拡張された超対称性代数
1つ以上超電荷がある場合、QaD a=1,⋯,N、あるいはこれと同等な、Weyl 記法におけるQaαとˉQb˙βについて考えてみよう。超電荷が1つだけの簡単な場合、N=1超対称性理論では、超電荷はLorentz 変換の下で右巻きスピノールと左巻きスピノールとして変換し、並進の生成子と交換する。従って、代数(139)における最初の2行の式は適切に添字a、bを付け加えるだけで流用出来る。第3行目の式は次のように修正が必要である。
{Qaα,ˉQb˙β}=2σμα˙βPμδab 、 {Qaα,Qbβ}=εαβZab 、 {ˉQa˙α,ˉQb˙β}=ε˙α˙βˉZab
ここで、新しい出てきた文字Zab、ˉZabは中心電荷であるから超対称性代数における全ての他の生成子と交換する。換言すれば、Zabは超対称性代数の中心を生成すると言える。反交換子の対称性を満たすためには、中心電荷Zabは反対称、すなわち、Zab=−Zbaである必要がある。また、ˉQa˙α=(Qaα)∗であるためにZab=(ˉZ†)abでならなければならない。
N=1超対称性理論の場合と同様、超対称性代数(142)は超電荷QaαとˉQa˙αの大域的な位相の回転の下で不変である。
Qaα↦Qa′α=RabQbα 、 ˉQa˙α↦ˉQ′a˙α=ˉQb˙α(R†)ba
但し、RabはN×N行列Rの要素である。この超対称性代数の対称性はR対称性として知られている。すなわち、R対称性とは、「どの変換を1番最初の変換であると言っても良いはずである。」という意味の対称性である。R対称性は大域的で非可換な対称性であり、4次元時空においてはR∈U(N)を満たす。QaαはU(N)の基本表現Nで変換するのに対して、ˉQa˙αは複素共役表現ˉNで変換するということに注意しなければならない。これは更に、何故、Qaαでは添字aが上について、ˉQa˙αでは下につくのかということも説明している。
変換(143)の生成子をTjと書くことにしよう。Tjを含んだ交換関係は次のようになる。
[Qaα,Tj]=BjabQbα 、 [ˉQa˙α,Tj]=−Bj b aˉQb˙α 、 [Tj,Tk]=ifjklTl
成分BjabとBj b aは(Bj†)ab=(Bj)abを満たす。ZabもN×N行列なので、係数Aabjを次のように定義することが出来る。
Zab=AabjTj
但し、BiabAjbc=−AjabBi b cを満たす必要がある。この条件は4次元において最大の可能なR対称性の群に制限を課す。例えば、Zab=0であれば最大のR対称性の群はU(N)となる。Zab≠0であれば、最大のR対称性の群はU(N)の部分群であるコンパクトシンプレクティック群USp(N)となる。これまで量子効果を考慮せずに古典論のレベルで議論を進めてきた。
量子論のレベルでは、R対称性の全てもしくは一部がアノマリーによって破れることになる。
超対称性代数の表現
この節では、超対称性代数(139)の既約表現を決定する。超対称性代数はPoincare 代数の拡張であるから、Lorentz 量子数に関して既約表現の異なる状態にラベル付けを行うことが出来る。
Poincare 代数の場合、理論のCasimir 演算子を決定するのが便利である。Poincare 代数には2つのCasimir 演算子、P2=PμPμとW2=WμWμがある。但し、Wμは(38)で定義したPauli-Lubanski ベクトルである。
問題
W2=WμWμがCμν=WμPν−WνPμを用いて2P2W2=CμνCμνとあらわせることを示せ。
超対称性代数において、P2はCasimir 演算子であるが、W2はCasimir 演算子ではない。しかし、˜Cμνを次のように定義することが出来る。
˜Cμν=˜WμPν−˜WνPμ with ˜Wμ=Wμ−14ˉQa˙αˉσ˙ααμQaα
但し、添字aの足し上げは暗に仮定されているとする。この˜Cμνの修正された定義を利用すれば、˜W2=˜Cμν˜Cμνは再びCasimir 演算子となることが分かる。
超対称性代数の質量がない表現と質量がある表現を構成する前に、任意の表現において役立つ、基本的な事実を整理しておこう。
- PμPμは超対称性代数のCasimir 演算子なので、超対称性多重項における全ての場の質量は、同じになる。
- ゲージ理論の場合、ゲージ群の生成子は超電荷と交換するから、既約な超対称性多重項における全ての場は同じゲージ群の表現になる。これは全ての場が同じ脚を持っていることを意味している。これは1つ前の超対称性多重項における場の質量の説明と同じことを言っているだけである。
- いかなる超対称性多重項においても、Boson 的自由度nBはFermion 的自由度nFに等しくなる。すなわち、nB=nFとなる。
最後の主張を証明するために、次のように定義されるFermion 数演算子(−)Fを導入する。
(−)F|B⟩=|B⟩ 、 (−)F|F⟩=−|F⟩
但し、|B⟩はBoson 的状態を表現していて、|F⟩はFermion 的状態を表現している。超対称性電荷QαとˉQ˙αはBoson 的状態をFermion 的状態に変え、その逆も同様であるから、QαとˉQ˙αは(−)Fと反交換する。nB−nF=Tr((−)F)なので、Tr((−)F)=0であると証明することが出来る。但し、トレースは既約な超多重項の状態で取る。この証明は次の問題で行う。
問題
トレースの循環性を用いてTr((−)F{QαˉQ˙α})=0であることを示せ。(139)を用いてTr((−)F{QαˉQ˙α})を直接計算し、Tr((−)F)=0であると結論づけよ。
解答
Tr[(−)F{Qα,ˉQ˙α}]=Tr[(−)F(QαˉQ˙α+ˉQ˙αQα)]=Tr[(−)FQαˉQ˙α]+Tr[Qα(−)FˉQ˙α]=0
これを用いて、題意の後半を以下のように示す。
0=Tr[(−)F{Qα,ˉQ˙α}]=Tr[(−)F×2σμα˙αPμ]=2σμα˙αPμTr[(−)F]=0
我々はこれから、超対称性代数の表現に話を移す。Poincare 代数の表現の類推から、これらの表現は超対称性多重項を生じる。