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【超対称性理論】第24講 質量がある表現

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中心電荷が消えている質量がある表現

質量がある表現の場合、$p^\mu=(m,0,0,0)$の慣性系を考えることが出来る。ここで、$m$は粒子の質量である。以前議論したように、粒子状態$\Ket{p^\mu,s,s_3}$を超対称性代数は(142)に作用させると、以下の式を得る。

\begin{equation}
\{\mathcal{Q}^a_\alpha,\bar{\mathcal{Q}}_{b\dot{\beta}}\}=2m\delta^a_b(\sigma_0)_{\alpha\dot{\beta}}=2m\delta^a_b\left(
\begin{array}{cc}
1&0\\
0&1
\end{array}
\right)_{\alpha\dot{\beta}}\tag{155}
\end{equation}

但し、中心電荷がない場合を考えているので、$Z=0$とした。質量がない場合と違って、任意の$a=1,\cdots,\caln$において$\mathcal{Q}^a_2\Ket{p^\mu,s,s_3}=0$が成り立つと結論づけることは出来ない。従って、質量がある場合は、質量がない場合に比べて多くの状態を有していると予想することが出来る。特に、生成・消滅演算子を次のように定義する。

\begin{equation}
a^b_\alpha=\dfrac{\mathcal{Q}^b_\alpha}{\sqrt{2m}} 、 \left(a^\dagger\right)^a_{\dot{\alpha}}=\dfrac{\bar{\mathcal{Q}}^a_{\dot{\alpha}}}{\sqrt{2m}}\tag{156}
\end{equation}

先ほどと同様。$a$はスピンを下げて、$a^\dagger$はスピンを上げる。定義より、真空は最も低いスピン状態で、$a^a_\alpha\Ket{\Omega}=0$となり、$a^b_\alpha$で消失する。生成演算子$(a^\dagger)^a_{\dot{\alpha}}$やその積を作用させると、より高いスピン状態を作ることが出来る。$b=1,\cdots,\caln$かつ$\dot{\alpha}\in\{\dot{1},\dot{2}\}$なので、合計で$2\caln$個の生成演算子が$2^{2\caln}$個の状態を作り上げる。これは、質量がない場合の状態の数が$2^\caln$個であることとは異なった結果である。

中心電荷が存在している質量がある表現

中心電荷$Z$がある場合、質量がある表現は短縮される。すなわち、いくつかの部分は消えることになる。定義より、中心電荷は全ての生成子と交換する。中心電荷は固有値$q^i$で対角化されるように基底を選ぶことが出来る。これらの固有値は$\caln\times\caln$の反対称行列において整理される。特に、$\caln=2$の場合、反対称行列$Z^{ab}$の成分は次のように定義される。

\begin{equation}
Z^{ab}=\left(
\begin{array}{rr}
0&q_1\\
-q_1&0
\end{array}
\right)\tag{157}
\end{equation}

より一般に、$\caln>2$の場合は、中心電荷$q_a$を用いて以下のように定義出来る。

\begin{equation}
Z^{ab}=\left(
\begin{array}{cccccccc}
0&q_1&0&0&0&\cdots&&\\
-q_1&0&0&0&0&\cdots&&\\
0&0&0&q_2&0&\cdots&&\\
0&0&-q_2&0&0&\cdots&&\\
0&0&0&0&\ddots&&&\\
\vdots&\vdots&\vdots&\vdots&&\ddots&&\\
&&&&&0&q_{\frac{\caln}{2}}\\
&&&&&-q_{\frac{\caln}{2}}&0
\end{array}
\right)\tag{158}
\end{equation}

$\caln$が奇数ならば、最後の行は$0$になる。以後、$\caln$は偶数であるという制限を加えよう。$j=1,\cdots,\caln/2$において、線型結合$\tilde{\mathcal{Q}}^j_{\alpha\pm}\coloneqq\left(\mathcal{Q}^{2j-1}_\alpha\pm(\mathcal{Q}^{2j}_\alpha)^\dagger\right)$を用いると、超対称性代数における$0$でない反交換関係は以下のようになる。

\begin{equation}
\left\{
\begin{array}{l}
\{\tilde{\mathcal{Q}}^i_{\alpha+},(\tilde{\mathcal{Q}}^j_{\beta+})^\dagger\}=\delta^i_j\delta^\beta_\alpha(2m+q_j)\\
\\
\{\tilde{\mathcal{Q}}^i_{\alpha-},(\tilde{\mathcal{Q}}^j_{\beta-})^\dagger\}=\delta^i_j\delta^\beta_\alpha(2m-q_j)
\end{array}
\right.\tag{159}
\end{equation}

粒子のユニタリー表現において、この関係式の両辺は正でなければならないから、$j=1,\cdots,\caln/2$において$|q_j|\leq2m$である。右辺が$0$になる$|q_j|=2m$場合は特別である。これはBogomolnyi-Prasad-Sommerfield 境界、またはBPS 境界と呼ぶ。$q_i$のうちの$k$個が$\pm2m$に等しい場合、生成演算子の数は$2\caln-2k$個、状態の数は$2^{2\caln-2k}$個となる。これらの状態を$1/2^k$BPS 多重項という。すなわち、$1/2$BPS 多重項や$1/4$多重項などが存在する。とりうるBPS 多重項は表5にまとめてある。

表5 BPS 多重項

$k$の範囲 状態の数 多重項
$k=0$ $2^{2\caln}$ 大きな多重項
$0<k<\frac{\caln}{2}$ $2^{2(\caln-k)}$ 小さな多重項
$k=\frac{\caln}{2}$ $2^\caln$ 極小さな多重項

 

BPS 状態は物理学において重要な役割を果たす。これらの状態、及び対応する境界は、古典的な運動方程式の局所的有限エネルギー解である、Yang-Mills 系のソリトン(モノポール)解として最初に発見された。この場合、結合は、モノポール解のエネルギーと対応する電荷との間の不等式である。BPS 状態については等式が満たされるので、これらの状態は最も軽い荷電粒子に対応し、これらの粒子は安定している。重力理論では、電荷があるブラックホールについて議論するときにもBPS の状態が現れることを見た。BPS 状態は極限ブラックホールに対応する。これらのブラックホール解は拡張された超重力理論におけるBPS 状態である。更に、BPS 状態は超対称場理論における強弱結合双対性を理解する上で重要である。定義上、BPS 状態は小さな多重項であることに留意されたい。有限結合定数での相転移がないと仮定すれば、結合を弱結合から強結合へ変更しても多重項の大きさが変わるとは考えられていない。最後に、BPS 状態は超弦理論においても重要な役割を果たす。D-ブレーンとして知られる拡張された物体のいくつかはBPS状態である。

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