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【量子力学入門28】水素原子1

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水素原子1

水素原子における量子力学の概要

水素原子は量子力学の発展において非常に重要な役割を果たしました。特に、単純な構造(陽子と電子からなる)により、理論的に解析しやすく、多くの基本的な物理現象を理解するための基盤を提供します。ここでは、まず前期量子論における水素原子モデルを概説し、次に量子力学における水素原子のエネルギー準位について述べます。

前期量子論: ボーア・ゾンマーフェルトの量子化条件

ボーアは1913年に、古典力学に量子化条件を導入することで、水素原子の構造を説明しました。彼のモデルでは、電子が陽子の周囲を円軌道で運動していると仮定し、以下の量子化条件を提案しました。

ボーアの量子化条件

電子が特定の離散的な軌道を取るためには、軌道角運動量 $L$ が以下の条件を満たす必要があります。
\[
L = n\hbar \quad (n = 1, 2, 3, \dots)
\]
ここで、\( n \) は主量子数、\( \hbar \) はディラック定数(プランク定数 \( h \) を $2\pi$ で割ったもの)です。

エネルギー準位

ボーアのモデルによると、水素原子の電子のエネルギー準位は以下の式で与えられます。
\[
E_n = -\frac{Z^2 e^4 m}{8 \varepsilon_0^2 h^2 n^2}
\]
ここで、\( Z \)は原子番号(1 for 水素)、\( e \)は電子の電荷、\( m \)は電子の質量、\( \varepsilon_0 \)は真空の誘電率、\( n \)は主量子数です。

この式は、電子がより高い軌道(大きな \( n \))にあるときにエネルギーが小さく(絶対値が小さく)、\( n \to \infty \) で束縛状態がなくなることを示します(解離エネルギー)。

ゾンマーフェルトの拡張

ゾンマーフェルトはボーアのモデルを楕円軌道に拡張し、量子化条件を一般化しました。これにより、軌道角運動量だけでなく、軌道の離心率を考慮した準位の微細構造も説明可能となりました。

水素原子を議論する意義

水素原子は次の理由から量子力学の研究において重要です。

1) 単純な構造: 水素原子は最も単純な原子であり、1つの陽子と1つの電子のみから成るため、解析的な解を得ることが可能です。

2) 量子力学の理論検証: 水素原子のエネルギー準位やスペクトル線の実験データは、量子力学の理論的枠組みを検証するための重要な基盤を提供します。

3) 基礎理論の応用: 他の複雑な原子系の理解にも水素原子の結果が応用されます。例えば、多電子原子や分子の解析は水素原子モデルを基に展開されます。

4) 宇宙物理学・化学への応用: 水素原子のスペクトルは、星間物質の性質や遠方銀河の物理状態を解明する手段となります。

量子力学における水素原子のエネルギー準位

シュレーディンガー方程式を解くことで、量子力学における水素原子のエネルギー準位が得られます。

シュレーディンガー方程式

水素原子におけるシュレーディンガー方程式は次のように書かれます。
\[
\left[ -\frac{\hbar^2}{2m} \nabla^2 – \frac{Ze^2}{4\pi\varepsilon_0 r} \right] \psi(\mathbf{r}) = E \psi(\mathbf{r})
\]
ここで、\( \psi(\mathbf{r}) \) は波動関数、\( E \) はエネルギー固有値、\( r \) は原子核からの距離です。

この方程式を球座標系で分離変数法を用いて解くと、波動関数は以下の形になります。
\[
\psi(r, \theta, \phi) = R_{n\ell}(r) Y_{\ell m}(\theta, \phi)
\]
ここで、\( R_{n\ell}(r) \) は動径関数、\( Y_{\ell m}(\theta, \phi) \) は球面調和関数を表します。

エネルギー準位の結果

エネルギー固有値は主量子数 \( n \) に依存し、次の式で表されます。
\[
E_n = -\frac{Z^2 e^4 m}{8 \varepsilon_0^2 h^2 n^2} = -\frac{13.6\, \text{eV}}{n^2} \quad (Z = 1)
\]
ここで、\( Z = 1 \) は水素原子の場合です。

波動関数の性質

波動関数 \( \psi(r, \theta, \phi) \) は量子数 \( n \), \( \ell \), \( m \) によって特徴づけられます。

これらの量子数は次のような制約を受けます。
\[
\ell = 0, 1, 2, \dots, (n-1)\quad \text{and} \quad m = -\ell, -(\ell-1), \dots, \ell
\]
これらの表式は次回導出します。

微細構造

シュレーディンガー方程式に基づく結果にスピン軌道相互作用や相対論的効果を加えると、微細構造が生じます。これにより、エネルギー準位がさらに分裂することが説明されます。

今回のまとめ

水素原子の解析は、量子力学の基本概念を理解するうえで不可欠です。前期量子論におけるボーアモデルは、量子化の概念を導入し、水素スペクトルの説明に成功しました。一方で、シュレーディンガー方程式に基づく量子力学の枠組みは、より厳密なエネルギー準位や波動関数の形状を示します。これにより、現代物理学における多くの理論的・実験的応用が可能となりました。

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