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【統計物理学】第04講 記法の準備②とIsing模型

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トレースと部分トレース

CEnd(V1V2)についてトレースと部分トレースというものを定義しよう。まず、トレースを次のように定義する。
trC:=Caa,jj(=N1a=1N2j=1Caa,jj)


次に、部分トレースを次のように定義する。
(tr1C)jk:=Caa,jk , (tr2C)ab:=Cab,jj

但し、このとき、tr1CEnd(V2)tr2CEnd(V1)である。

問題04

N1=N2=2とするとき、tr1P=1l2tr2P=1l2を示せ。

解答04

先に求めたPを利用すれば、
{(tr1P)11=P11,11+P22,11=1+0=1(tr1P)12=P11,12+P22,12=0+0=0(tr1P)21=P11,21+P22,21=0+0=0(tr1P)22=P11,22+P22,22=0+1=1(tr2P)11=P11,11+P11,22=1+0=1(tr2P)12=P12,11+P12,22=0+0=0(tr2P)21=P21,11+P21,22=0+0=0(tr2P)22=P22,11+P22,22=0+1=1


と求まる。よって題意は示された。

複数個のベクトル空間のテンソル積

ここでは表題の通り、複数個のベクトル空間のテンソル積V1V2VNを考えたい。以下では簡単のため、Vkを2次元複素ベクトル空間とする。これによって、2N次元のベクトル空間を構成することが出来る。

次に成分表示を考えよう。zV1V2VN2N次元ベクトルであり、この成分を次のようにあらわすことにする。
za1,a2,,aN (aj=1,2 and j=1,,N)

また、AEnd(V1VN)という2N×2N行列の成分を
Aa1b1,a2b2,,aNbN (aα,bβ=1,2 and α,β=1,,N)


と表すことにする。

このとき、A,BEnd(V1V2VN)のとき、C=ABの成分はCa1b1,,aNbN=Aa1c1,,aNcNBc1b1,,cNbNとあらわされることに注意せよ。

また、AknV1VNについて
(Akn)a1b1,,aNbN=Aakbk,anbnNj=1 (j,kn)δajbj


となる。すなわち、VkVnのみに非自明に作用するということになる。

問題05

(1)PknEnd(V1VN)x1xNに対して、
Pkn(x1xkxnxN):=x1xnxkxN


で定義する。このとき、(Pkn)a1b1,,aNbNを求めよ。

(2)W12NEnd(V1VN)に対して、
PknW12NPkn=W1,,n,k,,N


を示せ。但し、W1nkN
(W1nkN)a1b1,,aNbN:=(W1N)a1b1,,anbn,,akbk,,aNbN

で定義される。

解答05

(1)法則を掴むために具体的に計算してみると、例えば、N=3の場合は、
P23=(1000000000100000010000000001000000001000000000100000010000000001) , P13=(1000000000001000001000000000001001000000000001000001000000000001)


となる。これらをヒントに一般化すると以下のようになる。
P={1(ak=bnan=bkaα=bα(αk,n))0(otherwise)

(2)これまでの問題から、Pknは左から作用するとakanを入れ替え、右から作用するとbkbnを入れ換える役割があるということが分かる。よって、題意は明らかに成り立つ。

1次元Ising 模型と転送行列

Ising 模型の下でのHamiltonian は
H=Lx=1σxσx+1hLx=1σx


となる。但し、σx{1,+1}は格子点xにおけるスピンをあらわしており、1ならスピン下向き、+1ならスピン上向きを示している。また、hRは磁場を、Lは格子点の数をあらわしている。また、今、周期的境界条件σ1=σL+1が課せられている。

このとき、分配関数は
Z=σ1=±1σL=±1eβH


と書くことが出来る。但し、βは逆温度で、β:=1/(kBT)と定義される

問題06

1次元Ising 模型について以下の問いに答えよ。

(1)分配関数Zを転送行列を用いて求めよ。

(2)磁化、磁化率、及びそのLの極限を求めよ。

解答06

(1)与えられた周期的境界条件を利用して、以下のように分配関数を書き直すことが出来る。
H=Li=1Hii+1


但し、Hii+1は以下のように定義している。
Hii+1=σiσi+1hσi+σi+12

従って、L個のサイトの状態σ1,σ2,,σLを固定した時の系の全体のBoltzmann 重みは以下のように書くことが出来る。
Z=eβH12(σ1,σ2)eβH23(σ2,σ3)eβHL1(σL,σ2)

今、隣接間のスピン相互作用の大きさを1に規格化しているから、
T=(eβHii+1(1,1)eβHii+1(1,1)eβHii+1(1,1)eβHii+1(1,1))

と転送行列を定義すると、周期的境界条件を利用して、
Z=TrTL

と書くことが出来る。このとき、Tは実対称行列なので対角化可能であり、その固有値は実である。Tを対角化すると、以下のように書くことが出来る。
T=UΛU1 , U=(u11u12u21u22) , Λ=(λ100λ2)

ここで、(u11u21)(u12u22)はそれぞれ固有値λ1λ2に対応する、規格化された固有ベクトルである。このとき、Tの固有方程式は
0=λ2eβ(eβh+eβh)λ+(e2βe2β)

これより、固有値λ1λ2λ1>λ2となるように取ると、
{λ1=eβ{cosh(βh)+sinh2(βh)+e4β}λ2=eβ{cosh(βh)sinh2(βh)+e4β}

これによってトレースが計算できるから、求める分配関数は結局以下のように求まる。
Z=TrTL=TrΛL=λL1+λL2

(2)Helmholtz の自由エネルギーf
f=1βLlnZ=1βlnλ11βLln{1+(λ2λ1)L}


と求まる。Lの極限では
˜f=1βlnλ1

となることが直ちに分かる。次に、磁化は以下のように求まる。
m=fh=1βλ1hλ1+1βLh(λ2λ1)L1+(λ2λ1)L=sinh(βh)sinh2(βh)+e4β+(λ2λ1)L11+(λ2λ1)L2sinh(βh)(e4β1)(cosh(βh)+sinh2(βh)+e4β)2sinh2(βh)+e4β

と求まる。Lの極限では
˜m=sinh(βh)sinh2(βh)+e4β

となることが直ちに分かる。結局、磁化率は以下のように求まる。mの第2項は、h=0を代入するとsinh(βh)の項が消えることを利用すれば簡単に計算出来る。
χ=mh|h=0=βe2β{1(λ2λ1)L11+(λ2λ1)Lsinh(2β)cosh2(β)}

と求まる。Lの極限では
˜χ=βe2β

となることが直ちに分かる。

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