大学一年次に理系学生が必ず学ぶ分野のひとつが線形代数です.線形代数の難しさのひとつとして,それぞれの概念が何を表しているのか,またそれらが各分野でどのように活用されるのかが見えにくいことが挙げられます.
この記事では,線形代数に苦しむ1年生及び意欲的な高校生向けに線形代数の意味や面白さを,具体例を多く使って平易に解説していきます.この文章は教科書や講義の「穴埋め」になることを目指しています.
したがって,厳密な証明を全ての定理につけることはしないので,証明に関しては各自で教科書やネットを参照してください.
定番の教科書として,『線形代数入門』(斎藤正彦著・東京大学出版会)や『線形代数学』(川久保勝夫著・日本評論社)があります.また,簡単な用語の意味に関しても説明は省略します.
行列とは?
$m$と$n$を二つの自然数とする.$mn$個の数または文字
\[a_{ij}\qquad (1≦i≦m, 1≦j≦n)\]
を次のように並べてカッコでくくったものを $m$行$n$列の行列という.
\[
A = \left(
\begin{array}{cccc}
a_{11} & a_{12} & \ldots & a_{1n} \\
a_{21} & a_{22} & \ldots & a_{2n} \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
a_{m1} & a_{m2} & \ldots & a_{mn}
\end{array}
\right)
\]
多くの線形代数の教科書はこのように始まります.(川久保勝夫『線形代数学』より引用) このあと,行列の和と積,逆行列などを定義するのが定番の流れでしょう.
さて,ここで多くの人が疑問に思ったことと思います.「数を並べて何になるのか?」「行列とは何なのか?」「なぜ積をそのように定義するのか?」これらの疑問に答えるためには,行列が何を表しているのかを理解することが大切です.
結論から入りましょう.行列は線形写像を表しています.(これに関しては次節で詳しく解説しますが,簡単に言ってしまうと線形写像とは1次式のことです.)
線形写像は数学に限らず,物理・情報・経済などあらゆる分野で現れます.線形代数は重要な理由はここにあります.行列をもちいて線形写像を表すことで,取り扱いが極めて容易になります.
参考文献
・『線形代数学』(川久保勝夫著・日本評論社)
・『線形代数入門』(斎藤正彦著・東京大学出版会)
・『線形代数学』(佐武一郎著・裳華房)
・『初めて学ぶリー群 ―線形代数から始めよう』(井ノ口順一著・現代数学社)