MENU

【超対称性理論】第21講 超対称性代数

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

$\def\bm#1{{\boldsymbol{#1}}}
\def\coloneqq{{:=}}
\newcommand{\rmd}{\mathrm{d}}
\def\Bra#1{{\left\langle{#1}\right|}}
\def\Ket#1{{\left|{#1}\right\rangle}}
\def\Braket#1{{\left\langle{#1}\right\rangle}}
\def\mathbbm#1{{\mbox{#1}\hspace{-0.20em}\mbox{l}}}
\def\caln{{\mathcal{N}}}$

超対称性

前の講義で共形対称性を導入したことにより、我々はPoincare 代数の拡張する1つの可能性を議論した。くりこみの過程を経てスケールが生成されない場合、無次元の質量のない場の量子論で無次元の結合定数を用いて共形対称性が実現される。

Coleman-Mandula の定理を回避する更なる方法は1つかそれ以上のスピノール超電荷$\mathcal{Q}^a$を導入することである。$a$は独立した対称性が存在する数を特徴付ける。すなわち、$a=1,\cdots,\caln$である。この方法によって、我々は反交換関係をも含む新たな対称代数、超対称性代数を得ることになる。

超対称性代数

我々が最も興味がある$4$次元の場合、Weyl 表記を利用し、左巻きスピノール$\mathcal{Q}^a_\alpha$とその対応物である右巻きスピノール$\bar{\mathcal{Q}}_{a\dot{\alpha}}$を持つとするのが便利である。但し、$SL(2,\mathbb{C})$の添字 $\alpha$、$\dot{\alpha}$は$1$、$2$を走り、$a=1,\cdots,\caln$は独立した対称性の数を数える。

2成分Weyl スピノール表記はDirac の4スピノールに次の式で関連付けられる。

\begin{equation}
\mathcal{Q}^a_{\mathrm{D}}=\left(
\begin{array}{c}
\mathcal{Q}^a_\alpha\\
\bar{\mathcal{Q}}^{a\dot{\alpha}}
\end{array}
\right) 、
\gamma^\mu=\left(
\begin{array}{cc}
0&\sigma^\mu_{\alpha\dot{\beta}}\\
\bar{\sigma}^{\mu\dot{\alpha}\beta}&0
\end{array}
\right)
\tag{137}
\end{equation}

但し、$\sigma^\mu=(-\mathbbm{1},\sigma^i)$と$\bar{\sigma}^\mu=(-\mathbbm{1},-\sigma^i)$は標準的なPauli 行列$\sigma^i$が空間成分に入っている$2\times2$行列の4成分ベクトルである。

簡単な超対称性代数

初めに超電荷が1個の場合、すなわち、$\caln=1$の場合を考えよう。この超電荷は次数付きLie 代数の交換関係に従うことになり、これはしばしば超代数と呼ばれる。この代数はLie 代数の通常の生成子に加えて(今後これをBoson 的生成子と呼ぶ。)、Fermion 的生成子も持つ。Boson 的生成子が次数0であるのに対して、Fermion 的生成子は次数$+1$である。次数を場の積に割り当てるためには、それぞれの場の次数に剰余2の演算(modulo 2)を割り当てるだけで良い。特に、2つのFermion 的生成子の積は$1+1=0~(\mathrm{mod}~2)$なのでBoson 的生成子になる。一方で1つのBoson 的生成子と1つのFermion 的生成子は常にFermion 的生成子になる。

次数がそれぞれ$g_1$、$g_2$の2つの生成子$\mathcal{O}_1$、$\mathcal{O}_2$の(反)交換関係は次の式で与えられる。

\begin{equation}
[\mathcal{O}_1,\mathcal{O}_2\}=\mathcal{O}_1\mathcal{O}_2-(-1)^{g_1g_2}\mathcal{O}_1\mathcal{O}_2\tag{138}
\end{equation}

特に、括弧$[\cdot,\cdot\}$は交換子と反交換子のどちらかであることを意味している。正確に言えば、Fermion 的生成子なら反交換子に、Boson 的生成子なら交換子になるということである。

超電荷は次数付きLie 代数のFermion 的生成子であるということが分かる。しかし、Poincare 代数及び他の内部対称性と関連していなければならないので、場の量子論の対称性に関連した次数付きLie 代数の方法は非常に制限が掛かっている。$1$つの超電荷$\mathcal{Q}$(Weyl 表示による成分$\mathcal{Q}_\alpha$と$\mathcal{Q}_{\dot{\alpha}}$)の場合の、最も一般的な超対称性代数は以下のようになる。

\begin{equation}
\left\{
\begin{array}{rclcrcrcl}
{[\mathcal{Q}_\alpha,J^{\mu\nu}]}&=&{(\sigma^{\mu\nu})_\alpha}^\beta\mathcal{Q}_\beta&&&&{[\bar{\mathcal{Q}}_{\dot{\alpha}},J^{\mu\nu}]}&=&\epsilon_{\dot{\alpha}\dot{\beta}}{(\bar{\sigma}^{\mu\nu})^{\dot{\beta}}}_{\dot{\gamma}}\bar{\mathcal{Q}}^{\dot{\gamma}}\\
&&&&&&&&\\
{[\mathcal{Q}_\alpha,P^\mu]}&=&0&&&&{[\mathcal{Q}_{\dot{\alpha}},P^\mu]}&=&0\\
&&&&&&&&\\
{\{\mathcal{Q}_\alpha,\bar{\mathcal{Q}}_{\dot{\alpha}}\}}&=&2\sigma^\mu_{\alpha\dot{\alpha}}P_\mu&&{\{\mathcal{Q}_\alpha,\mathcal{Q}_\beta\}}&=&{\{\bar{\mathcal{Q}}_{\dot{\alpha}},\bar{\mathcal{Q}}_{\dot{\beta}}\}}&=&0
\end{array}
\right.\tag{139}
\end{equation}

