MENU

第38講:基本領域

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

$\def\bm#1{{\boldsymbol{#1}}}
\def\coloneqq{{:=}}$

基本領域

ペー関数$\wp(u)$は$u^\prime=u+2\omega_1$、$u^\prime=u+2\omega_3$の二変換及びそれから組成されるすべての変換によって不変である。$J(\tau)$の二変換及びそれから組成される変換によって不変である点は楕円関数と似ているが、それならば周期平行四辺形に対応するものはどのような図形であるか、次にこれを研究しよう。
 $\tau$に任意の母数変換$\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$を行った結果を

\[\tau^\prime=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}\tau=\frac{c+d\tau}{a+b\tau}\]

とするとき、$\tau$と$\tau^\prime$を母数群に関して互いに同等であるという。$\tau$平面の上半面に適当な面分$D$をとり、$D$内のいずれの二点も互いに同等でなく、上半面のいずれの二点も必ず$D$内の一点と同等であるようにしたとき、その$D$を母数群の(または関数$J(\tau)$の)基本領域という。$D$は関数$J(\tau)$に関してあたかも楕円関数における周期平行四辺形のような役目をなすものである。母数群の変換はすべて$\tau^\prime=\tau+1$及び$\tau^\prime=-\dfrac{1}{\tau}$で組成される。前者から考えれば$D$の面分は虚軸に平行な間隔$1$の平行線で区切られることが想像される、また後者から考えれば$D$は単位円で区切られることも想像される。そこで$\tau=x+yi$とおき、

\[-\frac{1}{2}\leqq x\lt\frac{1}{2},\hspace{1cm}x^2+y^2\geqq1\]

の面分をとって$D$の候補者とし、便宜上これをやはり$D$と呼ぶことにする。母数群の基本領域$D$の候補者を図示する。まず$D$が(i)の性質をもつかどうかを調べる。それには$D$内の$\tau$と同等な

\[\tau^\prime=\frac{c+d\tau}{a+b\tau}\]

が($\tau^\prime=\tau$の場合を除き)必ず$D$の外に出るかどうかを見ればよい。次に四つの場合に分けてこれを吟味する。$b=0$のとき。$ad-bc=1$から$a=d=1$。($a$、$b$、$c$、$d$全部の符号を変えても差し支えないから$a=d=-1$はとらないことにする。)したがって

\[\tau^\prime=\tau+c\]

ゆえに$c\neq0$である限り$\tau^\prime$は$D$の外にある。$b=1$のとき、$c=ad-1$となる。したがって

\[\tau^\prime=d-\frac{1}{a+\tau}, \left|\tau^\prime-d\right|=\frac{1}{\left|\tau-\left(-a\right)\right|}\]

$a$は整数であるから、$D$内の$\tau$と$\left(-a\right)$の間の距離$\left|\tau-\left(-a\right)\right|$は一般に$1$より大きい。したがって$\left|\tau^\prime-d\right|\lt1$。ゆえに$\tau^\prime$は一般に$D$の外にある。ただここに例外となるのは$a=d=0$の場合で、そのときは$\tau$と$\tau^\prime$がともに$D$の境界線である単位円の弧上にある。これを避けるには円弧の中$-\dfrac{1}{2}\leqq x\leqq0$の部分のみを$D$に属させることにすればよい。そうしてもなお$\tau$と$\tau^\prime$がともに$D$に属する場合が三つある、それは$\tau=i$を$\begin{pmatrix}0&1\\-1&0\end{pmatrix}$で変換すると$\displaystyle\tau^\prime=-\frac{1}{\tau}=i$$\tau=\rho$を$\begin{pmatrix}0&1\\-1&-1\end{pmatrix}$$\displaystyle\tau^\prime=-\frac{1+\tau}{\tau}=\rho,\ \ \left(\rho=\frac{-1+\sqrt{3}i}{2}\right)$$\tau=\rho$を$\begin{pmatrix}1&1\\-1&0\end{pmatrix}$$\displaystyle\tau^\prime=-\frac{1}{1+\tau}=\rho$で、この他にはない。ゆえに規約的に$i$、$\rho$の点はそれぞれ$\dfrac{1}{2}$、$\dfrac{1}{3}$だけ$D$に属すると考えることにする。$b=-1$のとき、係数全部の符号を変えればよい。

