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【場の量子論と対称性】第08講 4次元の場合の表現論

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4次元の場合の表現論

これまでで見せたLorentz 群の表現の議論はどんな次元でも応用することが出来る。もし4次元におけるLorentz 代数の表現を分類したければ、もっと直接的な方法が存在する。この小節ではこれについて議論する。Lorentz 代数の生成子Jμνは次の式で与えられるブーストKiと回転Jiに分けられる。

Ki=J0i  Ji=12ϵijkJjk with i,j,k{1,2,3}

添字の縮約は行なわれており、ϵijk=ϵ0ijkである。生成子LiRiを次のように導入する。

Lk=12(Jk+iKk)  Rk=12(JkiKk)

これによりLorentz 代数(4)はこれを用いて次のように書くことが出来る。

[Li,Lj]=iϵijkLk  [Ri,Rj]=iϵijkRk  [Li,Rj]=0

我々は2つの交換するsu(2)を用いて交換関係を書き直すことが出来る。これらをそれぞれsu(2)Lsu(2)Rと書くことにする。Lorentz 代数の表現を調べるにはsu(2)の表現だけを調べれば良い。jと書かれたsu(2)の表現は半整数jでラベル付けされており、(2j+1)次元である。

故に我々は2つの半整数jLjRを用いてso(3,1)の表現を分類することが出来る。他の表現と同様に表2にて既約表現を列挙しておく。

 

表1 d次元Minkowski 時空におけるスピノールのタイプ

d 実次元 Weyl 場 Majorana 場 擬Majorana 場 Majorana-Weyl 場
2 1
3 2
4 4
5 8
6 8
7 16
8 16
9 16
10 16
11 32

 

表2 d=4の場合におけるLorentz 群の既約表現

(jL,jR) 表現 名前
(0,0) 1 ϕ スカラー
(12,0) 2L ψL 左巻きWeyl スピノール
(0,12) 2R ψR 右巻きWeyl スピノール
(12,12) 4 ϕμ ベクトル
(1,0) 3+ ϕ+[μν] 反対称自己双対テンソル
(0,1) 3 ϕ[μν] 反対称反自己双対テンソル
(1,1) 9 Pρσμνϕρσ 対称トレースレステンソル

 

Poincare 代数と粒子状態

Lorentz 代数をPoincare 代数に拡張してみよう。Lorentz 変換の生成子Jμνに加えて、微小な並進を作るPμも考える必要がある。生成子PμJρσは交換関係(4)と同様に次の交換関係も満たす必要がある。

[Pρ,Jμν]=i(ημρPνηνρPμ)  [Pμ,Pν]=0

これは換言すれば、PρはLorentz 変換の下でベクトルとして振る舞い、運動量同士は互いに交換するということである。対応するPoincare 群は平行移動とLorentz 変換の半直積である。ここで、Poincare 群は非コンパクトであるということに注意する必要がある。特にブーストと平行移動は非コンパクトな変換である。

場の量子論において、我々は対称な群のユニタリー表現を用いる。しかし、自明な表現に加えて、非コンパクトな群は有限次元のユニタリー表現を持たない。従って、表現は連続的なパラメータでラベル付けされる必要がある。上記の場合では我々はPoincare 代数の表現を運動量pμでラベル付けすることが出来ている。

全てのユニタリー表現を分類するための方針は、非コンパクトな変換が固定されているような系を選ぶ、すなわちコンパクトな変換のみを扱うということである。この枠組みでは、コンパクト生成子の全ての可能な表現を分類することになる。簡単のために、Poincare 代数を4次元時空で考える。異なる無限次元のユニタリー表現は、質量のある粒子状態及び質量のない粒子状態に対応する。

質量のある粒子において、我々は常に系pμ=(m,0,0,0)へブーストをすることが出来る。小群はこの運動量ベクトルpμを不変に保つような変換によって与えられる。すなわち、この場合はSO(3)である。SO(3)の表現については半整数sという場のスピンによってラベル付けされている。この表現は2s+1次元を持っている。質量のある場のスピンを決定するには、各成分Wσが次の式で与えられるようなPauli-Lubanski ベクトルWを導入するのが便利である。

Wσ=12ϵμνρσJμνPρ

その2乗はW2=WσWσである。PμW2、及びPauli-Lubanski ベクトルの1成分Wσは互いに交換することが示せる。4つの演算子Pμ (μ{0,,3})の代わりにP2=PμPμと3つの空間成分Pi (i{1,2,3})を使うことも出来る。要約すれば、質量のある粒子の状態はそれらの質量m2=PμPμ、それらの空間運動量Pi、それらのスピンW2=m2s(s+1)、及び{s,s+1,,s1,s}の値を取りうるs3を用いたスピン成分の1つW3=ms3に沿って分類される。従って、質量のある粒子の対応する固有状態は|pμ,s,s3によって決定される。

質量のない粒子について考えてみよう。この場合、pμの全ての空間成分が0になるような系へブーストを行うことは出来ない。代わりに、系pμ=(E,0,0,E)にブーストすることが出来る。pμの小群はN1=J10+J13N2=J20+J23,
及びJ12によって生成される。粒子の運動方向をx3軸方向に選ぶとpμ=(E,0,0,E)となる。これを用いると
Wσ=(p0J12,p0(J23+J02),p0(J13+J01),p0J12)


であるから、Wσから3次元ベクトルN
N:=1p0(W2,W1,W3)=(J10+J13,J20+J23,J12)

と定義すると、Nは交換関係として
[N1,N2]=0  [N2,N3]=iN1  [N3,N1]=iN2

という関係をもつ(説明の都合上、を復活させた。)。この関係はN
N1:=ix1  N2:=ix2  N3:=i(x1x2x2x1)

と定義されているときにNがもつ代数関係と同じである。N1x1軸方向の並進、N2x2方向への並進、N3x1x2平面内の回転を生成するので、N2次元Euclid 群E(2)のLie 代数の元である。また、pμ=(E,0,0,E)を不変に保つ変換はexp{(iθN)/}である。

m>0のときの結果にm0の極限で連続的につながるように、W2=0として考えてみると、WσPσ=0なので、
Wσ=(W0,0,0,W0)=W0p0pσ=pJ|p|pσ=:λpσ


となる。このときのλこそヘリシティに他ならない。例えば、光はヘリシティλ=±1を有する実体である。N1N2は非コンパクトな生成子なので、それらは任意の有限次元のユニタリー表現において自明に実現する。従って、有限次元のユニタリー表現はたった1つの数によってラベル付けされており、それはx3軸周りの回転に対応した生成子J12の固有値で、ヘリシティλと呼ばれるものである。ヘリシティλは(半)整数である必要があり、故に質量のない粒子の状態は|pμ,λと書かれる。

ここでの議論をd4の時空に一般化することは容易である。質量のある粒子において、我々は慣性系にブーストすることが可能で、小群はSO(d1)である。対して、質量のない粒子において小群はSO(d1)ではなくSO(d2)になる。ここでの議論を応用すれば、質量の2乗が負であるような粒子、タキオンを考えることも出来る。その場合はWσSO(2,1)のLie 代数に従い、小群はSO(2,1)となる。

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