母数関数の意味
J(τ)の性質を複数回にわたって議論してきた。ここでJ(τ)の任意の有理関数R{J(τ)}=f(τ)を考えることにしよう。
これが次の三つの性質をもつことは明らかである。
1) τに母数変換を行ってもf(τ)は不変である。
2) τがD内にあるとき、τ=∞だけを除いて、f(τ)は有理型である。他の基本領域においてもこれに準じる。
3) τがD内にあって∞となるとき、f(τ)は有限確定の極限値をもつかまたは無限大となる。(不確定とならないこと。)
4) f(τ)はDにおいてすべての値を同じ度数だけとる。逆に、以上の中で1), 2), 3)の3つの性質をもつτの一価解析関数f(τ)は必ずJ(τ)の有理関数で、したがって(IV)も成立する。次にこれを証明する。
まずこのような関数f(τ)をJの関数と考えてf(τ)=F(J)とする。τ平面上のDはJ平面を実軸の(−∞, 1)の部分で切り割いたものに対応する。F(J)は2) によってここで有理型である。するともしf(τ)が1) の性質をもてば、今言ったJ平面の切れ目の両岸でF(J)は全く同じ値をとり正則に接続される。したがってF(J)はJの関数として通常の数平面において点∞以外で有理型である。よってその上に3) が成立すればF(J)は確かにJの有理関数である。
次はf(τ)の条件を緩和して、1) の代わりに(I′)τにあらゆる母数変換を行うときf(τ)は有限個(例えばm個)だけの相異なる関数に変わるとし、2) 及び3) は前の通りとしたとき、f(τ)はいかなる関数であるかを考える。このような関数を総称して母数関数という、J(τ)及びその有理関数は母数関数のm=1の特別の場合である。
f(τ)のτにあらゆる母数変換を行って得る相異なる結果を
f(τ), f1(τ), f2(τ), ⋯, fm−1(τ)
とする。母数変換全部の集合(すなわち母数群)をGとし、その中でf(τ)を不変にする変換全部の作る部分群をG0とすれば、
G=G0+H1G0+H2G0+⋯+Hm−1G0=G0+G0H1−1+G0H2−1+⋯+G0Hm−1−1
ここにH1、H2、⋯はそれぞれf(τ)をf1(τ)、f2(τ)、⋯に変える一つの母数変換である。f1(τ)を不変にする母数変換の全部はH1G0H1−1で与えられ、これはG0と同型である。そしてf1(τ)のτにあらゆる母数変換を行えばやはりm個の関数(1)を得る。f2(τ)以下の関数についても同様である。ゆえに(1)のm個の関数はいずれも同等の資格をもつ母数関数である。
これらを根とする方程式
{x−f(τ)}{x−f1(τ)}⋯{x−fm−1(τ)}=xm+R1xm−1+⋯+Rm=0
を考えれば、係数Rは(1)の関数の対称式であるから任意の母数変換によって不変であることは容易に証明される。したがってRはJ(τ)の有理関数であり、母数関数はすべてJ(τ)の代数関数である。また逆に次の定理が成立する。f(τ)がτの上半面において一価解析でかつJ(τ)の代数関数ならば、f(τ)は母数関数である。
なぜならばこのようなf(τ)は明らかに1) 及び2) 、3) の性質をもつからである。
以前、母数群Gまたは関数J(τ)の基本領域を定義したが、Gの代わりにG0を用いて同節の1) 、2) と同様の条件で定められる面分を部分群G0またはこれに対応する母数関数f(τ)の基本領域という。
G0の基本領域を求めるには、Gの一つの基本領域Dをとり、これにH1−1、H2−2、⋯を行って得る領域をDに併合すればよい。しかし実際には基本領域の形を都合よくするために必ずしもこの方法によらず、これと同様の意味をもつ適宜の方法をとることもある。
参考文献
参考文献は以下の通り。
[1]竹内端三,『楕円関数論』,岩波書店,1936
出版社在庫無し、著作権消失済み。
[2]E.T. Whittaker, et al., A Course of Modern Analysis (AMS PRESS, 1927)
著作権消失済み。
[3]戸田盛和,『楕円関数入門』,日本評論社,2001
[4]戸田盛和,『臨時別冊・数理科学SGC ライブラリ49 ソリトンと物理学』,サイエンス社,2006
同出版社より電子書籍の形で復刊済み。
[5]Landau・Lifshitz,『力学』,東京図書,2017