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【弦理論入門20】超弦理論の基礎10

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$\def\rmd#1{\mathrm{d}{#1}}$
$\def\Braket#1{\langle{#1}\rangle}$
$\def\Bra#1{\langle{#1}|}$
$\def\Ket#1{|{#1}\rangle}$
$\def\kb{k_{\text{B}}}$
$\def\dag{\dagger}$
$\def\ap{\alpha’}$
$\def\gs{g_s}$

弦理論入門20

D ブレーンと他の非摂動的な物体

ここまでで、開弦と閉弦の量子化を行い、低エネルギー有効作用を導いた。この節では、弦理論におけるD ブレーンのような非摂動的な物体について学ぶ。これらの物体は$2$通りの見方で見ることが出来る。我々はD ブレーンを開弦の端点がくっつくことが出来る超平面として見ることが出来る。開弦はD ブレーンを変形し、D ブレーン上の非自明なゲージ理論に通ずる。従って、D ブレーンは幾何学的方法で境界条件を変換するだけでなく、力学的な物体なのである。

しかしながら、我々はD ブレーンを、周りの時空を歪めるほどに質量が大きい物体であるとみなすことも出来る。この描像においては、D ブレーンは弦理論あるいは低エネルギー極限をとった超重力理論における非自明なソリトン解に対応している。

D ブレーンの低エネルギー有効作用

閉弦の低エネルギー有効作用の解析は、境界条件がD ブレーンで特徴づけられるような開弦のセクターでも繰り返し用いることが出来る。弦の端点は電荷を帯びているので、D ブレーン上に住んでいる場の強さテンソル$F$のゲージ場$A$と結合している。世界面のエネルギー・運動量テンソルが$0$であるという条件を課すことで、ゲージ場の形と動力学における拘束条件を得ることが出来る。閉弦のときのように、これらの拘束条件はD$p$ ブレーンの作用から得られる運動方程式に書き換えることが出来る。以下でこの作用について議論する。

$\xi^a$をD$p$ ブレーンの世界体積における座標系であるとしよう。基本弦の場合、これは$\xi^0=\tau$と$\xi^1=\sigma$となる。弦の世界面の面積の作用から直接類推すると、D$p$ ブレーンの作用のBoson 的な部分は以下で与えられる。

\begin{equation}
\mathcal { S } _ { \mathrm { DBI } } = – \tau _ { p } \int \mathrm { d } ^ { p + 1 } \xi e ^ { – \phi } \sqrt { – \text { det } \left( P [ g ] _ { a b } + P [ B ] _ { a b } + 2 \pi \alpha ^ { \prime } F _ { a b } \right) }
\end{equation}

但し、$P[g]$、$P[B]$はそれぞれ、次のようなNS-NS セクターのバルク場$g_{MN}$、$B_{MN}$の引き戻しをあらわしている。

\begin{equation}
P [ g ] _ { a b } = \frac { \partial X ^ { M } } { \partial \xi ^ { a } } \frac { \partial X ^ { N } } { \partial \xi ^ { b } } g _ { M N }
\end{equation}

更に、$F_{ab}$はブレーン上に住んでいる$U(1)$ゲージ場$A$の成分である。作用はDirac-Born-Infeld 作用、あるいは単にDBI 作用として知られている。前に掛っている因子$\tau_p$は

\begin{equation}
\tau _ { p } = ( 2 \pi ) ^ { – p } \alpha ^ { \prime – ( p + 1 ) / 2 }
\end{equation}

となっている。いくつか簡単な例を考えてみよう。$\mathrm{e}^\phi={\gs}$であるような一定のディラトン$\phi$があり、Kalb-Ramond 場$B$とゲージ場$F$が$0$になるような場合を考えてみると、DBI 作用は次のように簡単化された式となる。

\begin{equation}
\mathcal { S } _ { \mathrm { DBI } } = – \frac { \tau _ { p } } { g _ { \mathrm { s } } } \int \mathrm { d } ^ { p + 1 } \xi \sqrt { – \text { det } \left( P [ g ] _ { a b } \right) }
\end{equation}

