量子力学における角運動量1
量子力学における角運動量は、古典力学の角運動量概念を拡張したものであり、物理現象の記述において重要な役割を果たします。ここでは、古典力学と量子力学の角運動量の違い、量子力学における角運動量演算子の定義、その性質、および球面調和関数との関係について詳しく説明します。
角運動量演算子の交換関係についてはまた別の機会に説明します。
古典力学と量子力学における角運動量の違い
古典力学における角運動量
古典力学では、角運動量 L は位置ベクトル r と運動量ベクトル p のベクトル積として定義されます。
L=r×p.
その成分は以下のように表されます。
Lx=ypz–zpy,Ly=zpx–xpz,Lz=xpy–ypx.
角運動量は連続的な値をとり、その大きさと方向は連続的に変化します。また、角運動量ベクトルは保存則に従い、力が中心力場にある場合には保存されます。
量子力学における角運動量
量子力学では、角運動量は演算子として扱われ、その値は量子化されます。特に、角運動量演算子は以下の重要な特徴を持ちます。
1) 固有値が離散的である。
2) 角運動量の大きさとその特定の軸(通常は z-軸)の成分は同時に測定可能。
3) 角運動量演算子は不確定性原理に従う。
これらの性質を理解するために、角運動量演算子の具体的な定義とその性質を以下で詳しく説明します。
角運動量演算子の定義
角運動量演算子 ˆL は、位置演算子 ˆr と運動量演算子 ˆp を用いて次のように定義されます。
ˆL=ˆr׈p.
成分ごとに書くと、
ˆLx=ˆyˆpz–ˆzˆpy, ˆLy=ˆzˆpx–ˆxˆpz, ˆLz=ˆxˆpy–ˆyˆpx.
ここで、運動量演算子 ˆp は ˆp=−iℏ∇ で表されます。従って、角運動量演算子は位置と微分演算子を含む形になります。
角運動量演算子の性質
角運動量演算子の成分は次の交換関係を満たします。
[ˆLx,ˆLy]=iℏˆLz,[ˆLy,ˆLz]=iℏˆLx,[ˆLz,ˆLx]=iℏˆLy.
一般に、
[ˆLi,ˆLj]=iℏϵijkˆLk,
ここで、ϵijk はレヴィ=チヴィタ記号です。
角運動量の大きさを表す二乗演算子 ˆL2 は次のように定義されます。
ˆL2=ˆL2x+ˆL2y+ˆL2z.
この演算子は ˆLz と可換であり、[ˆL2,ˆLz]=0 を満たします。したがって、ˆL2 と ˆLz の同時固有状態を構築することが可能です。
ˆL2 と ˆLz の固有値問題を解くと、固有値は次のようになります。
ˆL2|l,m⟩=ℏ2l(l+1)|l,m⟩,
ˆLz|l,m⟩=ℏm|l,m⟩.
ここで、l は非負の整数または半整数(l=0,1,2,…)、m は −l≤m≤l の整数または半整数を取ります。
角運動量と球面調和関数の関係
球面調和関数の定義
球面調和関数 Yml(θ,ϕ) は、角運動量の固有状態を表現するために用いられる関数であり、次のように定義されます。
Yml(θ,ϕ)=√(2l+1)4π(l−m)!(l+m)!Pml(cosθ)eimϕ,
ここで、Pml(x) はルジャンドル陪多項式です。
球面調和関数と角運動量演算子
球面調和関数は ˆL2 と ˆLz の固有関数であり、次を満たします。
ˆL2Yml(θ,ϕ)=ℏ2l(l+1)Yml(θ,ϕ),
ˆLzYml(θ,ϕ)=ℏmYml(θ,ϕ).
さらに、角運動量の上昇・下降演算子 ˆL±=ˆLx±iˆLy を用いると次が成り立ちます。
ˆL±Yml(θ,ϕ)=ℏ√l(l+1)–m(m±1)Ym±1l(θ,ϕ).
今回のまとめ
量子力学における角運動量は、古典力学の概念を拡張し、離散的な値を持つ演算子として表現されます。角運動量演算子は交換関係を満たし、ˆL2 と ˆLz の固有値問題を解くことで量子化された値を得ます。また、球面調和関数は角運動量演算子の固有関数として重要な役割を果たします。これらの概念は、原子物理や分子物理、さらには量子場理論などの幅広い分野で応用されています