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量子力学における角運動量2
前々回に角運動量演算子について扱いました。前回は交換関係の計算方法について扱いました。
量子力学における角運動量は、系の回転対称性を記述する重要な概念です。角運動量演算子は、位置演算子や運動量演算子とともに、交換関係を満たし、その性質は量子系の回転対称性や保存量に関連しています。そこで今回は、角運動量演算子に関する基本的な定義から、交換関係の詳細な計算までを説明します。
角運動量演算子の定義
角運動量演算子について簡単に復習しておきましょう。
角運動量演算子は以下のように定義されます。
$$
\mathbf{L} = \mathbf{r} \times \mathbf{p},
$$
ここで、\(\mathbf{r} = (x, y, z)\)は位置演算子のベクトル、\(\mathbf{p} = (p_x, p_y, p_z)\)は運動量演算子のベクトルです。具体的には、角運動量演算子の各成分は次のように書けます。
\begin{align*}
L_x &= y p_z – z p_y, \\
L_y &= z p_x – x p_z, \\
L_z &= x p_y – y p_x.
\end{align*}
これらは交換関係に従い、系の回転対称性を表現します。
位置演算子と角運動量演算子の交換関係
位置演算子\(x, y, z\)と角運動量演算子\(L_x, L_y, L_z\)の交換関係を計算します。
例えば、\([x, L_x]\)を計算します。
$$
L_x = y p_z – z p_y \quad \Rightarrow \quad [x, L_x] = [x, y p_z – z p_y].
$$
交換関係の線形性を利用して展開すると、
$$
[x, L_x] = [x, y p_z] – [x, z p_y].
$$
個々の項を計算します。\([x, y p_z]\)の計算では、\([x, y] = 0\)(位置演算子同士の交換関係)と\([x, p_z] = 0\)(異なる軸の位置・運動量演算子の交換関係)を用います。
$$
[x, y p_z] = y [x, p_z] = 0.
$$
同様に\([x, z p_y]\)も計算すると、
$$
[x, z p_y] = z [x, p_y] = i\hbar z.
$$
したがって、\([x, L_x] = 0 – i\hbar z = -i\hbar z\)となります。
他の成分についても同様に計算すると、
\begin{align*}
[x, L_y] &= i\hbar y, \\
[x, L_z] &= 0.
\end{align*}
これらをまとめると、位置演算子と角運動量演算子の交換関係は以下のようになります。
$$
[x_i, L_j] = i\hbar \epsilon_{ijk} x_k,
$$
ここで\(\epsilon_{ijk}\)は完全反対称テンソルです。
運動量演算子と角運動量演算子の交換関係
次に、運動量演算子\(p_x, p_y, p_z\)と角運動量演算子\(L_x, L_y, L_z\)の交換関係を計算します。
例えば、\([p_x, L_x]\)を計算します。
$$
L_x = y p_z – z p_y \quad \Rightarrow \quad [p_x, L_x] = [p_x, y p_z – z p_y].
$$
展開すると、
$$
[p_x, L_x] = [p_x, y p_z] – [p_x, z p_y].
$$
個々の項を計算します。\([p_x, y p_z]\)の計算では、\([p_x, y] = -i\hbar \delta_{xy}\)と\([p_x, p_z] = 0\)を用います。
$$
[p_x, y p_z] = [p_x, y] p_z + y [p_x, p_z] = -i\hbar p_z.
$$
同様に\([p_x, z p_y]\)を計算すると、
$$
[p_x, z p_y] = [p_x, z] p_y + z [p_x, p_y] = 0.
$$
したがって、\([p_x, L_x] = -i\hbar p_z\)となります。
他の成分についても同様に計算すると、
\begin{align*}
[p_x, L_y] &= i\hbar p_y, \\
[p_x, L_z] &= 0.
\end{align*}
これらをまとめると、運動量演算子と角運動量演算子の交換関係は以下のようになります。
$$
[p_i, L_j] = i\hbar \epsilon_{ijk} p_k.
$$
角運動量演算子同士の交換関係
角運動量演算子同士の交換関係を計算します。
例えば、\([L_x, L_y]\)を計算します。
$$
L_x = y p_z – z p_y, \quad L_y = z p_x – x p_z \quad \Rightarrow \quad [L_x, L_y] = [(y p_z – z p_y), (z p_x – x p_z)].
$$
展開すると、
$$
[L_x, L_y] = [y p_z, z p_x] – [y p_z, x p_z] – [z p_y, z p_x] + [z p_y, x p_z].
$$
各項を計算すると、最終的に
$$
[L_x, L_y] = i\hbar L_z.
$$
同様に他の成分についても計算すると、
\begin{align*}
[L_y, L_z] &= i\hbar L_x, \\
[L_z, L_x] &= i\hbar L_y.
\end{align*}
これらをまとめると、角運動量演算子同士の交換関係は以下のように書けます。
$$
[L_i, L_j] = i\hbar \epsilon_{ijk} L_k.
$$
ハミルトニアンと角運動量演算子の交換関係
中心力ポテンシャル\(V(r)\)によるハミルトニアン\(H\)と角運動量演算子\(\mathbf{L}\)の交換関係を計算します。
ハミルトニアンは以下のように書けます。
$$
H = \frac{\mathbf{p}^2}{2m} + V(r),
$$
ここで\(r = \sqrt{x^2 + y^2 + z^2}\)です。
角運動量演算子\(\mathbf{L}\)との交換関係を計算するとき、\([\mathbf{L}, \mathbf{p}^2]\)と\([\mathbf{L}, V(r)]\)に分けて考えます。
まず、\([\mathbf{L}, \mathbf{p}^2]\)は以下のように計算されます。
$$
[\mathbf{L}, \mathbf{p}^2] = [\mathbf{L}, p_x^2 + p_y^2 + p_z^2] = 0.
$$
次に、\([\mathbf{L}, V(r)]\)ですが、\(V(r)\)が\(r\)のみに依存するスカラー関数であるため、\([\mathbf{L}, V(r)] = 0\)となります。
したがって、\([H, \mathbf{L}] = 0\)が成り立ちます。これは、中心力ポテンシャルでは角運動量が保存されることを意味します。
今回のまとめ
今回は、角運動量演算子と他の演算子の交換関係について詳しく説明しました。位置・運動量演算子との交換関係、角運動量演算子同士の交換関係、さらに中心力ポテンシャルのハミルトニアンとの交換関係を導出しました。






