第2回では剛体の運動(対称な独楽)について扱いましたが、今回は電磁気学の輻射の問題です!
3.1 問題
[問題1] 時間的に変わる電荷分布・電流分布が作るポテンシャルは
{ϕ(r,t)=14πε0∫dr′ ρ(r,t−|r−r′|c)|r−r′|A(r,t)=μ04π∫dr′ i(r,t−|r−r′|c)|r−r′|
で与えられることを示せ(遅延ポテンシャル)。また、電荷保存則
∂ρ∂t+∇⋅i=0
が満たされていれば、Lorenz 条件が自然に成立することを示せ。
[問題2] (0、0、±a)に±qの点電荷が置かれており、このときqがq=q0cosωt=Re(q0e−iωt)と変化する双極子を考える。このとき、2次元にはi=(dq/dt)(0、0、1)の電流が生じている。この振動する双極子が点rに作る場ϕ、Aを求めよ。但し、ω=ck、ka≪1、a≪r=|r|とする。
また、kr≫1(輻射領域)における電場E、磁場H、及びPoynting ベクトルS=E×Hの時間平均を求め、放出される電磁波のエネルギーの方向分布(指向性)を議論せよ。
[問題3] 半径aの円環を周波数ωの高周波電流が流れる場合、円環から遠く離れた点r(|r|≫a)に作られる場ϕ、Aを求めよ。問題2と同様、kr≫1(輻射領域)における電場E、磁場H、及びPoynting ベクトルS=E×Hの時間平均を求め、放出される電磁波のエネルギーの方向分布(指向性)を議論せよ。但し、ka≪1である。
[問題4] 問題2、問題3においてkr≪1(r≫a)の非輻射領域に作られる電磁場を求め、その特徴を議論せよ。これは、ω=ckを考慮すれば、(r/c)≪ω−1、すなわち、原点に置かれた源からの影響が観測点に伝わるのに要する時間に比べて、振動の周期が長い場合に相当する。
3.2 演習問題解答
[問題1]
ϕ、Aの方程式はいずれも非斉次の波動方程式
ΔF(r,t)−1c2∂2F(r、t)∂t2=f(r,t)
の形をしている。ここではGreen 関数を用いてその解を構成することを考える。時間tに対してはFourier 変換
F(r,t)=1√2π∫∞−∞ˆF(r、ω)e−iωtdω、 f(r,t)=1√2π∫∞−∞ˆf(r、ω)e−iωtdt
を用いて色々な振動数を持つ単振動の合成として表す。但しFourier 逆変換はそれぞれ
ˆF(r,ω)=1√2π∫∞−∞F(r,t)eiωtdω、 ˆf(r,ω)=1√2π∫∞−∞f(r,t)eiωtdt
である。こうすると式(1)は
(Δ+k20)ˆF(r,ω)=ˆf(r,ω)
と書き直すことが出来る。この方程式に対して
(Δr+k20)Gk(r,r′)=δ(r−r′)
を満たすGk(r、r′)を3次元空間のGreen 関数という。これを用いれば
ˆF(r,ω)=∫Gk(r,r′)ˆf(r′,ω)dV′
によって式(2)の解を構成することが出来る。但し、Δrはrに関するLaplacian を意味している。式(1)の解は逆Fourier 変換によって
F(r,t)=∫dV′∫∞−∞dt′f(r′,t′)12π∫∞−∞Gk(r,r′)eiω(t−t′)dω
と表される。これを
G(r,t:r′,t′)=12π∫∞−∞Gk(r,r′)eiω(t′−t)dω
を用いて
F(r,t)=∫G(r,t:r′,t′)f(r′,t)dV′dt′
と表す。これらより、G(r,t:r′,t′)は以下の方程式を満たすことが分かる。
(Δr−1c2∂2∂t2)G=δ(r−r′)δ(t−t′)
これを満たすG(r,t:r′,t′)を4次元空間のGreen 関数と言い、それを用いれば式(1)の解が式(5)によって構成されることになる。Green 関数Gkは境界条件ごとに適切なものを選ばなければならない。最も簡単な場合として境界を持たない場合を考えると球対称性よりRにのみ依存することになるので、このときの極座標(R,θ,φ)におけるLaplacian はRのみによる偏微分項だけ考えればいい。結局、式(3)は
