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【量子力学入門36】ハイゼンベルグの行列力学2

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ハイゼンベルグの行列力学2

今回は前回の内容に引き続き、量子力学のハイゼンベルグの運動方程式を用いてどのような問題が解けるようになるのかについて考えていきます。

ハイゼンベルクの運動方程式の復習

ハイゼンベルクの運動方程式は、量子力学においてオペレーターの時間発展を記述する基本方程式の一つです。この方程式は、量子系の物理量がどのように時間的に変化するかを記述するために用いられます。

ハイゼンベルクの運動方程式は以下の形で表されます。

$$
\frac{d}{dt}A(t) = \frac{i}{\hbar} \left[H, A(t)\right] + \left(\frac{\partial A}{\partial t}\right),
$$

ここで、$A(t)$は時間依存のオペレーター、$H$は系のハミルトニアン(全エネルギーを表すオペレーター)、$[H, A]$はハミルトニアンとオペレーターの交換子 $[H, A] = HA – AH$、$\frac{\partial A}{\partial t}$はオペレーターが明示的に時間に依存する場合の寄与です。

この方程式は、量子系の運動をハイゼンベルク描像で記述する際の基本方程式となります。

ハイゼンベルク描像とシュレディンガー描像の違い

量子力学には主に2つの描像があります:シュレディンガー描像とハイゼンベルク描像です。

シュレディンガー描像は状態ベクトル(波動関数)が時間とともに進化し、オペレーターは時間に依存しない描像です。
ハイゼンベルク描像はオペレーターが時間とともに進化し、状態ベクトルは時間に依存しないです。

ハイゼンベルクの運動方程式は、ハイゼンベルク描像でのオペレーターの時間発展を記述します。

ハイゼンベルクの運動方程式の具体例

以下に、ハイゼンベルクの運動方程式を用いて解ける典型的な問題をいくつか示します。

調和振動子の時間発展

量子調和振動子のハミルトニアンは以下のように与えられます。
$$
H = \frac{p^2}{2m} + \frac{1}{2}m\omega^2 x^2,
$$
ここで、$p$は運動量オペレーター、$x$は位置オペレーター、$m$は質量、$\omega$は固有振動数です。

運動方程式を適用すると、運動量と位置オペレーターの時間発展が次のように計算されます。

1. 位置オペレーターの時間変化:
$$
\frac{dx(t)}{dt} = \frac{i}{\hbar} [H, x(t)].
$$
ハミルトニアンと位置オペレーターの交換子を計算すると、
$$
[H, x] = \frac{i\hbar}{m}p,
$$
したがって、
$$
\frac{dx(t)}{dt} = \frac{p(t)}{m}.
$$

2. 運動量オペレーターの時間変化:
$$
\frac{dp(t)}{dt} = \frac{i}{\hbar} [H, p(t)].
$$
交換子を計算すると、
$$
[H, p] = -i\hbar m\omega^2 x,
$$
したがって、
$$
\frac{dp(t)}{dt} = -m\omega^2 x(t).
$$

これら2つの方程式を連立させると、位置と運動量の時間発展を記述する微分方程式が得られます。

スピン系の時間発展

スピン1/2粒子が磁場中に置かれている場合を考えます。この系のハミルトニアンは次のように書けます。
$$
H = -\gamma \mathbf{B} \cdot \mathbf{S},
$$
ここで、$\gamma$は磁気回転比、$\mathbf{B}$は磁場ベクトル、$\mathbf{S}$: スピン角運動量のオペレーターです。

スピンオペレーターの時間発展をハイゼンベルクの運動方程式で記述すると、以下のようになります。
$$
\frac{d\mathbf{S}}{dt} = \frac{i}{\hbar} [H, \mathbf{S}].
$$
交換子を計算すると、
$$
\frac{d\mathbf{S}}{dt} = \gamma \mathbf{B} \times \mathbf{S}.
$$
この結果は、スピンが磁場中で歳差運動を行うことを示しています。

今回のまとめ

ハイゼンベルクの運動方程式は、量子系の物理量がどのように時間的に変化するかを記述するための強力なツールです。特に、位置や運動量、スピンなどのオペレーターの時間発展を求める際に有用であり、古典力学との対応関係を明確にする点でも重要です。この方程式を理解することで、量子力学の様々な問題に対応できるようになります。

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