演算子の性質
量子力学では、物理的な観測量や系の状態は数学的に演算子(オペレーター)を用いて記述されます。ここでは重要な演算子とその性質について説明します。
線型演算子
線型演算子は、ベクトル空間で定義され、次の線型性を満たす演算子を指します。量子力学では、状態ベクトル(波動関数)はヒルベルト空間に属しており、演算子はこの空間内で作用します。
線型性の定義は次のとおりです。演算子 ˆA が線型であるとは、任意のスカラー c1,c2 とベクトル |ψ1⟩,|ψ2⟩ に対して以下が成立することを意味します。
ˆA(c1|ψ1⟩+c2|ψ2⟩)=c1ˆA|ψ1⟩+c2ˆA|ψ2⟩.
線型演算子は量子力学におけるほぼすべての演算子(例えば位置演算子や運動量演算子)で成り立つ性質です。
エルミート演算子
エルミート演算子(自己共役演算子)は、その随伴演算子と自身が等しい演算子を指します。エルミート演算子 ˆA の条件は次のように書けます。
ˆA=ˆA†,
ここで、ˆA† は ˆA の随伴(共役転置)を意味します。
エルミート演算子の重要な性質は次の通りです。
1) 固有値が実数: エルミート演算子の固有値 λ は必ず実数。
2) 固有ベクトルの直交性: 異なる固有値に対応する固有ベクトルは互いに直交する。
例えば、ハミルトニアン(エネルギー演算子)や位置演算子 ˆx、運動量演算子 ˆp はエルミート演算子です。
ユニタリー演算子
ユニタリー演算子は、その随伴演算子が逆演算子に等しい演算子を指します。ˆU がユニタリーである条件は次のように表されます。
ˆU†ˆU=ˆUˆU†=ˆI,
ここで、ˆI は単位演算子です。
ユニタリー演算子は量子力学における時間発展や基底の変換を記述します。例えば、時間発展演算子 ˆU(t) は次の形を取ります。
ˆU(t)=e−iˆHt/ℏ,
ここで ˆH はハミルトニアン、ℏ はプランク定数のディラック定数です。
ユニタリー演算子の重要な性質は次の通りです。
1) ノルムの保存: |ψ⟩ にユニタリー演算子を作用させてもそのノルムは変わらない。
2) 内積の保存: 任意の状態 |ψ⟩,|ϕ⟩ に対して内積が保存される。
⟨ϕ|ψ⟩=⟨ϕ|ˆU†ˆU|ψ⟩.
固有値と固有関数
演算子 ˆA の固有値 λ と固有関数(固有ベクトル) |ψ⟩ は、以下の固有値方程式を満たします。
ˆA|ψ⟩=λ|ψ⟩.
エルミート演算子の場合、以下の性質が成り立ちます。
1) 固有値 λ は実数。
2) 異なる固有値に対応する固有関数は直交する。
3) 固有関数は完全系をなし、任意の状態 |ϕ⟩ をそれらの線形結合で表せる。
|ϕ⟩=∑ncn|ψn⟩,
ここで |ψn⟩ は ˆA の固有関数、cn は重ね合わせ係数です。
具体例として、ハミルトニアン ˆH の固有値と固有関数を考えます。シュレディンガー方程式において、ˆH|ψ⟩=E|ψ⟩ が成り立ちます。ここで E はエネルギー固有値、|ψ⟩ はエネルギー固有状態です。
演算子の具体例
位置演算子ˆx:
ˆxψ(x)=xψ(x).
運動量演算子ˆp:
ˆpψ(x)=−iℏddxψ(x).
ハミルトニアンˆH:
ˆH=ˆp22m+V(ˆx),
ここで V(ˆx) はポテンシャルエネルギー。
スピン演算子(例えばスピン1/2の場合):
ˆSz=ℏ2(100−1).
これらの演算子を通じて、量子系の物理的性質を計算・予測することが可能です。
今回のまとめ
量子力学の演算子は、線型性、エルミート性、ユニタリー性などの性質に基づき、物理系の状態や観測量を記述します。特にエルミート演算子は観測量を表し、ユニタリー演算子は系の時間発展や変換を記述します。また、固有値と固有関数は系の基本的な特性を明らかにする重要な概念です。これらの演算子の性質を理解することで、量子力学の基本構造を深く把握することができます。