(d2dR2+k20)RGk(R)=Rδ(r−r′)=0
となる。これを満たす独立な2つの解は
RG(±)k(R)=C±eikR
であり、定数C±は式(3)から決まり、C±=−14πと求まる。このうちG(+)k(R)を採用し、式(1)の右辺を0に置き換えてできる斉次方程式の解が0であるとすれば
F(r,t)=−∫f(r′,t−R/c)4πRdV′
を得るからここに適切な関数を代入することで所望の式が得られる。\\
後半の問題に関しては、Lorenz 条件と特殊相対性理論の関係について考えれば直ちに分かる。あるいはJefimenko 方程式との関係性を考える方法もある。Jefimenko 方程式について記述されている本としては参考文献[2]などがある。
[問題2]
今、対称性より原点から位置ベクトルrで結ばれるようなある点がy−z平面上にあるとして議論しても一般性を失わない。これを考慮して下図のように座標系と変数を定める。
電気双極子と考えている点の概略図
以下、考える電荷をq(t)=q0cosωtとおくことにする。今、図1から明らかにスカラー遅延ポテンシャルϕ(r,t)は
ϕ(r,t)=14πε0{q0cos(ωt−kR+)R+−q0cos(ωt−kR−)R−}
である。但しR±は余弦定理よりR±=√r2∓2racosθ+a2で与えられる。
さて、a≪r及びka≪1よりR±≃r(1∓arcosθ)→1R±=1r(1±arcosθ)及びcos(ωt−kR±)≃cos{(ωt−kr)+kacosθ}=cos(ωt−kr)cos(kacosθ)∓sin(ωt−kr)sin(kacosθ)≃cos(ωt−kr)∓kacosθsin(ωt−kr)を得る。
これらを代入して遅延スカラーポテンシャルは
ϕ(r,t)≃p0cosθ4πε0r{−ωcsin(ωt−kr)+1rcos(ωt−kr)}
と求められる。但し、p0:=2q0aである。特にkr≫1のとき、
ϕ(r,t)≃−p0ω4πε0c(cosθr)sin(ωt−kr)
と近似できる。
一方、ベクトル遅延ポテンシャルA(r,t)は図1より
A(r,t)=μ04π∫a−a−q0ωsin(ωt−kR)Rezdz
と書ける。ここで先に得た近似式を代入して(但し、kr≫1に基づいた近似は用いていないことに注意)、1次以上の項を省略すれば遅延ベクトルポテンシャルは
A(r,t)≃−μ0p0ω4πrsin(ωt−kr)ezdz
と求められる。これらを利用すれば電場、磁束密度、Poynting ベクトル及びその時間平均はそれぞれ順に以下のように求まる。電磁波のエネルギーは動径方向に放出される。
{E(r,t)=−∇ϕ−∂A∂t=−μ0p0ω24π(sinθr)cos(ωt−kr)eθB(r,t)=∇×A=−μ0p0ω24πc(sinθr)cos(ωt−kr)eφS(r,t)=1μ0E×B=μ0c{p0ω24π(sinθr)cos(ωt−kr)}2er⟨S⟩=(μ0p20ω432π2c)sin2θr2er
また、これより全輻射エネルギー⟨P⟩electricは⟨S⟩:=⟨S⟩⋅erを用いて
⟨P⟩electric=∫π02π⟨S⟩r2sinθdθ=μ0p20ω412πc
と求まる。
[問題3]
今、考えているのは円形回路なので対称性より原点から位置ベクトルrで結ばれるようなある点がx−z平面上にあるとして議論しても一般性を失わない。これを考慮して下図のように座標系と変数を定める。但し、ψはaとrのなす角である。
円形回路と考えている点の概略図
以下、考える電流をI(t)=I0cosωtとおくことにする。今、問題の設定から明らかにスカラー遅延ポテンシャルϕ(r,t)は0である。一方、ベクトル遅延ポテンシャルA(r、t)は
A(r,t)=μ04π∫I0cos(ωt−kR)Rdl′=μ0I0a4π∫2π0cos(ωt−kR)Rcosφeydφ
