$\def\bm#1{{\boldsymbol{#1}}}$
$\def\rmd#1{\mathrm{d}{#1}}$
$\def\Braket#1{\langle{#1}\rangle}$
$\def\Bra#1{\langle{#1}|}$
$\def\Ket#1{|{#1}\rangle}$
$\def\kb{k_{\text{B}}}$
$\def\dag{\dagger}$
量子力学03
調和振動子
1次元の場合
$1$次元の調和振動子のハミルトニアンは以下であらわされる。
\begin{equation}
\hat{H}=\dfrac{\hat{p}^2}{2m}+\dfrac{1}{2}m\omega^2\hat{x}^2
\end{equation}
位置空間での波動関数はエルミート多項式と関係がある。さて、生成・消滅演算子$a^\dag,a$を導入して上手く変数を取り直すことで、次のように書き直せる(生成・消滅演算子の表式を覚えておく必要はない。)。
\begin{equation}
H=\hbar\omega\left(a^\dag a+\dfrac{1}{2}\right)
\end{equation}
このとき、昇降演算子(生成・消滅演算子)には$[a^\dag,a]=1$が成り立っている。$a^*=a^\dag\neq a$なので生成演算子$a^\dag$と消滅演算子$a$はいずれもエルミート演算子ではない。また、粒子を生成・消滅させるという定義から$[a^\dag,H]\neq0$と$[a,H]\neq0$も成り立つ。
\begin{equation}
H\Ket{n}=\hbar\omega\left(n+\dfrac{1}{2}\right)\Ket{n},~n=0,1,2,3\ldots\label{SHO}
\end{equation}
基底状態のエネルギーは$n=0$の場合で、$E_0=\dfrac{1}{2}\hbar\omega$である。
調和振動子に関する典型問題は$a^\dag,a$で書かれたオブザーバブルの期待値を計算することである。この手の問題が出されたときにはディラックのブラケット記法や規格直交性も正しく利用できるかということも問われている。例として、状態$\Ket{3}$における$(a+a^\dag)^2$の期待値を計算してみよう。すなわち、
\[
\Braket{3|(a+a^\dag)^2|3}=\Braket{3|a^2+aa^\dag+a^\dag a+(a^\dag)^2|3}
\]
を計算したい。粒子を$2$回とも生成させるような、あるいは$2$回とも消滅させるような項はブラ$\Bra{3}$との規格直交性からゼロになるため、計算したいのは第$2,3$項のみである。規格化の関係から、
\[
\left\{
\begin{array}{l}
aa^\dag\Ket{3}=\sqrt{4}(a\Ket{4})=\sqrt{4}\sqrt{4}\Ket{3}=4\Ket{3}
~
a^\dag a\Ket{3}=\sqrt{3}(a^\dag\Ket{2})=\sqrt{3}\sqrt{3}\Ket{3}=3\Ket{3}
\end{array}
\right.
\]
となる。よって求める期待値は$7$。
また、$x<0$の領域が無限に高いポテンシャルに阻まれていて、$x>0$の領域が調和振動子ポテンシャルになっている場合のエネルギー準位が問われるという問題も頻出である。この場合、波動関数は奇関数になるから、波動関数に用いられるエルミート多項式は$n$が奇数の項しか許されないことになる。従って、エネルギー準位の式でも$n$は奇数しか許されなくなる。
更に、調和振動子の全てのエネルギー固有状態は以下であらわされるビリアル定理に従う。
\begin{equation}
\Ket{T}=\Ket{V}=\dfrac{E_n}{2}
\end{equation}
この関係式は例えば$\Braket{p^2}$を問われた際に、$E_n$をいつもの方法で計算して$\Braket{T}$を求めるという手順で利用したりする。一般に、この定理はエネルギー固有状態の重ね合わせに適用することはできないことに注意せよ。
3次元の場合
$3$次元調和振動子の場合、波動関数は$\psi_N(x,y,z)=\psi_{n_1}(x)\psi_{n_2}(y)\psi_{n_3}(z)$と分離できるので、エネルギー固有値は
\begin{equation}
E_N=\left(N+\dfrac{3}{2}\right)\hbar\omega,~N=n_1+n_2+n_3
\end{equation}
となる。従って、$N=1$と言われたら$3$重に縮退しているし、$N=2$と言われたら$6$重に縮退している。これは状態数が少ない問題なのでボルツマンのエントロピーの公式$S=\kb\ln{W}$を利用するための問題として狙われやすい。例えば、ボルツマンの公式$S=\kb\ln{W}$より、$N=1$の状態から$N=2$の状態へ遷移するとエントロピーの変化は$\Delta S=\kb\log{6}-\kb\log{3}=\kb\log{6/3}=\kb\log{2}$となる。
なお、$2$次元調和振動子の場合は$3/2$の因子が$1$になることに注意。