$\left|b\right|\gt1$のとき、$\left|b\right|\geqq2$である。さて一般に

\[\tau^\prime-\frac{d}{b}=-\frac{1}{b^2}\frac{1}{\displaystyle\tau+\frac{a}{b}}\]

すると$\dfrac{a}{b}$がどのような有理数であっても、$\tau$が$D$にあるならば

\[\left|\tau+\frac{a}{b}\right|\geqq\frac{\sqrt{3}}{2}\]

となることは明らかである。よって

\[\frac{\sqrt{3}}{2}\left|\tau^\prime-\frac{d}{b}\right|\leqq\frac{1}{b^2}\leqq\frac{1}{4}\]

ゆえに

\[\left|\tau^\prime-\frac{d}{b}\right|\leqq\frac{1}{2\sqrt{3}}\leqq\frac{\sqrt{3}}{2}\]

すなわち$\tau^\prime$は実軸上の一点$\dfrac{d}{b}$から$\dfrac{\sqrt{3}}{2}$よりも小さな距離にあるから、もちろん$D$内にはない。以上の研究によって$D$の境界線の中($i$、$\rho$の二点だけは上記のような特別扱いにする。)。$D$の各点に

\[S\colon\ \ \tau^\prime=\tau+1\]

の変換を行えば、ちょうど$D$の右隣にある合同図形の面分内に移る。よってこの面分を$S$と呼ぶ。$S$を繰り返して行えば次々に$S^2$、$S^3$、$\cdots$を得る。またその逆変換$\tau^\prime=\tau-1$を考えれば$S^{-1}$、$S^{-2}$、$\cdots$を得る。また

\[T\colon\ \ \tau^\prime=-\frac{1}{\tau}\]

も得られる。厳密に考えればここに注意すべき件が二つある。第一は$D$からこのようにして次第に作られる面分での$\tau$の上半面が全て覆われることである。仮に$y\gt h\left(0\lt h\lt1\right)$の部分が$D$、$S$、$T$、$\cdots$で全部覆われたとすれば、それらにさらに$T$を行った$TD$、$TS$、$T^2$、$\cdots$すなわち$T$、$TS$、$D\cdots$で円の内部が覆われる。この円と$x=\dfrac{1}{2}$の交点の縦線を$h^\prime$とすれば、上記の$T$、$TS$、$D$、$\cdots$及びこれに$S$の冪を行ったもので$y\gt h^\prime$の部分が全部覆われる。さて計算してみると

\[h^\prime=\frac{1-\sqrt{1-h^2}}{2h}\lt\frac{h}{2}\]

これによって$x$軸にどれほど近い点でもついには覆われることがわかる。第二には$D$、$S$、$T$、$\cdots$等の面分が互いに重なり合わないことである。なぜならば、もし仮に$A$、$B$の二面分が重なり合う部分をもつならば、その部分に一点$\tau^\prime$をとれば、$D$内のある二点$\tau_1$、$\tau_2$に対して$\tau^\prime=A\tau_1$、$\tau^\prime=B\tau_2$、したがって$\tau_1=A^{-1}B\tau_2$、すなわち$D$内に互いに同等な二点があることになって前に証明したことに反する($i$、$p$と同等な点は例外である。)。このようにして上半面が全部覆われることからして$D$がこれらの性質をももつことは明らかである。これによると今まで述べて来たように$D$の境界線を半分だけこれに属すると考えれば、これはすなわち一つの基本領域である($D$に限らず$S$、$T$、$\cdots$等のいずれを取っても基本領域である。)。

参考文献

参考文献は以下の通り。

[1]竹内端三,『楕円関数論』,岩波書店,1936
出版社在庫無し、著作権消失済み。

[2]E.T. Whittaker, et al., A Course of Modern Analysis (AMS PRESS, 1927)
著作権消失済み。

[3]戸田盛和,『楕円関数入門』,日本評論社,2001

[4]戸田盛和,『臨時別冊・数理科学SGC ライブラリ49  ソリトンと物理学』,サイエンス社,2006
同出版社より電子書籍の形で復刊済み。

[5]Landau・Lifshitz,『力学』,東京図書,2017

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。