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第37講:絶対不等式

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絶対不等式

g2g3についてさらに考察する。

g2=601(2h1ω1+2h3ω3)4=60(2ω1)41(h1+h3τ)4g3=1401(2h1ω1+2h3ω3)6=140(2ω1)61(h1+h3τ)6

(2ω1)4g2及び(2ω1)6g3は定数因数を無視すればそれぞれ

1(m+nτ)α(m, n は整数, α>2)

の形をもつ。次にこの級数がτの上半面にある任意の閉面分において一様収束であることを証明しよう。τ=x+yiとし、またεkを任意の正数とすれば

|m+nτ|2ε2|m+ni|2=(m+nx)2+n2y2ε2(m2+n2)=m2(11k2ε2)+(1km+knx)2   +n2{y2(k21)x2ε2}

ここでk>1かつεを十分小さな正数と仮定すれば第一の括弧内は正となる。第二の括弧内はもちろん負にならず、また考える閉面分においては|x|N|y|ηのような定数Nηが存在するから、kεをそれぞれ10に十分近くとれば上の最後の括弧{  }内も正となる。よって結局εが十分小さな正数ならば

|m+nτ|>ε|m+ni|

のようにすることが出来る、したがって

1|(m+nτ)α|<1εα1|(m+ni)α|

を得る。この右辺が収束することは明らかである。ゆえに1(m+nτ)αは一様収束である。

したがってこの級数をτの関数と考えれば上半面内の任意の面分において(略して言えば、上半面において)常に正則である。g2またはg3自身はτのみの関数でなくω1にも関係するが、g23÷g32のようなものを考えればこれはτのみの関数で、分母が0とならない限り上半面内において正則である。分母が0とならないような関数を作るには

J(τ)=g23g2327g32

とすればよい。この分母は数字因数を無視すれば方程式

43g2g3=0

の判別式に他ならないが、この方程式の根はe1e2e3で互いに異なる、したがって判別式は決して0とならない。ゆえにJ(τ)は上半面内の全部において正則な関数である。J(τ)の数値を考えるにはこれをq=eτπiの関数として表す方が便利なこともある。それには

g2=112(πω1)4{1+240(q2+9q4+)}g3=1216(πω1)6{1504(q2+33q4+)}

を出してJの定義の式(1)に代入すればよい。計算の結果は

J(τ)=1123(1q2+744+196884q2+)

となる。g2及びg3はともに0以外のすべての周期のある負冪の総和であるからω1ω3

ω1=aω1+bω3,ω3=cω1+dω3

の置換を行っても不変である。したがってJ(τ)τ

τ=ω3ω1=cω1+dω3aω1+bω3=c+dτa+bτ

の一次変換を行っても不変である、すなわち

J(c+dτa+bτ)=J(τ),adbc=1

よってJ(τ)のことを絶対不等式といい、このような変換を総称して母数変換という。今後(3)のような変換を(abcd)の記号で示す。adbc=1の整数は無数にあるから、母数変換は無限に多くある、そしてその全体は群を作る、これを母数群という。この群のすべての元は特別な二元

S=(1011),T=(0110)

すなわち

τ=τ+1,τ=1τ

によって組成される。その証明は次のように行うことができる。まず任意の一つの母数変換を

M=(abcd)

とすれば

S±1M=(10±11)(abcd)=(ab±a+c±b+d)TM=(0110)(abcd)=(cdab)

である。ゆえに、与えられたMにおいてもし|b|>|d|ならばMの代わりにTMを考えることにして、結局|b||d|の場合のみを考えればよい。そこで正または負のαを適当にとり

SαM=(abαa+cαb+d),|αb+d|<|b|

とし、その結果を

SαM=(abcd)

と記す。もしd0ならば、この結果にTの変換を行って

TSαM=(cdab)

次にβを適当にとり

SβTSαM=(cdβcaβdb),|βdb|<|d|

のようにする。このような手続きを繰り返して常に右下の端の数の絶対値を減少させるようにすれば、手順を繰り返すことで

TSβTSαM=(a1b1c10)

の形となる。そのとき

|a1b1c10|=b1c1=1

となる。したがってb1=1c1=1またはb1=1c1=1。しかし行列の四つの数の符号を同時に変えても変換としては同一であるから、いま後者の値をとれば

(a1b1c10)=(a1110)

したがって

T(a1b1c10)=(10a11)=Sa1

ゆえに(5)から

M=SαTSβTTSa1

を得る。

参考文献

参考文献は以下の通り。

[1]竹内端三,『楕円関数論』,岩波書店,1936
出版社在庫無し、著作権消失済み。

[2]E.T. Whittaker, et al., A Course of Modern Analysis (AMS PRESS, 1927)
著作権消失済み。

[3]戸田盛和,『楕円関数入門』,日本評論社,2001

[4]戸田盛和,『臨時別冊・数理科学SGC ライブラリ49  ソリトンと物理学』,サイエンス社,2006
同出版社より電子書籍の形で復刊済み。

[5]Landau・Lifshitz,『力学』,東京図書,2017

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