多粒子の量子力学入門
これまで議論してきた量子力学は、粒子が1個の単粒子系について考えてきました。今回は、これまでの量子力学を多粒子系に拡張することについて話します。
正準交換関係と単粒子系
量子力学では、運動量演算子 ˆp と位置演算子 ˆx は以下の正準交換関係を満たします。
[ˆx,ˆp]=iℏ
ここで、[ˆA,ˆB]=ˆAˆB–ˆBˆA は交換子を表します。
単一の粒子系では、波動関数 ψ(x) が状態を記述します。この系のハミルトニアン ˆH は典型的には次の形をとります。
ˆH=ˆp22m+V(ˆx)
ここで、V(ˆx) はポテンシャルエネルギーを表します。
多粒子系への拡張
多粒子系では、複数の粒子が関与するため、状態は高次元の波動関数 ψ(x1,x2,…,xN) によって記述されます。ここで、N は粒子数です。これらの粒子がボース粒子かフェルミ粒子であるかによって、波動関数の対称性が異なります。
ボース粒子の波動関数は粒子交換に対して対称です。
ψ(x1,x2,…,xN)=ψ(x2,x1,…,xN)
フェルミ粒子の波動関数は粒子交換に対して反対称です。
ψ(x1,x2,…,xN)=−ψ(x2,x1,…,xN)
生成・消滅演算子
多粒子系を効率的に扱うために、生成演算子と消滅演算子を導入します。
生成演算子 ˆa† と消滅演算子 ˆa
これらの演算子は以下の交換関係を満たします。
ボース粒子の場合 (交換関係)
[ˆai,ˆa†j]=δij,[ˆai,ˆaj]=[ˆa†i,ˆa†j]=0
フェルミ粒子の場合 (反交換関係)
{ˆai,ˆa†j}=δij,{ˆai,ˆaj}={ˆa†i,ˆa†j}=0
ここで、{ˆA,ˆB}=ˆAˆB+ˆBˆA は反交換子を表します。
生成演算子 ˆa†i は粒子を特定の状態 i に追加し、消滅演算子 ˆai は状態 i から粒子を取り除きます。これにより、多粒子系の状態を次のように表現できます。
|n1,n2,…⟩=(ˆa†1)n1(ˆa†2)n2…√n1!n2!…|0⟩
ここで、|0⟩ は粒子が存在しない真空状態を表します。
第二量子化
第二量子化の基礎
第二量子化では、多粒子系のハミルトニアンを生成・消滅演算子を用いて表現します。単粒子の基底 {ϕi(x)} を選び、それに基づく場演算子を次のように定義します。
ˆψ(x)=∑iϕi(x)ˆai,ˆψ†(x)=∑iϕ∗i(x)ˆa†i
ここで、ˆψ(x) は位置 x における粒子の消滅を表し、ˆψ†(x) は粒子の生成を表します。
ハミルトニアンの形式
多粒子系のハミルトニアンは、通常以下の形をとります。
ˆH=∫dxˆψ†(x)h(x)ˆψ(x)+12∫dxdx′ˆψ†(x)ˆψ†(x′)V(x,x′)ˆψ(x′)ˆψ(x)
第一項は単粒子演算子 h(x) を含む項で、運動エネルギーや外部ポテンシャルを表します。
第二項は粒子間相互作用を記述します。V(x,x′) は位置 x と x′ における相互作用ポテンシャルです。
応用例
自由ボース気体のハミルトニアン
自由ボース気体では、相互作用がないため、ハミルトニアンは次のようになります。
ˆH=∑iϵiˆa†iˆai
ここで、ϵi は単粒子エネルギー準位を表します。この場合の基底状態は、最も低いエネルギー準位に全粒子が集中するボース凝縮状態です。
フェルミ気体のハミルトニアン
非相互作用フェルミ気体では、ハミルトニアンはボース気体と同様に表現できますが、フェルミ粒子の占有状態はパウリの排他原理により制約されます。
ˆH=∑iϵiˆa†iˆai,ni∈{0,1}
ここで、ni は占有数演算子を表します。