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第17講:$\wp$関数1

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$\wp$関数1

以前述べた$\mathrm{sn}$等の楕円関数ではその一対の基本周期(例えば$4K,2iK’$)は共に母数$k$の関数で、相互にある関係をもって結び付けられています。ゆえに任意の一対の基本周期を与えたときこれをもつような$\mathrm{sn}$関数は必ず存在するとは限りません。しかし$\mathrm{sn}$等の既知の関数でなくともとにかく楕円関数で任意に与えられた一対の基本周期$\left(2\omega_1,2\omega_3\right)$をもつものは確かに存在します。但し、「任意に与える」といっても$\displaystyle\Im\left(\frac{\omega_3}{\omega_1}\right)\gt0$の条件は満足するものと考える必要があります。

今、このような楕円関数の一つを次の式で作ることにしましょう。
\[
f\left(u\right)=\sum\frac{1}{\left(u-w\right)^m}\hspace{1cm}\left(w=2h_1\omega_1+2h_3\omega_3;\ h_1,h_3=0,\pm1,\pm2,\cdots\right)
\]

ここで$h_1,h_3$は各々独立にすべての整数値をとるから$w$はすべての周期点を表すことになります。当分の間は$w$を常にこの意味で用いることとします。それから上式における$\sum$の順序は$w=0$から出発して螺旋的に$\left|w\right|$の大きな値に進むものとします。

数平面上においていずれの$w$をも含まない任意の閉面分を$G$とします。変数$u$が$G$にあるとき、もし上記の級数が一様収束ならば$f\left(u\right)$は$u$の正則関数である。次にそうなるように$m$の値を定めましょう。

