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【場の量子論と対称性】第02講 テンソル表現

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テンソル表現

最も簡単な表現は、トリビアルで、一重項またはスカラーの表現である。対応するベクトル空間は1次元であり、その要素は$\phi$で表される。そして、$\mathcal{J}$は$\mathcal{J}^{\rho\sigma}_{\mathbf{1}}=0$によって与えられる。この代入によってLorentz 代数(4)は自明に満たされる。これは、場の理論におけるスカラー場に対応する表現である。

次に$d$次元のベクトル表現を考えよう。これは通常$\mathbf{d}$と書かれる。このとき、場は$d$個の成分を持っていて$\phi^\rho,\rho=0,\cdots,d-1$と書ける。また、$d\times d$行列$\mathcal{J}^{\rho\sigma}_{\mathbf{d}}$の成分は(3)で与えられるから

\begin{equation}
(\mathcal{J}^{\rho\sigma}_{\mathbf{d}})^\mu_\nu=i(\delta^\rho_\nu\eta^{\mu\sigma}-\delta^\sigma_\nu\eta^{\mu\rho})\tag{9}
\end{equation}

となる。我々は既にこのベクトル表現の下で変換する場の例を知っている。これは場の理論におけるベクトル場$A_\mu$に他ならない。

今までスカラー場とベクトル場に対応するLorentz 代数の既約表現を見出した。では$n$個の添字を持つ場$\phi_{\mu_1\cdots\mu_n}$の表現はどのようになるのだろうか。そのような表現を構成するためには、ベクトル表現の階数$n$のテンソル積を考慮する必要がある。得られる表現は、部分的に対称または反対称のテンソルに分解することができるので、一般に可約である。場は対称化された部分$\phi_{(\mu\nu)}$と反対称化された部分$\phi_{[\mu\nu]}$に分解できることが分かっている。表現論の言葉では、2階のテンソル積表現$\mathbf{d}\otimes\mathbf{d}$は次元$d(d+1)/2$で2階の対称なテンソル積表現$\mathbf{d}\otimes_{\mathrm{S}}\mathbf{d}$と次元$d(d-1)/2$で階数2の反対称なテンソル積表現$\mathbf{d}\otimes_{\mathrm{A}}\mathbf{d}$の直和に分解できる。すなわち

\begin{equation}
\mathbf{d}\otimes\mathbf{d}=(\mathbf{d}\otimes_{\mathrm{S}}\mathbf{d})\oplus(\mathbf{d}\otimes_{\mathrm{A}}\mathbf{d})\tag{10}
\end{equation}

となる。具体例として、スピン状態の組み合わせを考えよう。2つの同一のスピン$1/2$表現のテンソル積は2つの既約表現に分解され、スピン$1$表現は対称状態として、スピン$0$状態は反対称状態としてあらわせる。考えているスピン$1/2$状態が
\[
\Ket{\dfrac{1}{2},\pm\dfrac{1}{2},\alpha}
\]
であるとする。ここで、$\alpha$は状態を指定するのに必要な何かしらのパラメータである。テンソル積の中で最高ウェイトの状態は$J_3=1/2$状態のスピン$1$の組み合わせであるから、他のラベルを交換しても対称である;
\[
\Ket{1,1}=\Ket{\dfrac{1}{2},\dfrac{1}{2},\alpha}\Ket{\dfrac{1}{2},\dfrac{1}{2},\beta}=\Ket{\dfrac{1}{2},\dfrac{1}{2},\beta}\Ket{\dfrac{1}{2},\dfrac{1}{2},\alpha}
\]
スピン$1$表現の他の状態を作るための下降演算子は、2つのスピン$1/2$状態に対して同じように作用するので、以下の式のように、この対称性を保つ;
\[
\left\{
\begin{array}{l}
\Ket{1,0}=\dfrac{1}{\sqrt{2}}\left(\Ket{\dfrac{1}{2},-\dfrac{1}{2},\alpha}\Ket{\dfrac{1}{2},\dfrac{1}{2},\beta}+\Ket{\dfrac{1}{2},\dfrac{1}{2},\alpha}\Ket{\dfrac{1}{2},-\dfrac{1}{2},\beta}\right)\\
\Ket{1,-1}=\Ket{\dfrac{1}{2},-\dfrac{1}{2},\alpha}\Ket{\dfrac{1}{2},-\dfrac{1}{2},\beta}
\end{array}
\right.
\]
従って、それに直交するスピン$0$状態は$\alpha$と$\beta$の交換に対して反対称になる;
\[
\Ket{0,0}=\dfrac{1}{\sqrt{2}}\left(\Ket{\dfrac{1}{2},-\dfrac{1}{2},\alpha}\Ket{\dfrac{1}{2},\dfrac{1}{2},\beta}-\Ket{\dfrac{1}{2},\dfrac{1}{2},\alpha}\Ket{\dfrac{1}{2},-\dfrac{1}{2},\beta}\right)
\]

