$\def\bm#1{{\boldsymbol{#1}}}
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第09講の導入
さて、これまでの議論で運動方程式と保存量の関係が分かりました。さて、次なる段階として第09講では簡単な問題設定について運動方程式を解いてみましょう。ここまでの内容を総動員しますので、第08講までの内容を適宜復習しながら自分の手で計算を進めていってください。
重力による加速
初めに、物体に重力だけが働いているときの落下運動を考えましょう。鉛直下向きに$x$軸を取ると、運動方程式は以下のようになります。
\[
m\dot{v}=mg
\]
これより、初期時刻0に初速度$v(0)$を持っていた物体が時刻$t$に持つ速度$v(t)$は以下のようにあらわせます。
\[
v(t)=v(0)+gt
\]
この速度の下で時刻$t$における位置$x(t)$を求めるには、もう一度積分すれば以下の式が得られます。
\[
x(t)=x(0)+v(0)t+\frac{g}{2}t^2
\]
但し、$x(0)$は初期位置をあらわします。これは$x(0)=v(0)=0$かつ$\alpha=g$とすれば、当然第02講のガリレイの実験での結果に一致します。
粘性抵抗力による減速
次に重力によって落下する物体が粘性抵抗力によって減速する運動を考えましょう。流体中を動く物体には抵抗力が働きます。これを粘性抵抗力と言います。物体の速度が小さいときは粘性抵抗は速度に比例することが知られています。このとき、物体に働く力は、重力と合わせて$F=mb-bv$となります。但し、$b$は比例係数です。このとき、運動方程式は
\[
m\dot{v}=mg-bv
\]
となります。これは変数分離型の常微分方程式なので変数分離を行うと以下のようになります。
\[
\frac{dv}{v-mg/b}=-\frac{b}{m}dt
\]
$v-mg/b=u$とおくと以下のようにあらわせます。
\[
\frac{du}{u}=-\frac{b}{m}dt
\]
これを時刻0から$t$まで積分すると
\[
\ln{u(t)}-\ln{u(0)}=-\frac{b}{m}t
\]
となります。これは対数関数と指数関数の関係から
\[
u(t)=u(0)\mathrm{e}^{-\frac{b}{m}t}
\]
と書き直せます。よって$v(t)$は以下のようになります。
\[
v(t)=v(0)\mathrm{e}^{-\frac{b}{m}t}+\frac{mg}{b}\left(1-\mathrm{e}^{-\frac{b}{m}t}\right)
\]
この方程式から分かるように、落下物体は初速度$v(0)$から徐々に減速し、$t\rightarrow\infty$の極限で$v(t)\rightarrow mg/b$に収束します。これを終端速度と言います。
慣性抵抗力による減速
粘性の大きな流体の中で、小さい物体がゆっくりと運動している場合は前述の粘性抵抗力が支配的になりますが、粘性の小さな流体の中で大きな物体が運動している場合は慣性抵抗力が支配的になります。慣性抵抗力とは流速の2乗に比例する抵抗力です。このとき、物体に働く力は、重力と合わせて$F=mb-bv$となります。但し、$b$は比例係数です。このとき、運動方程式は
\[
m\dot{v}=mg-bv^2
\]
となります。これは変数分離型の常微分方程式なので変数分離を行うと以下のようになります。
\[
\frac{dv}{(mg/b)-v^2}=\frac{b}{m}dt
\]
$\sqrt{mg/b}=c$とおくと以下のようにあらわせます。
\[
\frac{dv}{c^2-v^2}=\frac{b}{m}dt
\]
これを簡単のために初速度$v(0)=0$を仮定して時刻0から$t$まで積分すると
\[
-\ln{(c-v(t))}+\ln{(c+v(t))}=\frac{2bc}{m}t
\]
となります。よって$v(t)$は以下のようになります。
\[
v(t)=c\tanh{\left(\frac{bc}{m}t\right)}=\sqrt{\frac{mg}{b}}\tanh{\left(\sqrt{\frac{bg}{m}}t\right)}
\]
このとき、終端速度は$\sqrt{mg/b}$となります。
摩擦力による減速
物体が動摩擦力を受けて水平な床の上を減速するという運動を考えましょう。まず初めに摩擦力についてまとめておきます。
接触した物体同士に働く摩擦力の性質は、経験則として以下のようにまとめられます。これらをクーロン・アモントンの法則と言います。
- クーロン・アモントンの法則
- 面上に置かれている静止した物体に外力を加えて動かそうとするとき、外力に対抗して物体を静止させ続けようとする力のことを静止摩擦力と言う。外力が一定値を超えると、摩擦力が最大静止摩擦力を超えて動き出す。
- 物体が滑り出した後も、物体の運動方向と逆向きに摩擦力が働く。これを動摩擦力と言う。
- 最大静止摩擦力と動摩擦力は垂直抗力に比例する。このときのそれぞれの摩擦力の比例係数をそれぞれ最大静止摩擦係数、動摩擦係数といい、それぞれ$\mu$、$\mu’$であらわす。
- 最大静止摩擦力は動摩擦力よりも必ず大きくなる。
- 動摩擦力は物体の速度に依存しない。
さて、話を物体が動摩擦力を受けて水平な床の上を減速するという運動に戻しましょう。このときの運動方程式は
\[
m\dot{v}=-\mu’mg
\]
とあらわされます。これを積分すると解として
\[
v(t)=v(0)-\mu’gt
\]
を得ます。但し、この式では$t>v(0)/(\mu’g)$の領域で速度が負になることになりますが、実際は$t=v(0)/(\mu’g)$のとき速度が0になって、動摩擦よりも大きい大きさで静止摩擦力が働くので、速度が0となった段階で物体は停止することになります。
このときの力学的エネルギー保存則について考察してみましょう。初期の運動エネルギーは$mv(0)^2/2$が摩擦力によって失われたことになりますが、物体が動き出してから停止するまでの移動距離$l$は物体が停止した時刻を$t_1$として
\[
l=\int_{0}^{t_1}v(t)dt=\int_{0}^{t_1}(v(0)-\mu’gt)dt=\frac{v(0)^2}{2\mu’g}
\]
となります。よって摩擦力による仕事は
\[
\mu’mgl=\mu’mg\frac{v(0)^2}{2\mu’g}=\frac{mv(0)^2}{2}
\]
となります。よって、時刻0のときに物体が持っていた運動エネルギーは摩擦力によって消失したことが分かります。
第09講のまとめ
最後に一言コメントをして第09講を終わりにしましょう。これまで、様々なところで何度も高校で習った物理の公式が導出されていることに気づいたでしょうか?
高校の物理では公式として丸暗記しなければならない式が沢山ありましたが、それらは本来、数学という道具を用いて導出することが出来ます。誤解を恐れずに言うなれば、大学の古典力学を勉強するという事は、高校の物理で丸暗記した公式を忘れていくということです。理屈抜きに覚えるということをせずに、道具をしっかり使えるようにして、式を導けるように訓練しましょう。