第1回目ではKeplerの問題について紹介しましたが、今回は古典力学における剛体の問題を解いてみましょう!
2.1 問題
[問題1] 密度ρ0=M/Vが一定の領域
x2a2+y2b2+z2c2<1
について、体積V、重心の位置座標R、及び慣性テンソル
Iαβ=∫x2a2+y2b2+z2c2<1ρ0(|r|2δαβ−rαrβ)
を計算せよ。但し、
{V=∫x2a2+y2b2+z2c2<1dxdydzRα=∫x2a2+y2b2+z2c2<1dxdydz ρ0rαM
と与えられる。
[問題2] 物体の3つの慣性主軸方向のモーメントをI1、I2、I3と書く。この自由回転は回転座標系で見た角速度ベクトルの成分ω1、ω2、ω3に対して
{I1dω1dt−(I2−I3)ω2ω3=0I2dω2dt−(I3−I1)ω3ω1=0I3dω3dt−(I1−I2)ω1ω2=0
という方程式が成り立つことを示せ。
[問題3] 問題2の運動方程式から回転の運動エネルギー
K=12(I1ω21+I2ω22+I3ω23)
が保存されることを示せ。
[問題4] 対称独楽(I1=I2≠I3)に対して、問題2の運動方程式の一般解を求め、運動の様子を説明せよ。\\
[問題5 外力の働いていない、すなわち、トルクの働いていない対称独楽に対して、角運動量Lは保存される。このとき、Lはωと異なる方向を向いているということを示せ。すなわち、L=Lk0とおくと
ω=LI1k0+I1−I3I1ω3k
となることを示せ。但し、k0とkはいずれも単位ベクトルである。I3とI1は対称軸とそれに垂直な慣性主軸周りの慣性モーメントである。このとき、ωの第1項、第2項があらわす回転の意味を考察せよ。
2.2 演習問題解答
[問題1]
領域K、Lを以下のように定義する。
K{(x,y,z)| x2a2+y2b2+z2c2<1} 、 L{(X,Y,Z)| X2+Y2+Z2<1}
ここで、(x,y,z)=(aX,bY,cZ)とおくと、座標変換(x,y,z)→(X,Y,Z)において領域はK→Lと対応するため、本問の積分を球の体積についての積分に帰着させることが出来る。また、この変換におけるJacobian Jは明らかにJ=abcであり、3次元Descartes 座標(X,Y,Z)から3次元極座標(r,θ,ϕ)への変換においてはJ=r2sinθである。\\
体積Vは以下のように求まる。
V=∭Kdxdydz=abc∭LdXdYdZ=abc∫10dr∫π0dθ∫2π0dϕ r2sinθ=43πabc
重心座標については明らかにR=0であるが、一応以下に計算を示しておく。R1とR2ではϕについての積分が0になり、R3ではθについての積分が0となる。
R=(abcM∫10dr∫π0dθ∫2π0dϕ r2sinθ×rsinθsinϕabcM∫10dr∫π0dθ∫2π0dϕ r2sinθ×rsinθcosϕabcM∫10dr∫π0dθ∫2π0dϕ r2sinθ×rcosθ )=0
慣性テンソルIαβは例としてI11、I12の計算を記すと、
I11=3M4π∫10dr∫π0dθ∫2π0dϕ (b2r4sin3θsin2ϕ+c2r4sinθcos2θ)=15M(b2+c2)
I12=3M4π∫10dr∫π0dθ∫2π0dϕ (−abr4sin3θsinϕcosϕ)=0
I13、⋯、I33もまとめると慣性テンソルIαβは以下のように求まる。
Iαβ=(I11I12I13I21I22I23I31I32I33)=(15M(b2+c2)00015M(c2+a2)00015M(a2+b2))
特にa=b=cのとき、重心周りの球体の慣性モーメントI=25Ma2に一致する。
[問題2]
剛体のEuler の方程式
{I1dω1dt−(I2−I3)ω2ω3=N1I2dω2dt−(I3−I1)ω3ω1=N2I3dω3dt−(I1−I2)ω1ω2=N3
に自由回転をするという条件N=0を代入して、
{I1dω1dt−(I2−I3)ω2ω3=0I2dω2dt−(I3−I1)ω3ω1=0I3dω3dt−(I1−I2)ω1ω2=0
という式を得る。よって題意は示された。
[問題3]
問題2で示した式3つにそれぞれの両辺にω1、ω2、ω3を掛けて、各式の足し合わせると、
dKdt=I1ω1dω1dt+I2ω2dω2dt+I3ω3dω3dt=(I2−I3+I3−I1+I1−I2)ω1ω2ω3=0
という式を得る。よって題意は示された。
[問題4]
I1=I2≠I3より、剛体のEuler 方程式は
{I1dω1dt−(I1−I3)ω2ω3=0I1dω2dt−(I3−I1)ω3ω1=0I3dω3dt=0
となる。ω0、Ωを定数としてω3=ω0、I3−I1I1ω0=Ωとおき、先の微分方程式を解くと、
{ω1=Acos(Ωt+δ)ω2=Asin(Ωt+δ)ω3=ω0
但し、A、δをそれぞれ振幅、初期位相とした。ω21+ω22=A2より角速度ベクトルの第1-2軸平面上の成分は一定の半径A、一定の角速度Ωで円を描く。また、第3軸も考慮した角速度ベクトルの大きさは|ω|=√A2+ω20で一定である。ポールホード錐とハーポールホード錐の話は次の問題で議論する。
[問題5]
ωが第3軸となす角αはtanα=Aω0だから対称独楽上から見た角速度ベクトルωは一定\\の大きさを維持しながら周期T=2πΩの円軌道を描く。第3軸を軸とするωの回転による\\円錐面をポールホード錐という。ところで、角運動量は
{L1=I1ω1=I1Acos(Ωt+δ)L2=I1ω2=I1Asin(Ωt+δ)L3=I3ω3=I3ω0
でありI1≠I3のため、明らかにL∦ωが言える。対称独楽上の観測者には角運動量ベクトルも角速度ベクトルと同様、第3軸を中心に円運動し円錐面を構成する。角運動量ベクトルLが第3軸となす角θは先と同様に計算して
tanθ=I1AI3ω0=I1I3tanα
である。また、e3を第3軸方向の単位ベクトルとしてスカラー3重積を計算するとe3⋅(ω×L)=ω1L2−ω2L1=ω1ω2(I1−I1)=0だからL、ω、e3は同一平面内に存在する。これらよりLを軸としてωがその周りに円錐を描くことが分かる。Lとωのなす角は|α−θ|である。このときのωの回転による円錐面をハーポールホード錐という。また、トルクが作用しないときに剛体の対称軸がLの方向を軸とした円錐を描いて回ることを正常歳差運動という。
参考文献
[1] 石井靖、藤原毅夫『工学基礎 力学』、数理工学社、2016
[2] 篠本滋、坂口英継『基幹講座物理学 力学』、東京図書、2013
[3] ランダウ、リフシッツ著、広重徹、水戸巌訳、『力学』、2014
[4] ゴールドスタイン、ポール、サーフコ著『古典力学 (上)』、吉岡書店、2011