と書ける。ここで先に課した、考えている点がx−z平面上にあるという条件より、x成分が自明に0となることを計算に用いた。今、aとrの定義及びa⋅rからcosψ=sinθcosφが導けることを利用すれば余弦定理よりR=√r2+a2−2rasinθcosφが得られる。
さて、a≪r及びka≪1よりR≃r(1−arsinθcosφ)→1R=1r(1+arsinθcosφ)及びcos(ωt−kR)≃cos(ωt−kr)+kasinθcosφ=cos(ωt−kr)+cos(kasinθcosφ)−sin(ωt−kr)+sin(kasinθcosφ)≃cos(ωt−kr)−kasinθcosφsin(ωt−kr)を得る。
これらを代入して2次以上の項を省略すれば遅延ベクトルポテンシャルは
A(r,t)≃μ0I0a4πrey∫2π0{cos(ωt−kr)+asinθcosφ×(1rcos(ωt−kr)−ksin(ωt−kr))}cosφdφ=μ0m04π(sinθr){1rcos(ωt−kr)−ksin(ωt−kr)}eφ (8)
と求められる。但し、m0πa2I0である。\\
特にkr≫1のとき、第1項は無視できるからこのときの遅延ベクトルポテンシャルは
A(r,t)≃−μ0m0ω4πc(sinθr)sin(ωt−kr)eφ
と求められる。これを利用すれば電場、磁束密度、Poynting ベクトル及びその時間平均はそれぞれ順に以下のように求まる。電磁波のエネルギーは動径方向に放出される。
{E(r,t)=−∂A∂t=μ0m0ω24πc(sinθr)cos(ωt−kr)eφB(r,t)=∇×A=−μ0m0ω24πc(sinθr)cos(ωt−kr)eθS(r,t)=1μ0E×B=μ0c{m0ω24πc(sinθr)cos(ωt−kr)}2er⟨S⟩=(μ0m20ω432π2c3)sin2θr2er
また、これより全輻射エネルギー⟨P⟩magneticは⟨S⟩:=⟨S⟩⋅erを用いて
⟨P⟩magnetic=∫π02π⟨S⟩r2sinθdθ=μ0m20ω412πc3
と求まる。これと問題2で導いた⟨P⟩electricより
⟨P⟩magnetic⟨P⟩electric=(m0p0c)2→(ωac)2 ( (問題2における2a)=(問題3における πa) )
問題の条件よりこの値は非常に小さい。これは本問題のように電気的な寄与がないという設定に限り磁気双極子輻射があらわになることを意味している。
[問題4]
定常状態における電気双極子モーメント及び磁気双極子モーメントをそれぞれ
p(t)p0ez、m(t)m0ezと定義する。
kr≪1の条件の下で、問題2における遅延スカラーポテンシャル、遅延ベクトルポテンシャル、電場、磁束密度は式(6)及び式(7)よりそれぞれ
{ϕ(r,t)=14πε0p⋅rr3A(r,t)=0E(r,t)=14πε0{3(p⋅r)r5r−1r3p}B(r,t)=0
となる。これは定常状態における電気双極子が与える結果に等しい。
kr≪1の条件の下で、問題3における遅延スカラーポテンシャル、遅延ベクトルポテンシャル、電場、磁束密度は式(8)及びϕ(r,t)=0よりそれぞれ
{ϕ(r,t)=0A(r,t)=μ04πm×rr2E(r,t)=0B(r,t)=μ04π{3(m⋅r)r5r−1r3m}+μ0δ(r)m
となる。これは定常状態における磁気双極子が与える結果に等しい。
但し、δ(r)はDirac のデルタ関数である。また、勝手な3次元ベクトルX、Yと位置ベクトルrに成り立つ以下の公式を用いた。
{rot(X×Y)=(Y⋅∇)X−(X⋅∇)Y+XdivY−YdivXdivrr3=−divgrad1r=4πδ(r)
参考文献
[1] 中村徹『電磁気学 第2版』、日本評論社、2017
[2] David J. Griffiths『Introduction to Electrodynamics』, Pearson Education, 2013