MENU

【量子力学】量子力学11-原子物理学入門2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

$\def\bm#1{{\boldsymbol{#1}}}$
$\def\rmd#1{\mathrm{d}{#1}}$
$\def\Braket#1{\langle{#1}\rangle}$
$\def\Bra#1{\langle{#1}|}$
$\def\Ket#1{|{#1}\rangle}$
$\def\kb{k_{\text{B}}}$
$\def\dag{\dagger}$

量子力学11

今回は穀モデルと摂動論から得られるいくつかの効果に関する問題を考えていきます。

殻モデルと電子の表記

殻模型では以下のような表記法で水素原子的な状態$\psi_{nlm}$を記述する。

 

$n$ $l$ $m=2(2l+1)$ 状態の数
$1$ $s$ 2 $2\times1^2$
$2$ $s$ 2 $2\times2^2$
$2$ $p$ 6 $2\times2^2$
$3$ $s$ 2 $2\times3^2$
$3$ $p$ 6 $2\times3^2$
$3$ $d$ 10 $2\times3^2$

ある$n$に対して$l$と$m$の取り方は$n^2$通り存在している。電子のスピンが上向きか下向きかも考慮すると$2n^2$通りとなる。$m$は$-l$から$l$までの整数を取るので、電子のスピンも考慮した状態の取り方は$2(2l+1)$通りとなる。

物理学や化学では主にこの表記法に従って原子を記述する。例えば、リチウムなら$1s^22s^1$、ネオンなら$1s^22s^22p^6$である。希ガス原子は最外殻が電子で満たされているので不活性である。原子番号が$18$までの原子では電子は$l$の小さい殻から順に満たされていくが、その後は電子と原子核の相互作用の影響が強く効いてくるためこの規則は崩れることになる。例えば、スカンジウムでは$[\text{Ar}]3d^14s^2$となる。

シュタルク効果とゼーマン効果

原子に外から電場や磁場が掛けられると縮退していたエネルギー準位が分裂する。電場による分裂をシュタルク効果、磁場による分裂をゼーマン効果と呼ぶ。ここでは大まかな特徴を知っておけば良い。

シュタルク効果

均一な磁場$\bm{E}$の下での電荷$-e$のポテンシャルは以下のように変化する。

\begin{equation}
\Delta H=e\bm{E}\cdot\bm{r}
\end{equation}

$|\bm{E}|$が小さいとき、$r$が小さい範囲では$\Delta H$は摂動とみなすことができる。対称性から、水素原子及び水素様原子の基底状態のエネルギーは$|\bm{E}|$の$1$次ではずれがない。$1$次のずれが出る最低エネルギー状態は$n=2$の状態である。$m=\pm1$の状態はずれがないが、$m=0$の$2s$状態と$2p$状態はずれが生じる。詳細な計算は困難だが、次元解析からエネルギーのずれは$\Delta E\propto e|\bm{E}|d\propto q|\bm{E}|a_0$であると推測できる(水素原子には長さスケールがBohr 半径$a_0$しかないので、$d$は当然$a_0$に対応することになる。)。

ゼーマン効果

ゼーマン効果によるエネルギーのずれは電子の軌道角運動量と磁場の相互作用によるものである。

\begin{equation}
\Delta H=\dfrac{e}{2m}(\bm{L}+2\bm{S})\cdot\bm{B}
\end{equation}

正確な係数を覚える必要は無いが、$e/(2m)$には古典的磁気回転比という名前が付いていることは覚えておくと良い。また、スピン演算子の前の$2$は量子力学的な補正によるものである。磁場はスピンと同じ向きである$z$方向に取ることが多い。

$|\bm{B}|$が小さいとき、$\Delta H$はゼーマンハミルトニアンは微細構造に加わる摂動とみなすことができる。前述の通り、このときのエネルギーは$j,l,m_j$でラベル付けされる。弱い磁場でのゼーマン効果は$m_j$に従って$j$個の状態を分類する。最も負の$m_j$のときにエネルギーが最も低くなる。物理的には電子のスピンは磁場と反対方向になる必要がある。このスピンによるエネルギー準位の分裂は有名なシュテルン・ゲルラッハの実験で見ることができる。この実験では不均一な磁場が原子のビームを$2$つに分割し、$m_j$の測定を有効的に実行された。スピンが古典的な現象であるならスピンのベクトルの$\bm{B}$方向への射影に応じてビームが連続的に塗りつぶされることが予想される。$2$つの鋭い成分に分裂したことはスピンが量子化されていることを示す印象的な実験であった。

逆に$|\bm{B}|$が大きいとき、微細構造はゼーマンハミルトニアンに加わる摂動であるとみなすことになる。$\bm{B}$を$z$方向に取ったので$L_z$と$S_z$はいずれもゼーマンハミルトニアンと可換である。これは$l,m_l,m_s$が保存されていることを意味する。一方で、磁場によって外的なトルクが発生するので$j,m_j$は保存しない。ゼーマン効果のエネルギーは磁場が弱い場合と同様に$m_l$と$m_s$に依存し、微細構造によってこれらの状態は$l$にも依存することになる。

選択則

電気双極子遷移とは、電子と電磁場との相互作用による遷移において、電子の電気双極子が支配的であるときの遷移のことである。実際には磁気双極子や電気四極子による寄与もあるが、一般的には電気双極子による寄与が最も大きいことが多い。光の波長が電子雲の広がりがよりも十分に長いならば、電気双極子項以外を無視することができる。これを双極子近似という。

電気双極子遷移が起こるためには以下の条件を満たす必要がある。

    • $\Delta m=\pm1,0$:
      光子はスピン$1$なので角運動量の$z$成分が$\pm\hbar,0$となるということに対応している。
    • $\Delta l=\pm1$:
      これは角運動量$l_1$と$l_2$の合成則に由来している。しかし、$l_1=l_2$の場合は欠けていることが分かる。

水素原子における$2s\rightarrow1s$の遷移はこれらの規則によって禁じられていることに注意する必要がある。このことから、もし基底状態の水素原子が光る瞬間が観測されたとき、第一励起状態は$l=1$となる$2p$状態であるということが推測できる。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。