$\def\bm#1{{\boldsymbol{#1}}}
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母数関数の値
今回は基本領域$D$における関数$J(\tau)$の値について調べよう。
まず$D$内の特別な点$\tau=i$においては$g_3=0$だから、$J(i)=1$である。
同様に考えて$\tau=\rho$においては$g_2=0$だから、$J(\rho)=0$である。
次に$\tau=x+yi$とすれば、
\[q=e^{\tau\pi i}=e^{-y\pi}\cdotp e^{x\pi i}\]
故に$y\rightarrow\infty$のとき$\left|q\right|=e^{-y\pi}\rightarrow0$である。したがって$J(\tau)\rightarrow\infty$となることが分かる。
すなわち$D$内において$\tau\rightarrow\infty$のときは
\[J\left(\infty\right)=\infty\]
従って、$a$を任意の有限値とすれば$J(\tau)=a$となる$\tau$の虚部は限りなく大きくはない。ゆえに$x$軸より十分大きな距離にこれと平行に$cc^\prime$を引けば$J(\tau)=a$になる$\tau$がもしあるとすれば、$cc^\prime$以下の$D$の部分にあると考えてよい。特に$a\neq0$、$1$とし、$J(\tau)=a$となるような$\tau$が$D$の境界線上にはないとすれば、内部にある$\tau$の個数は次の式で与えられる。
\[N=\frac{1}{2\pi i}\int\frac{J^\prime(\tau)}{J(\tau)-a}d\tau\]
この積分を周囲の部分によって分ければ
\[N=2\pi i\left\{\int_\rho^i+\int_i^{-\rho^2}+\int_{-\rho^2}^{c^\prime}+\int_{c^\prime}^c+\int_c^\rho\right\}\]
すると$J(\tau)$の性質より明らかに
\[\int_\rho^i+\int_i^{-\rho^2}=0,\hspace{1cm}\int_c^\rho+\int_{-\rho^2}^{c^\prime}=0\tag{$1$}\label{1}\]
ゆえに
\[N=\frac{1}{2\pi i}\int_{c^\prime}^c\frac{J^\prime(\tau)}{J(\tau)-a}d\tau=\frac{1}{2\pi i}\left[\log\left\{J(\tau)-a\right\}\right]_{c^\prime}^c\]
ここで、$y$が十分大きいとすれば、
\[J(\tau)-a=\frac{1}{12^3}e^{2y\pi}\cdotp e^{-2x\pi i}\left(1+\varepsilon\right)\]
ここで$y\rightarrow\infty$のとき$\varepsilon\rightarrow0$である。したがって
\[\left[\log\left\{J(\tau)-a\right\}\right]_{c^\prime}^c=2\pi i+\left[\log\left(1+\varepsilon\right)\right]_{c^\prime}^c\rightarrow2\pi i\]
これから$N=1$を得る、すなわち$J(\tau)$は$a$の値を$D$の内部においてただひとつとるのである。次に$J(\tau)=a\left(a\neq0,\ 1\right)$となる$\tau$が$D$の境界線上に有るかも知れないと考えても、その個数は有限で、また$\tau=\rho$、$i$でないことは明らかである。
よってその場合にはそれらの$\tau$を中心として円弧を描き、これを積分路に入れる。ただし$A^\prime$は$A$に$S$の変換を行ったもの、すなわち$A^\prime=SA$、同様の意味で$B^\prime=TB$である。しかしこのような積分路をとっても$\eqref{1}$はやはり成立する。したがってやはり$N=1$の結果を得る。
次は$J(\tau)=1$となる$\tau$を考える。既に知られるように$J(i)=1$であるから、$i$以外にこのような$\tau$がいくつあるかを調べればよい。その積分を簡単にして
\[\int_B+\int_{c^\prime}^c=\int_B+2\pi i\]
となるこの第一項の積分を次に考える。$TB=B^\prime$とすれば$B+B^\prime$は$i$を負の向きに一周する経路であって
\[\int_{B+B^\prime}=\int_B+\int_{B^\prime}=2\int_B\]
一方において$B$を十分小さいとすれば$B+B^\prime$の内部で$J(\tau)-1=0$となる点は$i$のみとなり、かつ
\[J(\tau)-1=\frac{27{g_3}^2}{{g_2}^3-27{g_3}^2}\]
であるから、$i$において$J(\tau)-1=0$すなわち${g_3}^2=0$となる位数は$2$の倍数である、これを仮に$2\nu$とすれば
\[\int_{B+B^\prime}=-2\pi i\cdotp2\nu\]
よって
