スピノール表現
Lorentz 群はテンソル表現に加えて、既約表現の更なるクラスとしてスピノール表現を有している(数学的に言えば、スピノールはLorentz 群の二重被覆なLie 群であるスピン群の表現である。これはスピノールがLoretz 群の射影表現であることを意味している。)。これらは次のようなClifford 代数によって構成されている。
γμγν+γνγμ=:{γμ,γν}=−2ημν1l
但し、γμはDirac の行列である。反交換関係(17)を用いるとk∈{1,2,⋯,d−1}において(γ0)2=1lと(γk)2=−1lが成り立つことが分かる。従って、γ0は固有値として±1を持ち、一方でγkは固有値として±iを持つ。故に、γ0、γkはそれぞれHermitian とanti-Hermitian になるように選ぶことが出来る。
(γ0)†=γ0 、 (γk)†=−γk
Dirac のガンマ行列を用いると、次のようにLorentz 代数を構成することが出来る。
Jμν=i4[γμ,γν]
これをLorentz 代数のDirac スピノール表現と言う。ここで、γμはημνを用いてγμ=ημνγνのように添字を上げたりすることが出来る。
問題
(19)がLorentz 代数の表現であること、すなわち交換関係(4)が満たされていることを確かめよ。
解答
ひたすらフリップを用いて計算していく。交換関係(4)の左辺は
[Jμν,Jρσ]=−116{(γμγνγργσ−γνγμγργσ−γμγνγσγρ+γνγμγσγρ)−(γργσγμγν−γργσγνγμ−γσγργμγν+γσγργνγμ)}=−18{(γμγνγργσ−γμγνγσγρ)−(γργσγμγν−γσγργμγν)}=−14(γμγνγργσ−γμγνγσγρ)=0
と計算される。同様にして、右辺の方も以下のように計算出来る。
i(ημρJνσ+ηνσJμρ−ηνρJμσ−ημσJνρ)=18(γμγργνγσ+γργμγνγσ−γμγργσγν−γργμγσγν+γνγσγμγρ+γσγνγμγρ−γνγσγργμ−γσγνγργμ−γνγργμγσ−γργνγμγσ+γνγργσγμ+γργνγσγμ−γμγσγνγρ−γσγμγνγρ+γμγσγργν+γσγμγργν)=0
よって題意は示された。
一般に、d次元時空に対してDirac 行列γμを構築することが可能である。実際、偶数次元dについて、Clifford 代数の複素既約表現の相似変換を見つけることが出来る。一方で、奇数次元dについては、Clifford 代数の2つの等価な複素既約表現を見いだせる。偶数次元と奇数次元のどちらも、既約表現は複素次元2⌊d2⌋である(⌊d2⌋は床関数である。Gauss 記号と同じ意味だと解釈すればよい。)。
まず、d=4に限定してClifford 代数(17)を満たす複素次元4の既約表現を考える。問題は生成子(19)がLorentz 群の可約な表現を形成するのか、または既約な表現を形成するのかということである。この問題に答えるためには、我々はDirac のガンマ行列に関するいくつかの基本的な事実を確認しなければならない。
相似変換では、Dirac のガンマ行列γμはClifford 代数(17)の唯一の既約表現を構成する。従って、{−γμ}、{±γTμ}、{γ∗μ}、{±γ†μ}などの他のガンマ行列の集合も相似変換によってγμと関連付けられる。例えば、γμはBを用いてγ†μに関連付けられる。
BγμB−1=(γμ)†
但し、Bは以下で定義される。
B=γ0
ここで、Bの位相はB2=1lかつB=B∗=B†であるように選んだ。更に、−γμをγμにするような相似変換はγ5を用いて次のように与えられる。
γ5γμγ−15=−γμ
但し、γ5は以下で定義される。
γ5=iγ0γ1γ2γ3