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前期量子論のまとめ
これまでの記事で、前期量子論とシュレーディンガー方程式について議論してきました。
今後の記事ではシュレーディンガー方程式を具体的なポテンシャルについて解いていくことになります。
その前に、今回は復習としてこれまでに議論した前期量子論の内容を簡単にまとめておきましょう。
これまでに議論した黒体放射、光電効果、コンプトン散乱、ブラッグの公式、ボーア・ゾンマーフェルトの量子化条件、ド・ブロイ波、シュレーディンガー方程式の導入について順を追って説明します。
黒体放射
黒体放射は、完全に光を吸収する理想的な物体(黒体)から放出される電磁波の分布を説明する現象です。古典物理学に基づくレイリー・ジーンズの法則は高周波でのエネルギー密度の発散(紫外線破綻)を予測しました。
1900年、マックス・プランクは次の放射エネルギー密度の式を導出しました。
\begin{equation}
E(\nu) = \frac{8\pi h\nu^3}{c^3} \cdot \frac{1}{e^{h\nu / k_B T} – 1},
\end{equation}
ここで、$h$ はプランク定数、$\nu$ は周波数、$c$ は光速、$k_B$ はボルツマン定数、$T$ は絶対温度です。この式は量子仮説に基づいており、エネルギーが離散値 $E = n h\nu$ を取ることを提案しました。
光電効果
光電効果は、光が物質に当たった際に電子が放出される現象です。古典理論では光の強度が電子の運動エネルギーに影響を与えると考えられていましたが、実験では次の事実が観察されました。
1) 放出された電子の運動エネルギーは光の周波数に依存する。
2) 光の強度を上げても閾値周波数以下では電子が放出されない。
1905年、アインシュタインは光を粒子(光子)として扱い、そのエネルギーが $E = h\nu$ であると仮定しました。この理論に基づき、電子の最大運動エネルギーは次のように表されます。
\begin{equation}
K_{\text{max}} = h\nu – \phi,
\end{equation}
ここで、$\phi$ は物質の仕事関数です。この説明により、光の粒子性が示されました。
コンプトン散乱
1923年、アーサー・コンプトンは高エネルギーX線が電子に散乱される際の波長変化を観測しました。この現象は、光の粒子性をさらに支持するものでした。
コンプトン効果の波長変化は次式で表されます。
\begin{equation}
\Delta\lambda = \lambda’ – \lambda = \frac{h}{m_e c}(1 – \cos\theta),
\end{equation}
ここで、$\lambda$ は散乱前の波長、$\lambda’$ は散乱後の波長、$m_e$ は電子の質量、$\theta$ は散乱角です。この式はエネルギー保存と運動量保存を光子と電子の相互作用に適用して導かれます。
ブラッグの公式
結晶構造の解析において、X線の回折は重要な役割を果たします。ウィリアム・ブラッグとローレンス・ブラッグは、結晶面での回折条件を次のように表しました。
\begin{equation}
2d\sin\theta = n\lambda,
\end{equation}
ここで、$d$ は結晶面間隔、$\theta$ は入射角、$n$ は整数(回折次数)、$\lambda$ は波長です。この公式により、結晶の原子配列を解析できるようになりました。
ボーア・ゾンマーフェルトの量子化条件
ニールス・ボーアは1913年、原子モデルに量子仮説を導入しました。ボーアモデルでは、電子は円軌道上を運動し、角運動量が次の条件を満たすと仮定しました。
\begin{equation}
L = n\hbar = n \frac{h}{2\pi},
\end{equation}
ここで、$n$ は整数、$\hbar$ は換算プランク定数です。この条件により、水素原子のエネルギー準位が次のように表されます。
\begin{equation}
E_n = -\frac{13.6,\text{eV}}{n^2}.
\end{equation}
ゾンマーフェルトはこれを楕円軌道に拡張し、さらに一般的な量子化条件を提案しました。
\begin{equation}
\oint p dq = nh,
\end{equation}
ここで、$p$ は運動量、$q$ は位置座標です。
ド・ブロイ波
1924年、ルイ・ド・ブロイは物質波の概念を提案しました。彼は、全ての粒子に波としての性質があるとし、その波長 $\lambda$ を次式で表しました。
\begin{equation}
\lambda = \frac{h}{p},
\end{equation}
ここで、$p$ は粒子の運動量です。この考えは後に電子回折実験によって確認され、波動性と粒子性の概念を確立しました。
シュレーディンガー方程式の導入
1926年、エルヴィン・シュレーディンガーは波動方程式を提案し、量子力学の基礎を築きました。非相対論的な場合、この方程式は次のように書かれます。
\begin{equation}
-\frac{\hbar^2}{2m} \nabla^2 \psi + V\psi = i\hbar \frac{\partial \psi}{\partial t},
\end{equation}
ここで、$\psi$ は波動関数、$V$ はポテンシャルエネルギー、$m$ は質量です。この方程式を用いることで、粒子の確率分布を計算できます。
特に時間依存しない場合、シュレーディンガー方程式は以下のようになります。
\begin{equation}
-\frac{\hbar^2}{2m} \nabla^2 \psi + V\psi = E\psi,
\end{equation}
ここで、$E$ はエネルギー固有値です。この方程式の解 $\psi$ は波動関数であり、$|\psi|^2$ が確率密度を表します。






