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調和振動子1
量子力学において調和振動子は非常に重要な役割を果たします。これは、調和振動子が多くの物理現象をモデル化する基本的なシステムであり、その解が量子系の性質を理解する上で基本となるからです。今回は、前期量子論における調和振動子のエネルギー準位、量子力学で調和振動子が重要である理由、および量子力学における調和振動子のエネルギー準位について説明します。
前期量子論における調和振動子のエネルギー準位
前期量子論では、ボーア・ゾンマーフェルトの量子化条件を用いて系のエネルギー準位が求められました。この条件は以下の形で表されます。
\[
\oint p \, dq = n h, \quad (n = 0, 1, 2, \dots)
\]
ここで、$p$ は運動量、$q$ は座標、$h$ はプランク定数、$n$ は量子数を表します。
調和振動子のポテンシャルは次のように与えられます。
\[
V(q) = \frac{1}{2}m\omega^2 q^2,
\]
ここで、$m$ は質量、$\omega$ は振動数です。このポテンシャルに対応する運動量はエネルギー保存則から求められます。
\[
E = \frac{p^2}{2m} + \frac{1}{2}m\omega^2 q^2 \quad \Rightarrow \quad p = \sqrt{2m\left(E – \frac{1}{2}m\omega^2 q^2\right)}.
\]
量子化条件を適用すると、$p$ と $q$ の積分を解き、エネルギー準位が次のように得られます。
\[
E_n = \left(n + \frac{1}{2}\right)h\omega.
\]
調和振動子を議論する重要性
調和振動子を議論する理由は以下の通りです。
1) 近似としての有用性: 多くの物理系では、安定な平衡点の近傍でポテンシャルが二次関数で近似できます。したがって、調和振動子は実際の多くの系の解析に適用可能です。
2) 解析的に解けるモデル: 調和振動子は、量子力学における数少ない解析的に解けるモデルの一つであり、その解は量子力学の基本的な性質を示しています。
3) 場の量子論への応用: 場の量子論では、調和振動子の概念がフィールドの量子化に応用されます。たとえば、電磁場の量子化では各モードが調和振動子として扱われます。
4) 基底状態と零点エネルギー: 調和振動子は零点エネルギーの概念を示す最も基本的な例であり、この性質は真空の性質を理解する上で重要です。
量子力学における調和振動子のエネルギー準位
シュレーディンガー方程式を用いることで、量子力学における調和振動子のエネルギー準位を求めることができます。
調和振動子の時間に依存しないシュレーディンガー方程式は次のように書けます。
\[
\left(-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dx^2} + \frac{1}{2}m\omega^2 x^2\right)\psi(x) = E\psi(x).
\]
ここで、$\hbar$ は換算プランク定数です。この方程式を解くと、エネルギー固有値は次の形になります。
\[
E_n = \left(n + \frac{1}{2}\right)\hbar\omega, \quad (n = 0, 1, 2, \dots).
\]
この結果は前期量子論の結果と一致し、量子力学が古典論を包含することを示しています。
また、固有関数はエルミート多項式を用いて表され、以下の形を持ちます。
\[
\psi_n(x) = \left(\frac{m\omega}{\pi\hbar}\right)^{1/4} \frac{1}{\sqrt{2^n n!}} H_n\left(\sqrt{\frac{m\omega}{\hbar}}x\right) e^{-\frac{m\omega x^2}{2\hbar}}.
\]
ここで、$H_n(x)$ はエルミート多項式です。
これらの表式の導出は次回行います。
今回のまとめ
調和振動子は量子力学の基礎を学ぶ上で極めて重要な役割を果たします。解析的に解けるモデルとして、その結果は古典論の理解を深めるだけでなく、量子論における多くの現象の基礎を提供します。調和振動子のエネルギー準位は $E_n = \left(n + \frac{1}{2}\right)\hbar\omega$ という単純な形で与えられ、これが量子系の振る舞いを解釈するための強力なツールとなっています。このモデルは、さらに高度な量子場理論や凝縮系物理学にも応用され、物理学全体において普遍的な重要性を持ち続けています。