\[\int_B=-2\pi i\cdotp\nu\]
したがって
\[N=\frac{1}{2\pi i}\left(\int_B+2\pi i\right)=1-\nu\]
ここで$N\geqq0$、$\nu\geqq1$でなければならない、よって
\[N=0,\hspace{1cm}\nu=1\]
これで$J(\tau)=1$となる点は$D$内に$i$の他にはなく、また$\tau=i$においては第二位に$J(\tau)=1$となることが判る。最後に$J(\tau)=0$の場合を考える、これは$\rho$以外の点だけを調べればよい。これを簡単にすれば
\[\int_A+\int_B+\int_{c^\prime}^c=\int_A+\int_B+2\pi i\]
となる。始めの二つの積分を計算するために
\[\begin{array}{lll}A^\prime=TSA, & A^{\prime\prime}=S^{-1}TA, & \\B^\prime=TB, & B^{\prime\prime}=S^{-1}TS^{-1}B, & B^{\prime\prime\prime}=S^{-1}B\end{array}\]
として、さらに
\[C=A+B^\prime+A^\prime+B^{\prime\prime}+A^{\prime\prime}+B^{\prime\prime\prime}\]
とすれば
\[\int_C=3\left(\int_A+\int_B\right)\]
$C$の内部にある$J(\tau)$の零点は$\rho$で、$J(\tau)=0$すなわち${g_2}^3=0$となる位数は$3$の倍数である、これを$3\nu$とすれば
\[\int_A+\int_B=-2\pi i\cdotp\nu\]
したがってまた$N=1-\nu$となり、これから
\[N=0,\hspace{1cm}\nu=1\]
を得る。ゆえに$J(\tau)$は$D$内では$\tau=\rho$においてのみ$0$となり、その位数は$3$である。
以上をまとめると、$J(\tau)=a$となる$\tau$は、$a\neq0$、$1$ならば$D$内にただ1つ、$a=1$ならば2つ(共に$\tau=i$)、$a=0$ならば3つ(共に$\tau=\rho$)ある。
しかし$i$は$\dfrac{1}{2}$だけ、$\rho$は$\dfrac{1}{3}$だけ$D$に属すると考えられる。
結局、$J(\tau)$は一つの基本領域においてあらゆる有限値を一度ずつとるということが出来る。これからただちに$J(\tau)=J\left(\tau^\prime\right)$のときは、$\tau$と$\tau^\prime$は同等であることが判る。
なぜならば、一つの$\tau$と同等な$\tau^\prime$は各基本領域内に一つずつあって、その$\tau^\prime$に対しては、既に知られるように$J\left(\tau^\prime\right)=J(\tau)$である。もしこの他に$J\left(\tau^{\prime\prime}\right)=J(\tau)$となる$\tau^{\prime\prime}$があるとすれば、その$\tau^{\prime\prime}$のある基本領域内では$J$が二点$\tau^\prime$及び$\tau^{\prime\prime}$で同一の値をとることとなり、上に証明したことに反する。次に$\tau$平面と$J(\tau)$の平面の対応を考えてみよう。
まず$\tau$平面の$x=\Re(\tau)=0$の直線を考える。このとき$\tau$は純虚数である、そして$\omega_1$と$\omega_3$の比のみを考えればよいのであるから、$\omega_1$を実数としても差し支えない。そうすればすべての周期点は実軸に関して対称である。したがって$g_2$、$g_3$は共に実数、したがってまた$J(\tau)$も実数でなければならない。
$\Re(\tau)=\pm\dfrac{1}{2}$の場合にも$\omega_1$を実数とすれば周期点は実軸に関して対称となる。また$\left|\tau\right|=1$のときは$\omega_2$を実数とすれば同様である。ゆえにいずれにしても$J(\tau)$は実数である。
これによると$\tau$平面上の$D$の基本領域の周囲及び$y$軸は、$J(\tau)$平面の実軸に対応することを知る。
これから鏡像の理論によって他の基本領域と$J$平面の対応が得られ、結局$\tau$の上半面は無数に多くの$J$平面が$\infty$、$0$、$1$を分岐点として連結されたRiemann面に対応することがわかる。
参考文献
参考文献は以下の通り。
[1]竹内端三,『楕円関数論』,岩波書店,1936
出版社在庫無し、著作権消失済み。
[2]E.T. Whittaker, et al., A Course of Modern Analysis (AMS PRESS, 1927)
著作権消失済み。
[3]戸田盛和,『楕円関数入門』,日本評論社,2001
[4]戸田盛和,『臨時別冊・数理科学SGC ライブラリ49 ソリトンと物理学』,サイエンス社,2006
同出版社より電子書籍の形で復刊済み。
[5]Landau・Lifshitz,『力学』,東京図書,2017






