4次元の場合の表現論
これまでで見せたLorentz 群の表現の議論はどんな次元でも応用することが出来る。もし4次元におけるLorentz 代数の表現を分類したければ、もっと直接的な方法が存在する。この小節ではこれについて議論する。Lorentz 代数の生成子Jμνは次の式で与えられるブーストKiと回転Jiに分けられる。
Ki=J0i 、 Ji=12ϵijkJjk with i,j,k∈{1,2,3}
添字の縮約は行なわれており、ϵijk=ϵ0ijkである。生成子Li、Riを次のように導入する。
Lk=12(Jk+iKk) 、 Rk=12(Jk−iKk)
これによりLorentz 代数(4)はこれを用いて次のように書くことが出来る。
[Li,Lj]=iϵijkLk 、 [Ri,Rj]=iϵijkRk 、 [Li,Rj]=0
我々は2つの交換するsu(2)を用いて交換関係を書き直すことが出来る。これらをそれぞれsu(2)L、su(2)Rと書くことにする。Lorentz 代数の表現を調べるにはsu(2)の表現だけを調べれば良い。jと書かれたsu(2)の表現は半整数jでラベル付けされており、(2j+1)次元である。
故に我々は2つの半整数jL、jRを用いてso(3,1)の表現を分類することが出来る。他の表現と同様に表2にて既約表現を列挙しておく。
表1 d次元Minkowski 時空におけるスピノールのタイプ
d | 実次元 | Weyl 場 | Majorana 場 | 擬Majorana 場 | Majorana-Weyl 場 |
2 | 1 | ∙ | ∙ | ∙ | ∙ |
3 | 2 | ∙ | |||
4 | 4 | ∙ | ∙ | ||
5 | 8 | ||||
6 | 8 | ∙ | |||
7 | 16 | ||||
8 | 16 | ∙ | ∙ | ||
9 | 16 | ∙ | |||
10 | 16 | ∙ | ∙ | ∙ | ∙ |
11 | 32 | ∙ |
表2 d=4の場合におけるLorentz 群の既約表現
(jL,jR) | 表現 | 場 | 名前 |
(0,0) | 1 | ϕ | スカラー |
(12,0) | 2L | ψL | 左巻きWeyl スピノール |
(0,12) | 2R | ψR | 右巻きWeyl スピノール |
(12,12) | 4 | ϕμ | ベクトル |
(1,0) | 3+ | ϕ+[μν] | 反対称自己双対テンソル |
(0,1) | 3− | ϕ−[μν] | 反対称反自己双対テンソル |
(1,1) | 9 | Pρσμνϕρσ | 対称トレースレステンソル |
Poincare 代数と粒子状態
Lorentz 代数をPoincare 代数に拡張してみよう。Lorentz 変換の生成子Jμνに加えて、微小な並進を作るPμも考える必要がある。生成子Pμ、Jρσは交換関係(4)と同様に次の交換関係も満たす必要がある。
[Pρ,Jμν]=i(ημρPν−ηνρPμ) 、 [Pμ,Pν]=0
これは換言すれば、PρはLorentz 変換の下でベクトルとして振る舞い、運動量同士は互いに交換するということである。対応するPoincare 群は平行移動とLorentz 変換の半直積である。ここで、Poincare 群は非コンパクトであるということに注意する必要がある。特にブーストと平行移動は非コンパクトな変換である。
場の量子論において、我々は対称な群のユニタリー表現を用いる。しかし、自明な表現に加えて、非コンパクトな群は有限次元のユニタリー表現を持たない。従って、表現は連続的なパラメータでラベル付けされる必要がある。上記の場合では我々はPoincare 代数の表現を運動量pμでラベル付けすることが出来ている。
