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【場の量子論と対称性】第08講 4次元の場合の表現論

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4次元の場合の表現論

これまでで見せたLorentz 群の表現の議論はどんな次元でも応用することが出来る。もし4次元におけるLorentz 代数の表現を分類したければ、もっと直接的な方法が存在する。この小節ではこれについて議論する。Lorentz 代数の生成子$J^{\mu\nu}$は次の式で与えられるブースト$K_i$と回転$J_i$に分けられる。

\begin{equation}
K_i=J^{0i} 、 J_i=\dfrac{1}{2}\epsilon_{ijk}J^{jk}~\mathrm{with}~i,j,k\in\{1,2,3\}\tag{34}
\end{equation}

添字の縮約は行なわれており、$\epsilon_{ijk}=\epsilon_{0ijk}$である。生成子$L_i$、$R_i$を次のように導入する。

\begin{equation}
L_k=\dfrac{1}{2}(J_k+iK_k) 、 R_k=\dfrac{1}{2}(J_k-iK_k)\tag{35}
\end{equation}

これによりLorentz 代数(4)はこれを用いて次のように書くことが出来る。

\begin{equation}
[L_i,L_j]=i\epsilon_{ijk}L_k 、 [R_i,R_j]=i\epsilon_{ijk}R_k 、 [L_i,R_j]=0\tag{36}
\end{equation}

我々は2つの交換する$\mathfrak{su}(2)$を用いて交換関係を書き直すことが出来る。これらをそれぞれ$\mathfrak{su}(2)_{\mathrm{L}}$、$\mathfrak{su}(2)_{\mathrm{R}}$と書くことにする。Lorentz 代数の表現を調べるには$\mathfrak{su}(2)$の表現だけを調べれば良い。$\mathbf{j}$と書かれた$\mathfrak{su}(2)$の表現は半整数$j$でラベル付けされており、$(2j+1)$次元である。

故に我々は2つの半整数$j_{\mathrm{L}}$、$j_{\mathrm{R}}$を用いて$\mathfrak{so}(3,1)$の表現を分類することが出来る。他の表現と同様に表2にて既約表現を列挙しておく。

 

表1 $d$次元Minkowski 時空におけるスピノールのタイプ

$d$ 実次元 Weyl 場 Majorana 場 擬Majorana 場 Majorana-Weyl 場
$2$ $1$ $\bullet$ $\bullet$ $\bullet$ $\bullet$
$3$ $2$ $\bullet$
$4$ $4$ $\bullet$ $\bullet$
$5$ $8$
$6$ $8$ $\bullet$
$7$ $16$
$8$ $16$ $\bullet$ $\bullet$
$9$ $16$ $\bullet$
$10$ $16$ $\bullet$ $\bullet$ $\bullet$ $\bullet$
$11$ $32$ $\bullet$

 

表2 $d=4$の場合におけるLorentz 群の既約表現

$(j_{\mathrm{L}},j_{\mathrm{R}})$ 表現 名前
$(0,0)$ $\mathbf{1}$ $\phi$ スカラー
$(\frac{1}{2},0)$ $\mathbf{2}_{\mathrm{L}}$ $\psi_{\mathrm{L}}$ 左巻きWeyl スピノール
$(0,\frac{1}{2})$ $\mathbf{2}_{\mathrm{R}}$ $\psi_{\mathrm{R}}$ 右巻きWeyl スピノール
$(\frac{1}{2},\frac{1}{2})$ $\mathbf{4}$ $\phi_\mu$ ベクトル
$(1,0)$ $\mathbf{3}^+$ ${\phi^+}_{[\mu\nu]}$ 反対称自己双対テンソル
$(0,1)$ $\mathbf{3}^-$ ${\phi^-}_{[\mu\nu]}$ 反対称反自己双対テンソル
$(1,1)$ $\mathbf{9}$ $P^{\rho\sigma}_{\mu\nu}\phi_{\rho\sigma}$ 対称トレースレステンソル

 

Poincare 代数と粒子状態

Lorentz 代数をPoincare 代数に拡張してみよう。Lorentz 変換の生成子$J^{\mu\nu}$に加えて、微小な並進を作る$P_\mu$も考える必要がある。生成子$P^\mu$、$J_{\rho\sigma}$は交換関係(4)と同様に次の交換関係も満たす必要がある。

\begin{equation}
[P_\rho,J_{\mu\nu}]=i(\eta_{\mu\rho}P_\nu-\eta_{\nu\rho}P_\mu) 、 [P_\mu,P_\nu]=0\tag{37}
\end{equation}

これは換言すれば、$P_\rho$はLorentz 変換の下でベクトルとして振る舞い、運動量同士は互いに交換するということである。対応するPoincare 群は平行移動とLorentz 変換の半直積である。ここで、Poincare 群は非コンパクトであるということに注意する必要がある。特にブーストと平行移動は非コンパクトな変換である。

場の量子論において、我々は対称な群のユニタリー表現を用いる。しかし、自明な表現に加えて、非コンパクトな群は有限次元のユニタリー表現を持たない。従って、表現は連続的なパラメータでラベル付けされる必要がある。上記の場合では我々はPoincare 代数の表現を運動量$p^\mu$でラベル付けすることが出来ている。

全てのユニタリー表現を分類するための方針は、非コンパクトな変換が固定されているような系を選ぶ、すなわちコンパクトな変換のみを扱うということである。この枠組みでは、コンパクト生成子の全ての可能な表現を分類することになる。簡単のために、Poincare 代数を$4$次元時空で考える。異なる無限次元のユニタリー表現は、質量のある粒子状態及び質量のない粒子状態に対応する。

