ϑ関数
これまで議論してきたワイエルシュトラスの楕円関数は理論的には申し分ないが、実際に数値計算を行う際には不便な点が多い。例えば、u,ω1,ω3の数値が与えられたとき、p(u)の数値を出そうとしても定義式から直接計算することはほとんど不可能であるし、p(u)のべき級数を用いるとしてもまずg2,g3の値を知らなければならない。これらの計算はp(u)を定義から直接計算するのと同じくらい困難である。これらの問題を解決するためにϑ関数というものを用いる。
これまでに述べた記号は今後も踏襲するが、さらにまたu2ω1=v, ω3ω1=τとおく。したがってℑ(τ)=ℑ(ω3ω1)>0が成り立つ。
そしてこのv、τを用いてevπi=z, eτπi=qというものを定義する。ℑ(τ)>0であるから、|q|=e−πℑ(τ)<1となる。これは重要な性質である。
さて、次のように四つのϑ関数を定義しよう。
ϑ1(v)=i∞∑n=−∞(−1)nq(2n−12)2z2n−1ϑ2(v)=∞∑n=−∞q(2n−12)z2n−1ϑ3(v)=∞∑n=−∞qn2z2nϑ0(v)=∞∑n=−∞(−1)nqn2z2n}
|q|<1であるから、これらの級数はいずれも0<|z|<∞(vについていえば|v|<∞)となる限り任意の閉面分において絶対かつ一様収束となることは明らかである。
ゆえにϑ関数はすべて整関数である。さていきなりこの定義に接したのではどのような関数か判然しがたいから、次に少し書き直してみよう。まずϑ3(v)が一番簡単な形をしているから、これを採ることにする。
ϑ3(v)=⋯+q4z−4+qz−2+1+qz2+q4z4+⋯=1+q(z2+z−2)+q4(z4+z−4)+⋯=1+q(e2vπi+e−2vπi)+q4(e4vπi+e−4vπi)+⋯=1+2qcos2πv+2q4cos4πv+⋯
他の関数についても同様の変形が行われて次の結果を得る。
ϑ1(v)=2(q14sinπv−q94sin3πv+q254sin5πv−⋯)ϑ2(v)=2(q14cosπv+q94cos3πv+q254cos5πv+⋯)ϑ3(v)=1+2(qcos2πv+q4cos4πv+q9cos6πv+⋯)ϑ0(v)=1−2(qcos2πv−q4cos4πv+q9cos6πv−⋯)}
ゆえにϑ1(v)は奇関数、他の三つは偶関数である。特にv=0とおいたときの値は次の通り。ただしϑ1、ϑ2、⋯はそれぞれϑ1(0)、ϑ2(0)、⋯の略である。ϑ1=0ϑ2=2(q14+q94+q254+⋯)ϑ3=1+2(q+q4+q9+⋯)ϑ0=1−2(q−q4+q9−⋯)}ϑ1においてはϑ1′(0)がしばしば用いられる。すなわちϑ1′=2π(q14−3q94+5q254−⋯)
また四つのϑ関数がいずれも微分方程式∂2ϑ∂v2=4πi∂ϑ∂τを満足させることも明らかである。
参考文献
参考文献は以下の通り。
[1]竹内端三,『楕円関数論』,岩波書店,1936
出版社在庫無し、著作権消失済み。
[2]E.T. Whittaker, et al., A Course of Modern Analysis (AMS PRESS, 1927)
著作権消失済み。
[3]戸田盛和,『楕円関数入門』,日本評論社,2001
[4]戸田盛和,『臨時別冊・数理科学SGC ライブラリ49 ソリトンと物理学』,サイエンス社,2006
同出版社より電子書籍の形で復刊済み。
[5]Landau・Lifshitz,『力学』,東京図書,2017