注意すべきことは、$\mathbf{d}\otimes_{\mathrm{S}}\mathbf{d}$も$\mathbf{d}\otimes_{\mathrm{A}}\mathbf{d}$も一般には既約ではないという事である。まず初めに、2階の対称な表現$\mathbf{d}\otimes_{\mathrm{S}}\mathbf{d}$について考えてみよう。表現を既約表現の和にさらに分解するために、不変テンソルを利用する。可約な表現があれば、不変テンソルを用いて表現のテンソルを縮約させることでより小さい表現を得ることができる。このことをLorentz 代数を例に説明しよう。

任意の特殊直交群$SO(p,q)$、特にLorentz 群$SO(d-1,1)$において、計量$\eta_{\mu\nu}$(そしてその逆行列$\eta^{\mu\nu}$)と完全反対称テンソルの2つだけが不変テンソルである。対称テンソル$\phi_{(\mu\nu)}$と縮約すると完全反対称テンソルの部分は0になるので、$\eta^{\mu\nu}\phi_{(\mu\nu)}$だけ考えれば良い。これは2階のテンソルのトレースである。このことは2階の対称テンソルはトレースレスな2階の対称テンソルに分解できるということを示している。トレースレス部分を$\mathbf{S}$と書くと、

\begin{equation}
\mathbf{d}\otimes_{\mathrm{S}}\mathbf{d}=\mathbf{1}\oplus\mathbf{S}\tag{11}
\end{equation}

とあらわすことが出来る。必ずしも$\rho$と$\sigma$について対称ではないような一般の2階のテンソル$\phi_{\rho\sigma}$について、対称なトレースレス部分$\mathbf{S}$を抜き出すために次のような射影演算子を利用することが出来る。

\begin{equation}
P^{\rho\sigma}_{\mu\nu}=\dfrac{1}{2}(\delta^\rho_\mu\delta^\sigma_\nu+\delta^\sigma_\mu\delta^\rho_\nu)-\dfrac{1}{d}\eta_{\mu\nu}\eta^{\rho\sigma}\tag{12}
\end{equation}

問題

成分が$\phi_{\mu\nu}$と書ける一般の2階のテンソルを$\phi$とするとき、射影演算子がかかった$P^{\rho\sigma}_{\mu\nu}\phi_{\rho\sigma}$が対称かつトレースレスであることを示せ。更に、$P^{\rho\sigma}_{\alpha\beta}P^{\alpha\beta}_{\mu\nu}=P^{\rho\sigma}_{\mu\nu}$を確かめることで$P^{\rho\sigma}_{\mu\nu}$が射影演算子であることを示せ。

解答

前半部分の題意を示すために計算を進めると、
\[
P^{\rho\sigma}_{\mu\nu}\phi_{\rho\sigma}=\dfrac{1}{2}(\phi_{\mu\nu}+\phi_{\nu\mu})-\dfrac{1}{d}\eta_{\mu\nu}\phi^\rho_\rho
\]
となる。よって確かに対称かつトレースレスになっている。これは直感的には、対称部分が第1項になっていて、トレース項が第2項になっている。さて、後半部分の題意も計算を進めると
\begin{align}
P^{\rho\sigma}_{\alpha\beta}P^{\alpha\beta}_{\mu\nu}=&\left\{\dfrac{1}{2}(\delta^\rho_\alpha\delta^\sigma_\beta+\delta^\sigma_\alpha\delta^\rho_\beta)-\dfrac{1}{d}\eta_{\alpha\beta}\eta^{\rho\sigma}\right\}\left\{\dfrac{1}{2}(\delta^\alpha_\mu\delta^\beta_\nu+\delta^\beta_\mu\delta^\alpha_\nu)-\dfrac{1}{d}\eta_{\mu\nu}\eta^{\alpha\beta}\right\}\nonumber\\
&\nonumber\\
=&\dfrac{1}{4}(\delta^\rho_\alpha\delta^\sigma_\beta+\delta^\sigma_\alpha\delta^\rho_\beta)(\delta^\alpha_\mu\delta^\beta_\nu+\delta^\beta_\mu\delta^\alpha_\nu)-\dfrac{1}{2d}(\delta^\rho_\alpha\delta^\sigma_\beta+\delta^\sigma_\alpha\delta^\rho_\beta)\eta_{\mu\nu}\eta^{\alpha\beta}-\dfrac{1}{2d}\eta_{\alpha\beta}\eta^{\rho\sigma}(\delta^\alpha_\mu\delta^\beta_\nu+\delta^\beta_\mu\delta^\alpha_\nu)\nonumber\\
&\nonumber\\
&+\dfrac{1}{d^2}\eta_{\alpha\beta}\eta^{\rho\sigma}\eta_{\mu\nu}\eta^{\alpha\beta}=\dfrac{1}{2}(\delta^\rho_\mu\delta^\sigma_\nu+\delta^\sigma_\mu\delta^\rho_\nu)-\dfrac{1}{d}\eta_{\mu\nu}\eta^{\rho\sigma}=P^{\rho\sigma}_{\mu\nu}\nonumber
\end{align}
となる。よって題意は示された。

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