質量のある粒子において、我々は常に系$p^\mu=(m,0,0,0)$へブーストをすることが出来る。小群はこの運動量ベクトル$p^\mu$を不変に保つような変換によって与えられる。すなわち、この場合は$SO(3)$である。$SO(3)$の表現については半整数$s$という場のスピンによってラベル付けされている。この表現は$2s+1$次元を持っている。質量のある場のスピンを決定するには、各成分$W_\sigma$が次の式で与えられるようなPauli-Lubanski ベクトル$W$を導入するのが便利である。

\begin{equation}
W_\sigma=\dfrac{1}{2}\epsilon_{\mu\nu\rho\sigma}J^{\mu\nu}P^\rho\tag{38}
\end{equation}

その2乗は$W^2=W_\sigma W^\sigma$である。$P^\mu$、$W^2$、及びPauli-Lubanski ベクトルの1成分$W_\sigma$は互いに交換することが示せる。4つの演算子$P^\mu~(\mu\in\{0,\cdots,3\})$の代わりに$P^2=P_\mu P^\mu$と3つの空間成分$P^i~(i\in\{1,2,3\})$を使うことも出来る。要約すれば、質量のある粒子の状態はそれらの質量$m^2=P_\mu P^\mu$、それらの空間運動量$P^i$、それらのスピン$W^2=m^2s(s+1)$、及び$\{-s,-s+1,\cdots,s-1,s\}$の値を取りうる$s_3$を用いたスピン成分の1つ$W_3=ms_3$に沿って分類される。従って、質量のある粒子の対応する固有状態は$\Ket{p^\mu,s,s_3}$によって決定される。

質量のない粒子について考えてみよう。この場合、$p^\mu$の全ての空間成分が$0$になるような系へブーストを行うことは出来ない。代わりに、系$p^\mu=(E,0,0,E)$にブーストすることが出来る。$p^\mu$の小群は$N_1=J_{10}+J_{13}$、$N_2=J_{20}+J_{23}$,
及び$J_{12}$によって生成される。粒子の運動方向を$x^3$軸方向に選ぶと$p^\mu=(E,0,0,E)$となる。これを用いると
\[
W_\sigma=(-p^0J^{12},p^0(J^{23}+J^{02}),p^0(J^{13}+J^{01}),p^0J^{12})
\]
であるから、$W_\sigma$から$3$次元ベクトル$\bm{N}$を
\[
\bm{N}\coloneqq\dfrac{1}{p^0}(W^2,W^1,W^3)=(J_{10}+J_{13},J_{20}+J_{23},J_{12})
\]
と定義すると、$\bm{N}$は交換関係として
\[
[N^1,N^2]=0 、 [N^2,N^3]=i\hbar N^1 、 [N^3,N^1]=i\hbar N^2
\]
という関係をもつ(説明の都合上、$\hbar$を復活させた。)。この関係は$\bm{N}$が
\[
N^1\coloneqq-i\hbar\dfrac{\partial}{\partial x^1} 、 N^2\coloneqq-i\hbar\dfrac{\partial}{\partial x^2} 、 N^3\coloneqq-i\hbar\left(x^1\dfrac{\partial}{\partial x^2}-x^2\dfrac{\partial}{\partial x^1}\right)
\]
と定義されているときに$\bm{N}$がもつ代数関係と同じである。$N^1$が$x^1$軸方向の並進、$N^2$が$x^2$方向への並進、$N^3$が$x^1x^2$平面内の回転を生成するので、$\bm{N}$は$2$次元Euclid 群$E(2)$のLie 代数の元である。また、$p^\mu=(E,0,0,E)$を不変に保つ変換は$\exp\{(i\bm{\theta}\cdot\bm{N})/\hbar\}$である。

$m>0$のときの結果に$m\rightarrow0$の極限で連続的につながるように、$W^2=0$として考えてみると、$W_\sigma P^\sigma=0$なので、
\[
W^\sigma=(W^0,0,0,W^0)=\dfrac{W^0}{p^0}p^\sigma=\dfrac{\bm{p}\cdot\bm{J}}{|\bm{p}|}p^\sigma=:\lambda p^\sigma
\]
となる。このときの$\lambda$こそヘリシティに他ならない。例えば、光はヘリシティ$\lambda=\pm1$を有する実体である。$N_1$、$N_2$は非コンパクトな生成子なので、それらは任意の有限次元のユニタリー表現において自明に実現する。従って、有限次元のユニタリー表現はたった1つの数によってラベル付けされており、それは$x^3$軸周りの回転に対応した生成子$J_{12}$の固有値で、ヘリシティ$\lambda$と呼ばれるものである。ヘリシティ$\lambda$は(半)整数である必要があり、故に質量のない粒子の状態は$\Ket{p^\mu,\lambda}$と書かれる。

ここでの議論を$d\neq4$の時空に一般化することは容易である。質量のある粒子において、我々は慣性系にブーストすることが可能で、小群は$SO(d-1)$である。対して、質量のない粒子において小群は$SO(d-1)$ではなく$SO(d-2)$になる。ここでの議論を応用すれば、質量の$2$乗が負であるような粒子、タキオンを考えることも出来る。その場合は$W_\sigma$は$SO(2,1)$のLie 代数に従い、小群は$SO(2,1)$となる。

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