量子力学では何を学んだか
これまで49回にわたって量子力学を勉強してきました。最終回である今回は、これまで学習したことを振り返り、我々が何を学んだのか、量子力学とはどのような学問なのかを改めてまとめておくことにしましょう。
前期量子論の学び
前期量子論とは、量子力学が確立される前の発展段階であり、19世紀末から20世紀初頭にかけて登場した理論でした。この段階では、エネルギー量子化、光量子仮説、波動・粒子の二重性といった革新的な概念が提唱され、古典物理学の枠組みを超える新しい視点が生まれました。
プランクの量子仮説
黒体放射のスペクトル分布を説明するため、マックス・プランクはエネルギーが離散的な値を取ると仮定しました(光量子仮説)。この仮定により、黒体放射の実験結果と理論が一致することが示されました。
E=nhν,(n=0,1,2,…)
ここで、h はプランク定数 6.626×10−34 Js、ν は放射の振動数です。この仮説により、ウィーンの放射則やレイリー・ジーンズの法則の矛盾が解消され、放射スペクトルを正確に記述するプランク分布が導かれました。
I(ν,T)=8πhν3c31ehν/kBT–1
ここで、I(ν,T) は単位振動数当たりのエネルギー密度、c は光速、kB はボルツマン定数です。
当時、プランクはこの光量子仮説を、プランクの公式を導出するための仮定に過ぎないと考えていましたが、後にアインシュタインによってより詳細に研究されることになりました。
光量子仮説と光電効果
アルベルト・アインシュタインは、プランクの一連の研究結果に影響を受け、光が粒子的性質を持ち、光量子(フォトン)として振る舞うことを提案しました。これをr光量子仮説といいます。この仮説を基に、光電効果が説明されました。
Kmax=hν–ϕ
ここで、Kmax は放出される電子の最大運動エネルギー、ϕ は金属の仕事関数です。この結果は、光が一定のしきい値以上のエネルギーを持つ場合にのみ電子が放出される現象を説明したことになります。アインシュタインは光電効果の業績が認められ、後にノーベル物理学賞を受賞するに至りました。
ボーアの原子モデル
ボーアは、水素原子のスペクトル線を説明するために、以下の仮定を導入しました。
1. 原子内の電子は定常状態で特定の軌道を周回し、このときエネルギーは量子化される。
2. 電子がある軌道から別の軌道へ遷移するとき、エネルギーの差が光として放出または吸収される。
これらの仮定を用いると、電子のエネルギー準位は次のように表されます。
En=−13.6 eVn2,(n=1,2,3,…)
また、角運動量の量子化条件として
L=nℏ,(n=1,2,3,…)
を提案しました。これにより、リュードベリの式
1λ=R(1n21–1n22)
が導出され、水素原子のスペクトルが説明されることになりました。しかし、ボーアが用いた量子条件は閉じた軌道の運動しか調べることができないなどの問題点もありました。完全な解決には量子力学の発展を待つことになります。
量子力学の学び
1920年代に、シュレーディンガー方程式や行列力学の導入により、量子力学が確立されました。この理論は、古典物理学では説明できない微視的な現象を正確に記述することが可能となりました。
演算子へ
量子力学では、位置xと運動量pを演算子であると考えます。これにより位置は位置演算子、運動量は運動量演算子へと移行します。
そして、それらの演算子の交換関係から、正準交換関係という量子力学における量子化の手続きで非常に重要な役割を担う式が導出されます。
シュレーディンガー方程式
量子力学では、粒子の状態は波動関数 ψ(x,t) で表され、その時間発展はシュレーディンガー方程式に従います。
iℏ∂∂tψ(x,t)=ˆHψ(x,t)
ハミルトニアン ˆH は粒子の運動エネルギーとポテンシャルエネルギーを記述する演算子であり、
ˆH=−ℏ22m∇2+V(x)
で与えられます。
シュレーディンガー方程式の解により、粒子の空間分布や時間発展が記述される。
一度シュレーディンガー方程式を導出した後、我々は演算子やハミルトニアンの時間依存性を調べたりしてきました。
我々は結局、シュレーディンガー方程式をどのように解くのか、ということを議論していたにすぎなかったのです。
これまでのまとめ
50回にわたる量子力学の解説、いかがだったでしょうか。
量子力学は古典力学、電磁気学、熱力学における19世紀末までの問題点を解決したいというモチベーションから発展してきました。
そして21世紀の今、量子力学は現代物理学の素粒子物理学と物性物理学の基礎となる役割を担っています。
これまで学んできたことをもとに読者の皆さんが現代物理学の面白さをたくさん発見していただけることを願っています。