全てのユニタリー表現を分類するための方針は、非コンパクトな変換が固定されているような系を選ぶ、すなわちコンパクトな変換のみを扱うということである。この枠組みでは、コンパクト生成子の全ての可能な表現を分類することになる。簡単のために、Poincare 代数を4次元時空で考える。異なる無限次元のユニタリー表現は、質量のある粒子状態及び質量のない粒子状態に対応する。
質量のある粒子において、我々は常に系pμ=(m,0,0,0)へブーストをすることが出来る。小群はこの運動量ベクトルpμを不変に保つような変換によって与えられる。すなわち、この場合はSO(3)である。SO(3)の表現については半整数sという場のスピンによってラベル付けされている。この表現は2s+1次元を持っている。質量のある場のスピンを決定するには、各成分Wσが次の式で与えられるようなPauli-Lubanski ベクトルWを導入するのが便利である。
Wσ=12ϵμνρσJμνPρ
その2乗はW2=WσWσである。Pμ、W2、及びPauli-Lubanski ベクトルの1成分Wσは互いに交換することが示せる。4つの演算子Pμ (μ∈{0,⋯,3})の代わりにP2=PμPμと3つの空間成分Pi (i∈{1,2,3})を使うことも出来る。要約すれば、質量のある粒子の状態はそれらの質量m2=PμPμ、それらの空間運動量Pi、それらのスピンW2=m2s(s+1)、及び{−s,−s+1,⋯,s−1,s}の値を取りうるs3を用いたスピン成分の1つW3=ms3に沿って分類される。従って、質量のある粒子の対応する固有状態は|pμ,s,s3⟩によって決定される。
質量のない粒子について考えてみよう。この場合、pμの全ての空間成分が0になるような系へブーストを行うことは出来ない。代わりに、系pμ=(E,0,0,E)にブーストすることが出来る。pμの小群はN1=J10+J13、N2=J20+J23,
及びJ12によって生成される。粒子の運動方向をx3軸方向に選ぶとpμ=(E,0,0,E)となる。これを用いると
Wσ=(−p0J12,p0(J23+J02),p0(J13+J01),p0J12)
であるから、Wσから3次元ベクトルNを
N:=1p0(W2,W1,W3)=(J10+J13,J20+J23,J12)
と定義すると、Nは交換関係として
[N1,N2]=0 、 [N2,N3]=iℏN1 、 [N3,N1]=iℏN2
という関係をもつ(説明の都合上、ℏを復活させた。)。この関係はNが
N1:=−iℏ∂∂x1 、 N2:=−iℏ∂∂x2 、 N3:=−iℏ(x1∂∂x2−x2∂∂x1)
と定義されているときにNがもつ代数関係と同じである。N1がx1軸方向の並進、N2がx2方向への並進、N3がx1x2平面内の回転を生成するので、Nは2次元Euclid 群E(2)のLie 代数の元である。また、pμ=(E,0,0,E)を不変に保つ変換はexp{(iθ⋅N)/ℏ}である。
m>0のときの結果にm→0の極限で連続的につながるように、W2=0として考えてみると、WσPσ=0なので、
Wσ=(W0,0,0,W0)=W0p0pσ=p⋅J|p|pσ=:λpσ
となる。このときのλこそヘリシティに他ならない。例えば、光はヘリシティλ=±1を有する実体である。N1、N2は非コンパクトな生成子なので、それらは任意の有限次元のユニタリー表現において自明に実現する。従って、有限次元のユニタリー表現はたった1つの数によってラベル付けされており、それはx3軸周りの回転に対応した生成子J12の固有値で、ヘリシティλと呼ばれるものである。ヘリシティλは(半)整数である必要があり、故に質量のない粒子の状態は|pμ,λ⟩と書かれる。
ここでの議論をd≠4の時空に一般化することは容易である。質量のある粒子において、我々は慣性系にブーストすることが可能で、小群はSO(d−1)である。対して、質量のない粒子において小群はSO(d−1)ではなくSO(d−2)になる。ここでの議論を応用すれば、質量の2乗が負であるような粒子、タキオンを考えることも出来る。その場合はWσはSO(2,1)のLie 代数に従い、小群はSO(2,1)となる。