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【量子力学入門02】粒子性と波動性2

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粒子性と波動性2

光はマクスウェルの電磁気学で代表される波動説が主流でしたが、1905年にアインシュタインが粒子説を提唱しました。つまり、振動数 \(\nu\) の平面波は、次の式によって表されるエネルギー
\[ E = h\nu \tag{1} \]
と、平面波の進む方向に
\[ p = \frac{h\nu}{c} \tag{2} \]
という運動量を持ち、光の速度 \(c\) で運動量の方向に進む粒子として説明されるという説です。ここで、\(h\) はプランク定数と呼ばれる宇宙定数で、その値は \(h = 6.55 \times 10^{-27}\ \text{エルグ} \cdot \text{秒}\) です。この説には、平面波が粒子であるという点で矛盾が含まれています。なぜなら、振動数 \(\nu\) の平面波は非常に長い範囲にわたるものであり、粒子の性質と合わないからです。また、振動数 \(\nu\) に相当する波長の二三倍程度の長さを持った光の波を考えても、このようなものが干渉現象を引き起こす理由が説明できません。そのため、電子が電子論で表されたように、狭い範囲内だけに存在する光の波として光の粒子を表すことも実験の事実と矛盾します。

しかし、光を粒子として考えなければ説明できない新しい実験の事実があり、またそう考えることが最も自然な理論的根拠も存在しました。アインシュタインがこの考えに導かれた理論的根拠は、プランクの黒体輻射の理論です。黒体とは、すべての輻射を完全に吸収する物体であり、黒体輻射とは、一定の温度の黒体が真空に対して輻射をして定常の状態にある時の輻射を指します。熱輻射の理論によると、光を完全に反射する壁を持った箱の中に任意の物質を置いた場合、箱の中の輻射の状態は黒体輻射と同じになることが結論されています。プランクは、任意の物質の分子の最も簡単なモデルとして単振動をする振動体を取り、そのエネルギーは一定量 \(\varepsilon\) の整数倍に限られること、\(\varepsilon\) は振動体の振動数 \(\nu\) に比例すること、さらに振動体はその振動数と同じ振動数の光だけを放出または吸収すると仮定することで、黒体輻射の実験結果と一致する式を導き出しました。ここで導き入れた比例定数 \(\varepsilon\) が、前述の定数 \(h\) であり、黒体輻射の実験結果からこの値が得られました。この考え方から、光の粒子説は容易に導かれるべきです。つまり、波動論で言うように光のエネルギーが空間に連続的に広がっているとすれば、振動体はそのエネルギーを少しずつ吸収するほかなく、したがって \(\varepsilon\) の整数倍でない中間のエネルギーの状態も振動体に存在し得るはずですが、プランクは中間の状態が存在しないと仮定しました。しかし、プランクは光の粒子説に進むことに対して、従来の光の理論に大きな問題が生じることを恐れたためか、そこまで進むことはありませんでした。それに対してアインシュタインは、光の粒子説が黒体輻射の理論の自然な結果であると考えました。

また、光電効果の実験事実も光の波動論では説明できず、光の粒子説に有利であることが指摘されました。光電効果とは、物質に光を当てると電子が放出され、その電子の速度が光の強さには無関係で振動数にのみ関係し、光の強さは単に電子の数に関係することが知られています。また、光の強さが小さくても電子がほぼ同時に放出されることも実験的に確認されており、これらの事実は光のエネルギーが空間に連続的に広がるとした場合には説明できず、式 \((1)\) で与えられるエネルギーの塊として存在する粒子説を採用することで容易に解釈できます。

以上は主にエネルギーの式 \((1)\) の根拠について述べましたが、運動量の式 \((2)\) の理論的根拠は次の通りです。相対論によれば、エネルギー \(E\) を持つ粒子の質量は
\[ m = \frac{E}{c^2} \tag{3} \]
で与えられます。この式を光粒子に当てはめると、光粒子は \(\frac{h\nu}{c^2}\) の質量を持ち、これは観測者に対して \(c\) の速度で動いている粒子に関するものであるため、速度 \(c\) を掛けたものが運動量と考えられ、正に式 \((2)\) が得られることとなります。ここで注目すべきは、質点の力学における概念をそのまま光粒子に適用していることであり、コンプトンは光が電子に当たるとき、まるで二つの質点の衝突のようにエネルギーと運動量の保存の法則が成り立つとし、衝突後の光の振動数の変化、すなわちエネルギーが変わるため光の振動数が変わるはずであることを示しました。この結果、実際の実験結果とよく一致することが確認されました(コンプトン効果)。

このように、光の粒子説に有利な事実がありましたが、光の干渉や回折などの説明には全く無力であり、これは以前のニュートンの粒子説と全く同じ状況です。

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