波動論と不確定性原理
不確定性原理(Heisenberg Uncertainty Principle)は量子力学の中心的な概念の一つであり、粒子の位置と運動量の測定における根本的な限界を示しています。
この原理は、波動論と深い関係を持ち、特にフーリエ解析を通じて数学的に表現されます。ここでは、学部1年レベルの波動論の知識をもとに、不確定性原理を数式を用いて具体的に説明します。
波動論とフーリエ解析
波動の基礎的な性質
波動とは、空間や時間を通じてエネルギーや情報が伝わる現象です。典型的な波動の例として、波動関数 ψ(x) は次のように書けます。
ψ(x)=Asin(kx–ωt)
ここで、A は振幅、k は波数(k=2πλ, λ は波長)、ω は角振動数(ω=2πf, f は周波数)です。
波動関数は空間的な分布を記述する場合、時間依存成分を除外して次のように簡略化できます。
ψ(x)=Aeikx
フーリエ解析の基本
波動関数をより一般的な関数として考えると、フーリエ解析を用いてその関数を異なる波数成分の重ね合わせとして表現できます。
フーリエ変換を使うと、波動関数 ψ(x) は波数空間における波動関数 ϕ(k) を用いて次のように表せます。
ψ(x)=1√2π∫∞−∞ϕ(k)eikxdk
逆変換も同様に、
ϕ(k)=1√2π∫∞−∞ψ(x)e−ikxdx
ここで、
ϕ(k) は波数 k に関する波動関数の振幅成分を表します。
波動関数が局所化されている場合、そのフーリエ変換は広がりを持つことになります。この関係が不確定性原理の数学的な基盤となります。
不確定性原理の導出
位置と運動量の関係
量子力学では、粒子の位置 x と運動量 p は波動関数 ψ(x) を用いて記述されます。運動量は波数 k に比例し、
p=ℏk
ここで、ℏ は換算プランク定数です。
波数空間での波動関数 ϕ(k) を用いると、運動量空間での波動関数も得られます。フーリエ変換の性質により、位置空間での局所性が増すと、運動量空間での広がりが増すことがわかります。
標準偏差と不確定性
位置と運動量の不確定性を定量的に表すため、標準偏差を導入します。
位置の標準偏差 Δx は次のように定義されます。
(Δx)2=⟨x2⟩–⟨x⟩2
運動量の標準偏差 Δp も同様に定義されます。
(Δp)2=⟨p2⟩–⟨p⟩2
ここで、⟨⋅⟩ は期待値を表します。
数学的導出
位置空間と波数空間における波動関数のフーリエ変換の性質から、次の不等式が得られます。
ΔxΔk≥12
運動量に換算すると、p=ℏk を用いて、
ΔxΔp≥ℏ2
これが不確定性原理の数学的な表現です。
不確定性原理の物理的解釈
不確定性原理は、粒子の位置と運動量を同時に正確に測定することができないことを示します。これは測定器の精度や観測者の能力の問題ではなく、量子力学の本質的な性質です。波動関数の性質から、次の点が理解できます。
位置の局所化とは波動関数を空間的に狭い範囲に局所化すると、フーリエ変換により波数空間での広がりが大きくなることになります。これは運動量の不確定性が増加することを意味します。
運動量の確定性とは、逆に、波数空間での広がりが小さい(運動量が確定している)場合、位置空間での波動関数の広がりが大きくなることを意味します。
例としてガウス型波束の場合を考えてみましょう。位置空間での波動関数がガウス分布で表される場合、
ψ(x)=e−x22σ2x
これにフーリエ変換を行うと、波数空間でもガウス分布となります。
ϕ(k)=e−k22σ2k
ここで、σx と σk はそれぞれ位置と波数の広がりを示します。この場合、σx と σk の間には次の関係が成り立ちます。
σxσk=12
これに運動量空間に換算すると、
ΔxΔp=ℏ2
が成り立ちます。これを最小不確定性関係といいます。
今回のまとめ
不確定性原理は、波動論とフーリエ解析に基づく量子力学の基本的な結果です。
この原理は、粒子の位置と運動量の測定における根本的な限界を示し、物理的な直感を超えた量子力学の特性を明らかにします。
今後の議論は、この不確定性原理が根本にあることを意識しながら進めていくことにしましょう。