−βHL1(σL,σ2)
今、隣接間のスピン相互作用の大きさを1に規格化しているから、
T=(e−βHii+1(1,1)e−βHii+1(1,−1)e−βHii+1(−1,1)e−βHii+1(−1,−1))
と転送行列を定義すると、周期的境界条件を利用して、
Z=TrTL
と書くことが出来る。このとき、Tは実対称行列なので対角化可能であり、その固有値は実である。Tを対角化すると、以下のように書くことが出来る。
T=UΛU−1 , U=(u11u12u21u22) , Λ=(λ100λ2)
ここで、(u11u21)と(u12u22)はそれぞれ固有値λ1とλ2に対応する、規格化された固有ベクトルである。このとき、Tの固有方程式は
0=λ2−eβ(eβh+e−βh)λ+(e2β−e−2β)
これより、固有値λ1、λ2をλ1>λ2となるように取ると、
{λ1=eβ{cosh(βh)+√sinh2(βh)+e−4β}λ2=eβ{cosh(βh)−√sinh2(βh)+e−4β}
これによってトレースが計算できるから、求める分配関数は結局以下のように求まる。
Z=TrTL=TrΛL=λL1+λL2
(2)Helmholtz の自由エネルギーfは
f=−1βLlnZ=−1βlnλ1−1βLln{1+(λ2λ1)L}
と求まる。L→∞の極限では
˜f=−1βlnλ1
となることが直ちに分かる。次に、磁化は以下のように求まる。
m=−∂f∂h=1β∂λ1∂hλ1+1βL∂∂h(λ2λ1)L1+(λ2λ1)L=sinh(βh)√sinh2(βh)+e−4β+(λ2λ1)L−11+(λ2λ1)L2sinh(βh)(e−4β−1)(cosh(βh)+√sinh2(βh)+e−4β)2√sinh2(βh)+e−4β
と求まる。L→∞の極限では
˜m=sinh(βh)√sinh2(βh)+e−4β
となることが直ちに分かる。結局、磁化率は以下のように求まる。mの第2項は、h=0を代入するとsinh(βh)の項が消えることを利用すれば簡単に計算出来る。
χ=∂m∂h|h=0=βe2β{1−(λ2λ1)L−11+(λ2λ1)Lsinh(2β)cosh2(β)}
と求まる。L→∞の極限では
˜χ=βe2β
となることが直ちに分かる。