$u$は$G$内に限られているから$\left|u\right| < M$となる一定の正数$M$を定めることが出来ます。また$\left|w\right|$は限りなく増大して$\left|w\right|\gt M$となります。 従って \[ \left|u-w\right|\geq q\left|w\right|-\left|u\right|\gt\left|w\right|-M \] ゆえに \[ \sum\frac{1}{\left(\left|w\right|-M\right)^m}\tag{1} \] が収束するならばWeierstrassの定理により \[ \sum\frac{1}{\left(u-w\right)^m} \] は絶対かつ一様収束で、我々は所望の$m$の値を得ることができます。 \[ {\sum}'\frac{1}{\left|w\right|^m}\tag{2} \] も収束します。ただしここで${\sum}'$というのは$w$のあらゆる値の中$w=0$だけ除いてその他をすべて加え合わせることを表しており、この記号は今後常にこの意味で用いることとします。($w=0$としては一つの分母が$0$になって不都合)。 (2)の級数における最初の8項は一つの平行四辺形の周上に並んでいます。原点からこの周にいたる最小及び最大の距離をそれぞれ$r,R$とすれば、今考える8項だけの和(これを$s_1$とする)については \[ \frac{8}{R^m} < s_1 < \frac{8}{r^m} \] の関係が成立します。同様に考えると、次の16項(前の平行四辺形の外側を囲む一回り大きい平行四辺形の周上に並ぶ)の和を$s_2$とすれば \[ \frac{16}{\left(2R\right)^m} < s_2 < \frac{16}{\left(2r\right)^m} \] 同様にして一般に \[ \frac{8n}{\left(nR\right)^m} < s_n < \frac{8n}{\left(nr\right)^m}\hspace{1cm}\left(n=1,2,3,\cdots\right) \] が言えます。これらの不等式を辺々加えれば \[ \frac{8}{R^m}\sum\frac{1}{n^{m-1}} < {\sum}' \frac{1}{\left|w\right|^m} < \frac{8}{r^m}\sum\frac{1}{n^{m-1}} \] 級数$\displaystyle\sum\frac{1}{n^{m-1}}$は$m-1\gt1$すなわち$m\gt2$のときに限り収束することが分かります。ゆえに$m$の最小な整数値は$3$です。 さてこれで \[ f\left(u\right)=\sum\frac{1}{\left(u-w\right)^3}\tag{3} \] が数平面上$w$の点以外においていたる所正則な関数を表すことは解りましたが、これが楕円関数であることを示すには二重周期をもつことと有理型であることを証明しなければなりません。よって今試しに(3)において$u$の代わりに$u+2\omega_1$を入れてみると \[ f\left(u+2\omega_1\right)=\sum\frac{1}{\left\{u-\left(w-2\omega_1\right)\right\}^3}\tag{4} \] となります。すると$w$はすべての周期の値をとるから、$w$の全体と$\left(w-2\omega_1\right)$の全体は結局同一で、ただ$\sum$の中にその現れる順序が違うだけです。しかしこの級数は絶対収束であるため項の順序は変わっても問題ありません。ゆえに(4)の右辺と(3)の右辺は等しいことが言えます。従って \[ f\left(u+2\omega_1\right)=f\left(u\right) \] すなわち$f\left(u\right)$は$2\omega_1$の周期をもちます。全く同様にして$2\omega_3$の周期をもつことも証明できます。厳密にいえば、これだけでは$\left(2\omega_1,2\omega_3\right)$が基本周期であるかどうか判別できませんが、それはすぐ次に述べることでわかります。 さて次は有理型であることを確かめなければなりませんが、既に証明した通り$f\left(u\right)$は$w$以外の点では正則であるから、残る所の$w$の点だけを調べればよいことになります。今$w$の一つを$w_0$とし、 \[ f\left(u\right)=\frac{1}{\left(u-w_0\right)^3}+\sum_{w+w_0}\frac{1}{\left(u-w\right)^3} \] としてみると、右辺の$\sum$の部分は$u=w_0$の十分小さい近傍においては一様収束で従って$u$の正則関数を表します。このことは前に(3)が$G$において一様収束であることを証明したのと全く同様に証明できます。ゆえに$f\left(u\right)$は$u=w_0$において極をもち、その主部は$\displaystyle\frac{1}{\left(u-w_0\right)^3}$であることがわかります。すなわちこの極は第三位です。 すべての$w=2h_1w_1+2h_3w_3$の点が極で、その他に極がないことから、$\left(2\omega_1,2\omega_3\right)$が基本周期であることも分かります。なぜなら、もしこの周期が基本的でなくてさらに細かい周期平行四辺形の網が出来るならばその各図形内にそれぞれ同様の極があるはずで、従って$w$の点以外にも極が無数に存在しなければならないからです。 以上を総合すると、$f\left(u\right)$は第三位の楕円関数であることが分かります。そして$f\left(u\right)$が奇関数であることも(3)の式から分かります。なぜならば$w$と同時に$-w$もすべての周期を表すから \begin{eqnarray*} f\left(-u\right)&=&\sum\frac{1}{\left(-u-w\right)^3}=\sum\frac{1}{\left(u+w\right)^3}\\ &=&-\sum\frac{1}{\left(u-w\right)^3}=-f\left(u\right) \end{eqnarray*} となることは明らかなためです。 これで任意の周期をもつ楕円関数を作成するという当初の目的は達成しましたが、その位数が$3$である所に少し不満足を感じるかもしれません。出来るだけ簡単な関数を得るためにこの位数をなるべく小さくしたいです。