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量子力学における固有値問題
固有関数と固有値の基本概念
まず、行列の固有値と固有ベクトルについて簡単に復習します。数学の線形代数において、固有値(eigenvalue)と固有ベクトル(eigenvector)は、線形変換の特定の性質を記述するための重要な概念です。
行列 $\mathbf{A}$ に対して、ベクトル $\mathbf{v}$ とスカラー $\lambda$ が以下の式を満たすとき、$\lambda$ を $\mathbf{A}$ の固有値、$\mathbf{v}$ をその固有ベクトルと呼びます。
\[
\mathbf{A} \mathbf{v} = \lambda \mathbf{v}
\]
ここで、$\mathbf{v} \neq \mathbf{0}$ である必要があります。この式は、行列 $\mathbf{A}$ がベクトル $\mathbf{v}$ を変換したとき、その方向は変わらず、大きさのみが $\lambda$ 倍されることを意味します。
行列 $\mathbf{A}$ の固有値は次の特性方程式を解くことで得られます。
\[
\det(\mathbf{A} – \lambda \mathbf{I}) = 0
\]
ここで、$\mathbf{I}$ は単位行列、$\det$ は行列式を表します。この方程式の解が固有値であり、それに対応する固有ベクトルは上記の式を用いて計算されます。
量子力学における固有値と固有関数
量子力学では、物理系の状態を記述するために波動関数 $\psi(x)$ が用いられます。波動関数はシュレーディンガー方程式を満たし、その中で固有値と固有関数の概念が重要な役割を果たします。
シュレーディンガー方程式
時間に依存しないシュレーディンガー方程式は以下の形をとります。
\[
\hat{H} \psi(x) = E \psi(x)
\]
ここで、$\hat{H}$ はハミルトニアン(エネルギー演算子)、$\psi(x)$ は固有関数(波動関数)、$E$ は固有値(エネルギー固有値)
この方程式は、波動関数 $\psi(x)$ がハミルトニアン演算子によって作用されたとき、その関数の形が変わらず、定数 $E$ を掛けられるだけであることを意味します。
固有値問題の具体例:粒子の無限深ポテンシャル井戸
1次元無限深ポテンシャル井戸では、ポテンシャルエネルギー $V(x)$ は以下のように定義されます。
\[
V(x) = \begin{cases}
0 & (0 \leq x \leq L) \\
\infty & (x < 0 \text{ または } x > L)
\end{cases}
\]
この場合のシュレーディンガー方程式は次のようになります。
\[
-\frac{\hbar^2}{2m} \frac{d^2 \psi(x)}{dx^2} = E \psi(x)
\]
境界条件として、波動関数 $\psi(x)$ は $x = 0$ および $x = L$ で消失する必要があります。解は次のようになります。
\[
\psi_n(x) = \sqrt{\frac{2}{L}} \sin\left(\frac{n\pi x}{L}\right), \quad n = 1, 2, 3, \dots
\]
対応するエネルギー固有値は以下の通りです。
\[
E_n = \frac{n^2 \pi^2 \hbar^2}{2mL^2}
\]
ここで、$n$ は量子数を表し、固有関数 $\psi_n(x)$ は系の特定の状態を記述します。
フーリエ変換と固有関数
フーリエ変換は波動関数を周波数空間で表現するために使用され、特定の演算子の固有関数と密接に関連しています。
フーリエ変換の定義
フーリエ変換は、時間領域(または位置領域)の関数 $\psi(x)$ を周波数領域の関数 $\tilde{\psi}(k)$ に変換します。
\[
\tilde{\psi}(k) = \frac{1}{\sqrt{2\pi}} \int_{-\infty}^{\infty} \psi(x) e^{-ikx} dx
\]
逆変換は以下の式で与えられます。
\[
\psi(x) = \frac{1}{\sqrt{2\pi}} \int_{-\infty}^{\infty} \tilde{\psi}(k) e^{ikx} dk
\]
運動量演算子と固有関数
運動量演算子 $\hat{p}$ は以下の形をとります。
\[
\hat{p} = -i\hbar \frac{d}{dx}
\]
この演算子の固有値方程式は次の通りです。
\[
\hat{p} \psi(x) = p \psi(x)
\]
ここで、$p$ は運動量の固有値です。この方程式を解くと、固有関数は平面波として表されます。
\[
\psi_p(x) = Ae^{ipx/\hbar}
\]
フーリエ変換を用いると、波動関数は運動量空間での表現に変換されます。この変換により、位置空間と運動量空間の間の双対性が明らかになります。
固有関数の重要性
量子力学において、固有関数と固有値は観測可能量の計算に直接関与します。具体的には、固有値は観測可能量の測定値を与え、固有関数は系の可能な状態を記述します。
また、フーリエ変換を利用することで、異なる表現空間(位置空間や運動量空間)での解析が可能となり、物理系の理解が深まります。
これらの概念を基に、量子力学の様々な応用や発展的なテーマをさらに探求することができます。