それ故、D ブレーンはその体積を小さくする傾向がある。ここで、前の因子$\tau_p/{\gs}$は弦の張力であるとみなすことが出来るから、DBI 作用は弦の世界面の作用をより高次元に一般化したものと考えることが出来る。しかし、張力から分かるようにエネルギースケールは$1/{\gs}$なので、基本弦と違ってD ブレーンは非摂動的な物体である。

D$p$ ブレーンはブレーン上に住んでいるゲージ場$F$も有している。この動力学を調べるためには、$B=0$かつディラトン場が一定で$\mathrm{e}^\phi={\gs}$であるような平坦な空間へのD$p$ ブレーンの埋め込みを考える。反対称行列$M$に関する近似式

\begin{equation}
\text { det } ( 1 + M ) = 1 – \frac { 1 } { 2 } \text { Tr } \left( M ^ { 2 } \right) + \cdots
\end{equation}

を用いることでDBI 作用は拡張されて、$\ap$についての非自明なオーダーの最低次は

\begin{equation}
\mathcal { S } _ { \mathrm { DBI } } = – \left( 2 \pi \alpha ^ { \prime } \right) ^ { 2 } \frac { \tau _ { p } } { 4 g _ { \mathrm { s } } } \int \mathrm { d } ^ { p + 1 } \xi F _ { a b } F ^ { a b }
\end{equation}

と得られる。このことは、単一のD$p$ ブレーンにおけるDBI 作用は、$U(1)$のゲージ群を持つYang-Mills 理論の一般化であることを示唆している。Yang-Mills 結合定数$g_{\mathrm{YM}}$は

\begin{equation}
g _ { \mathrm { YM } } ^ { 2 } = \frac { \mathrm { g } _ { \mathrm { s } } } { \tau _ { p } \left( 2 \pi \alpha ^ { \prime } \right) ^ { 2 } } = ( 2 \pi ) ^ { p – 2 } g _ { \mathrm { s } } \alpha ^ { \frac { \ell – 3 } { 2 } }
\end{equation}

であるとみなすことが出来る。R-R 形式との非自明な結合も存在する。R-R 形式$C_{(p)}$はD ブレーンにおける電荷を中立的な方法で定義する。世界線にある電荷を帯びた点粒子が

\begin{equation}
\mathcal { S } _ { 0 } = \mu _ { 0 } \int _ { \Sigma _ { 1 } } P [ A ]
\end{equation}

によって$1$形式のゲージ場$A$の引き戻しと結合するということから直接類推すると、一般の$(p+1)$形式$C_{(p+1)}$は微分同相写像不変な作用

\begin{equation}
\mathcal { S } _ { p } = \mu _ { p } \int _ { \Sigma _ { p + 1 } } P \left[ C _ { ( p + 1 ) } \right] , \quad \text { with } \quad \mu _ { p } = \frac { \tau _ { p } } { g _ { \mathrm { s } } }
\end{equation}

によって$p+1$次元の世界面$\Sigma_{p+1}$と結合することになる。この作用はランク$p$、$p$形式$\lambda_p$による可換なゲージ変換$\delta C_{(p+1)}=\rmd \lambda_p$の下で不変である。D$p$ ブレーンに対応する完全な作用はChern-Simons 項を含めた$\mathcal{S}=\mathcal{S}_{\mathrm{DBI}}\pm\mathcal{S}_{\mathrm{CS}}$という作用になる。このとき、$\mathcal{S}_{\mathrm{SC}}$は

\begin{equation}
\mathcal { S } _ { \mathrm { CS } } = \mu _ { p } \int _ { \Sigma _ { p + 1 } } \sum _ { q } P \left[ C _ { ( q + 1 ) } \right] \wedge e ^ { P [ B ] + 2 \pi \alpha ^ { \prime } F }
\end{equation}

であり、R-R 場$C_{(p+1)}$とNS-NS 場$B$の相互作用を記述している。$2$形式$\mathcal{F} = P[B]+2\pi\ap F$の指数はウェッジ積で理解する必要がある。

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