しかし前回の定理4の系によって位数が$1$であることは不可能であることが分かっているので、位数を$2$にすることを考えてみましょう。 極の位数を下げるためにしばしば用いられる一つの手段は積分です。$f\left(u\right)$を$0$から任意の一点$u$までいずれの$w$をも通らない経路に沿って積分しようとすると、$f\left(u\right)$は$0$において既に極をもつので$0$を積分の下端とするのに都合が悪いから$f\left(u\right)$の代わりに$\displaystyle f\left(u\right)-\frac{1}{u^3}$を用いることにします。すなわち、 \begin{eqnarray*} \int_0^u\left\{f\left(u\right)-\frac{1}{u^3}\right\}du&=&\int_0^u\left\{{\sum}'\frac{1}{\left(u-w\right)^3}\right\}du\\ &=&{\sum}'\int_0^u\frac{du}{\left(u-w\right)^3}\\ &=&-\frac{1}{2}{\sum}'\left\{\frac{1}{\left(u-w\right)^2}-\frac{1}{w^2}\right\} \end{eqnarray*} よって新たに \[ f_1\left(u\right)={\sum}'\left\{\frac{1}{\left(u-w\right)^2}-\frac{1}{w^2}\right\} \] とおけば、これは$w$以外では一様収束級数で$u$の正則関数を表し、また$u=w$においては明らかに第二位の極をもち、その主部は$\displaystyle\frac{1}{\left(u-w\right)^2}$です。ただし$w$は$0$以外の周期のすべてを表すものでしが、もし$w=0$においても同様の性質の極をもつ関数を求めるならば \[ f_2\left(u\right)=\frac{1}{u^2}+{\sum}'\left\{\frac{1}{\left(u-w\right)^2}-\frac{1}{w^2}\right\} \] とすればよいです。これですべての周期点において第二位の極をもつことにはなりましたが、肝心の周期性をもっているかどうかを次に調べなければなりません。 その準備としてまず第一に$f_2\left(u\right)$が偶関数であることを証明しましょう。それは \begin{eqnarray*} f_2\left(-u\right)&=&\frac{1}{u^2}+{\sum}'\left\{\frac{1}{\left(u+w\right)^2}-\frac{1}{w^2}\right\}\\ &=&\frac{1}{u^2}+{\sum}'\left\{\frac{1}{\left[u-\left(-w\right)\right]^2}-\frac{1}{\left(-w\right)^2}\right\}=f_2\left(u\right) \end{eqnarray*} で明らかです。また実際に微分して \begin{eqnarray*} f_2'\left(u\right)&=&-\frac{2}{u^3}+{\sum}'\left\{-\frac{2}{\left(u-w\right)^3}\right\}\\ &=&-2\left\{\frac{1}{u^3}+{\sum}'\frac{1}{\left(u-w\right)^3}\right\}=-2\sum\frac{1}{\left(u-w\right)^3}\\ &=&-2f\left(u\right) \end{eqnarray*} の関係のあることも分かりません。さて$f\left(u\right)$は楕円関数なので \[ f\left(u+2\omega_1\right)=f\left(u\right) \] 従って \[ f_2'\left(u+2\omega_1\right)=f_2'\left(u\right) \] これを積分すれば \[ f_2\left(u+2\omega_1\right)=f_2\left(u\right)+C \] ただし$C$は積分定数です。これを決定するために$u=-\omega_1$とおき、$f_2\left(u\right)$が偶関数であることを利用すれば \[ f_2\left(\omega_1\right)=f_2\left(-\omega_1\right)+C=f_2\left(\omega_1\right)+C \] $f_2\left(u\right)$は$u=w$の点にのみ極をもつので$f_2\left(\omega_1\right)$は有限値である。よって上の結果から$C=0$を得ます。すなわち \[ f_2\left(u+2\omega_1\right)=f_2\left(u\right) \] これで$f_2\left(u\right)$は$2\omega_1$の周期をもつことが分かります。$2\omega_3$が周期であることも同様にして証明できます。ゆえに$f_2\left(u\right)$は第二位の楕円関数です。 この$f_2\left(u\right)$はWeierstrassの楕円関数論において重要な基本的の関数で、通常$\wp\left(u\right)$の記号で表されます。すなわち \begin{eqnarray*} \wp\left(u\right)&=&\frac{1}{u^2}+{\sum}'\left\{\frac{1}{\left(u-w\right)^2}-\frac{1}{w^2}\right\}\\ \wp'\left(u\right)&=&-2\sum\frac{1}{\left(u-w\right)^3} \end{eqnarray*} これらの関数はいずれも最初に定めた基本周期$2\omega_1,2\omega_3$に関係するものですから、もしこれを明示する必要があるときには$\wp\left(u\left|2\omega_1,2\omega_3\right.\right),\wp'\left(u\left|2\omega_1,2\omega_3\right.\right)$等と書くことになります。 まとめると、$\wp\left(u\right)$及び$\wp'\left(u\right)$はそれぞれ第二位及び第三位の楕円関数で、かつ前者は偶関数、後者は奇関数です。  

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