但し、スピノールの添字は$\epsilon_{\dot{\alpha}\dot{\beta}}$と$\epsilon_{\alpha\beta}$で上げ下げする。これらの交換関係には、Poincare 代数の交換関係が追加される必要がある。(139)の第1行目は、$\mathcal{Q}_\alpha$と$\mathcal{Q}_{\dot{\alpha}}$はそれぞれ左巻き・右巻きスピノールであり、$\mathfrak{su}(2)_{\mathrm{L}}\oplus\mathfrak{su}(2)_{\mathrm{R}}$の$(1/2,0)$と$(0,1/2)$でそれぞれ変換するということを主張している。(139)の第2行目は、Jacobi 恒等式の結果である。これは$[\mathcal{Q}_\alpha,P^\mu]$の添字の構造と一貫している項は$(\sigma^\mu)_{\alpha\dot{\alpha}}\bar{\mathcal{Q}}^{\dot{\alpha}}$だけであるという事実に基づいている。$P^\mu$、$P^\nu$、$\mathcal{Q}_\alpha$を含むJacobi 恒等式を用いるとこの項はなくなる。これによって(139)の第2行目が成り立つことが言える。

(139)の第3行目も似た議論になる。$\{\mathcal{Q}_\alpha,\bar{\mathcal{Q}}_{\dot{\alpha}}\}$の添字の構造と一貫している項は$\sigma^\mu_{\alpha\dot{\alpha}}P_\mu$だけである。比例定数は$\mathcal{Q}_\alpha$と$\bar{\mathcal{Q}}_{\dot{\alpha}}$が規格化されるように$2$とする。反交換子$\{\mathcal{Q}_\alpha,\mathcal{Q}_\beta\}$において、適切な添字をもつ項を全て書き下すことが出来る。従って、$P_\mu$、$\mathcal{Q}_\alpha$、$\mathcal{Q}_\beta$を含むJacobi 恒等式を考えるとこの項はなくなるから、反交換子$\{\mathcal{Q}_\alpha,\mathcal{Q}_\beta\}$は消える必要がある。

更に、$1$つの超電荷がある場合も、以下のように、$R$対称性と呼ばれる超対称性代数の$U(1)$自己同型が存在する。すなわち、$R$対称性とは、標準理論の粒子には$+1$という値を持たせ、超対称性粒子には$-1$という値を持たせることで反応の前後におけるパリティの積が保存するようにするというものである。この条件の下では、標準理論の粒子が超対称性粒子に移り変わったり、その逆の反応が起きることは禁止される。標準理論の粒子から超対称性粒子が生じるときは、必ず超対称性粒子が$2$つ作られなければならないのである。超対称大統一理論には、陽子が早く崩壊し、その結果宇宙に物質が存在しなくなるという困難があったが、これは$R$対称性を導入することで避けることが出来る。

$R$対称性からは更に重要な予言が出来る。まず、最も軽い超対称性粒子は必ず安定である。何故なら、$R$対称性より、超対称性粒子が崩壊するときは必ずより軽い超対称性粒子が出てくることになる。従って、最も軽い超対称性粒子は、より軽い標準理論の粒子に崩壊することはないから安定である。パラメーターの取り方にも依るが、超対称性標準理論では多くの場合、最も軽い超対称性粒子はフォティーノ${\Gamma^{(0)}}$、ズィーノ$\tilde{Z}$と$2$種類の中性ヒグシーノ$\tilde{H}$の混合から作られるニュートラリーノ$\tilde{\chi}^0$のうち最も軽いものとなる。このニュートラリーノは電気的に中性で弱い相互作用しか働かないので、暗黒物質の非常に有力な候補となる。

\begin{equation}
\mathcal{Q}_\alpha\mapsto\mathcal{Q}’_\alpha=\mathrm{e}^{i\alpha}\mathcal{Q}_\alpha 、 \bar{\mathcal{Q}}_{\dot{\alpha}}\mapsto\bar{\mathcal{Q}}’_{\dot{\alpha}}=\mathrm{e}^{-i\alpha}\bar{\mathcal{Q}}_{\dot{\alpha}}\tag{140}
\end{equation}

この$U(1)$自己同型に対応した生成子は$R$と書かれ、以下のように、交換関係でも消えることはない。

\begin{equation}
[\mathcal{Q}_\alpha,R]=\mathcal{Q}_\alpha 、 [\bar{\mathcal{Q}}_{\dot{\alpha}},R]=-\bar{\mathcal{Q}}_{\dot{\alpha}}\tag{141}
\end{equation}

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。