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プランクの黒体輻射2
今回は、前回に引き続きプランクの黒体輻射の理論について扱います。特に、前回導出したプランクの公式を用いて導ける式を導出していきます。
ここでは、シュテファン–ボルツマンの法則、レイリー–ジーンズの法則、ウィーンの法則について説明します。
黒体輻射の基本概念
黒体は、すべての入射する電磁波を完全に吸収する理想的な物体です。そのため、黒体は温度に応じて特定のスペクトルを持つ電磁波を放出します。このスペクトルを説明するのが黒体輻射の理論です。
黒体輻射のスペクトルを説明する公式には、以下の条件が含まれます。
1) 放射は熱平衡状態にある。
2) 放射エネルギーの分布は物体の温度 \( T \) のみで決まる。
プランクの公式
プランクの公式は、黒体輻射のスペクトル分布を正確に記述します。放射の単位体積当たり、単位周波数当たりのエネルギー密度は次式で与えられます。
\[
u(\nu, T) = \frac{8\pi h \nu^3}{c^3} \frac{1}{e^{\frac{h\nu}{k_B T}} – 1},
\]
ここで、\( \nu \)は周波数、\( T \)は絶対温度、\( h \)はプランク定数、\( c \)は光速、\( k_B \)はボルツマン定数です。
この式は、従来の古典物理学では説明できなかった黒体輻射の観測結果を完璧に再現します。
プランクの公式からの法則の導出
シュテファン–ボルツマンの法則
黒体の総放射エネルギー密度 \( u(T) \) は、全周波数にわたるエネルギー密度 \( u(\nu, T) \) を積分することで求められます。
\[
u(T) = \int_0^\infty u(\nu, T) d\nu.
\]
プランクの公式を用いると、
\[
u(T) = \int_0^\infty \frac{8\pi h \nu^3}{c^3} \frac{1}{e^{\frac{h\nu}{k_B T}} – 1} d\nu.
\]
ここで、積分変数を簡単化するために \( x = \frac{h\nu}{k_B T} \) と置き換えます。すると、\( \nu = \frac{k_B T}{h} x \) であり、\( d\nu = \frac{k_B T}{h} dx \) となります。この変数変換を用いると、
\[
u(T) = \int_0^\infty \frac{8\pi h}{c^3} \left(\frac{k_B T}{h} x\right)^3 \frac{1}{e^x – 1} \frac{k_B T}{h} dx.
\]
これを整理すると、
\[
u(T) = \frac{8\pi k_B^4 T^4}{h^3 c^3} \int_0^\infty \frac{x^3}{e^x – 1} dx.
\]
ここで、積分 \( \int_0^\infty \frac{x^3}{e^x – 1} dx \) の値は解析的に計算可能で \( \frac{\pi^4}{15} \) となります。したがって、
\[
u(T) = \frac{8\pi^5 k_B^4}{15 h^3 c^3} T^4.
\]
放射エネルギー密度と放射エネルギーの表面輻射強度(エネルギー放射量) \( j \) との関係を用いると、
\[
j = \sigma T^4,
\]
ここで \( \sigma \) はシュテファン–ボルツマン定数であり、その値は \( \sigma = \frac{8\pi^5 k_B^4}{15 h^3 c^2} \) です。この結果は、シュテファン–ボルツマンの法則として知られています。
レイリー–ジーンズの法則
プランクの公式を低周波数(\( h\nu \ll k_B T \))で展開します。この条件では、指数関数をテイラー展開して近似します。
\[
e^{\frac{h\nu}{k_B T}} \approx 1 + \frac{h\nu}{k_B T}.
\]
この近似をプランクの公式に代入すると、
\[
u(\nu, T) \approx \frac{8\pi h \nu^3}{c^3} \frac{1}{\frac{h\nu}{k_B T}} = \frac{8\pi \nu^2 k_B T}{c^3}.
\]
この式はレイリー–ジーンズの法則を表します。古典物理学ではこの結果のみが得られ、高周波でのエネルギー密度が無限大になる「紫外線問題」を説明できませんでした。
ウィーンの法則
一方、高周波数(\( h\nu \gg k_B T \))の極限では、指数項が支配的になります。この場合、
\[
\frac{1}{e^{\frac{h\nu}{k_B T}} – 1} \approx e^{-\frac{h\nu}{k_B T}}.
\]
この近似をプランクの公式に代入すると、
\[
u(\nu, T) \approx \frac{8\pi h \nu^3}{c^3} e^{-\frac{h\nu}{k_B T}}.
\]
この式はウィーンの放射公式として知られています。また、ウィーンの変位則により、放射スペクトルのピーク周波数 \( \nu_{\text{max}} \) は次式で与えられます。
\[
\nu_{\text{max}} \propto T.
\]
ピーク波長 \( \lambda_{\text{max}} \) は \( \lambda_{\text{max}} T = \text{一定} \) の関係を持ちます。
今回のまとめ
黒体輻射の解析は、古典物理学の限界を示し、量子力学の基盤を築く上で重要な役割を果たしました。プランクの公式は、観測結果を正確に説明するだけでなく、量子の概念を導入することで新しい物理学の枠組みを開きました。シュテファン–ボルツマンの法則、レイリー–ジーンズの法則、ウィーンの法則は、それぞれプランクの公式の特定の極限で導出される重要な結果です。
これらの法則は、現代物理学や工学における多くの応用の基盤となっており、量子力学の意義を深く理解する上で欠かせない知識です。






