第07講の導入
第05講でニュートンの運動方程式が登場しました。そこで説明したように、物体はニュートンの運動法則に従って運動します。このとき、運動の時間変化を追っても変化しない量、保存量というのが存在します。第07講ではこの保存量を導出してみましょう。
エネルギー保存則
簡単のため1次元空間での運動を考えましょう。質点に働く力は位置xだけに依る力F(x)であるとします。このときの運動方程式
m˙v=F(x)
の両辺に速度vをかけて、時刻0からtまで積分すると
∫t0m˙vvdt=∫t0F(x)vdt
となります。
ここで運動エネルギーを
K(v):=mv22
と定義すると
dKdt=mddt(v22)=m˙vv
が成り立つので、左辺の積分は
∫t0m˙vvdt=∫t0dKdtdt=∫K(v(t))K(v(0))dK=K(v(t))−K(v(0))
とあらわせます。
また位置エネルギーあるいはポテンシャルエネルギーを
U(x):=−∫x0F(x′)dx′
と定義すると
∫t0F(x)vdt=∫t0F(x)dxdtdt=∫x(t)x(0)F(x)dx
が成り立つので、右辺の積分は
∫t0F(x)vdt=∫x(t)x(0)F(x)dx=−U(x(t))+U(x(0))
とあらわせます。
これらより以下が成り立ちます。
K(v(t))+U(x(t))=K(v(0))+U(x(0))
そして力学的エネルギーをE:=K+Uと定義すると、
E(t)=E(0)
が成り立ちます。これは任意の時刻tで成立するので力学的エネルギーEは時間的に変化しない量であることを意味しています。従って、力学的エネルギーRは保存量です。
1次元空間、すなわち直線上で力F(x)を受けながら物体をdxだけ変化させたときの力学的仕事は以下で定義されます。
dW:=F(x)dx
位置x(0)からx(t)まで移動したときの仕事の総量は、各区間の仕事の総和を積分で表現することで、以下のようにあらわせます。
W=∫x(t)x(0)F(x)dx
これはポテンシャルエネルギーの符号を反転させたものです。この力学的仕事の定義を2、3次元の場合に拡張すると以下のようになります。
dW:=F(r)⋅dr
つまり、力学的仕事は力と変位の内積であらわされるということです。位置r(0)からr(t)まで移動したときの仕事の総量は、各区間の仕事の総和を線積分で表現することで、以下のようにあらわせます。
W=∫r(t)r(0)F(r)⋅dr
1次元のときと違い、2、3次元の場合は線積分であらわされるので、仕事は一般に経路の選択に依存します。特に、仕事が経路の選択に依存しないようなとき、力F(r)を保存力と言います。すなわち、保存力のもとでは閉じた経路C について以下が成り立ちます。
∮CF⋅dr=0
一般に、3次元空間における保存力条件は
∇×F=(∂Fz∂y−∂Fy∂z,∂Fx∂z−∂Fz∂x,∂Fy∂x−∂Fx∂y)=0
であることが知られています。これはFの各成分が
F=−∇U(r)=(−∂U∂x,−∂U∂y,−∂U∂z)
を満たす、連続かつ2回以上微分可能なスカラー関数U(x,y,z)が存在することを示しています。
さて、先程は1次元の場合についてエネルギー保存則を導きました。これをもとに、今度は2、3次元運動でのエネルギー保存則を考えましょう。運動エネルギーを
K(v):=mv22
と定義し、ポテンシャルエネルギーは力の場が保存力の条件を満たす場合を考慮して以下のように定義します。
U(r):=−∫r0F(r)⋅dr
このように定義すると、先程と同様、運動方程式
m˙v=F(r)
の両辺について速度vと内積を取って、時刻0からtまで積分すると、結局、以下が成り立ちます。
K(v(t))+U(r(t))=K(v(0))+U(r(0))
よって、1次元の場合と同様に力学的エネルギー
E:=K+U
は保存量です。すなわち、力が保存力である系では、力学的エネルギーは保存量となります。
運動量保存則
運動量を以下のように質量と速度の積で定義します。
p:=mv
これを用いると運動方程式は以下のように書けます。
dpdt=F
さて、2個の質点が衝突して、それらの運動量p1とp2が変化する過程を考えましょう。運動方程式は以下のようになります。
dp1dt=F1 、 dp2dt=F2
衝突の間に外部から力が働かないとすれば、作用・反作用の法則からF2=−F1なので
d(p1+p2)dt=0
となります。物体に瞬間的に大きな力が加わって運動状態が変化する時、その力を撃力と呼びます。撃力を受けたことによる運動量の変化を力積と呼んで、以下のように定義することにします。
Φ:=p(t)−p(0)
すると、運動方程式より
Φ=∫t0dpdtdt=∫t0Fdt
となります。これは、力積は物体が受けた力の和、あるいは蓄積量をあらわしていると言えます。
2個の質点の衝突の間に外力が働いていないとすれば、
∫t0d(p1+p2)dtdt=0
が成り立ち、
p1(t)+p2(t)=p1(0)+p2(0)
と結論出来ます。従って、外力が働いていない系の全運動量は保存量となります。
角運動量保存則
運動量pと原点からの位置rを用いて、原点から測った角運動量を以下のように定義します。
L:=r×p=mr×v
ここで、角運動量はどこから測るかによって値が変わることに注意してください。さて、角運動量の時間変化は
dLdt=drdt×mv+r×dpdt=r×F=N
が成り立ちます。ここで、v×v=0を利用しました。また、NはN:=r×Fで定義される量で、トルク、あるいは力のモーメントと言います。トルクも始点の取り方に依存しています。
力が動径方向に向いた力
F=f(r)rr
のとき、力Fは中心力と呼ばれます。このとき、トルクは
N=r×rf(r)∝r×r=0
となります。従って、中心力の働く系では角運動量は保存されると言えます。換言すれば、中心力の働く系での解軌道は平面内に留まるとも言えます。
第07講のまとめ
最後に一言コメントをして第07講を終わりにしましょう。第07講では運動方程式から始めて保存量の導出を行いました。しかし、ニュートン力学の後で学ぶ解析力学では対称性という考え方をもとにこの保存量を導出することが出来ます。解析力学は量子力学を始めとする現代物理学の基礎になっています。楽しみにしていてください。