MENU

【量子力学】量子力学8-スピン2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

$\def\bm#1{{\boldsymbol{#1}}}$
$\def\rmd#1{\mathrm{d}{#1}}$
$\def\Braket#1{\langle{#1}\rangle}$
$\def\Bra#1{\langle{#1}|}$
$\def\Ket#1{|{#1}\rangle}$
$\def\kb{k_{\text{B}}}$
$\def\dag{\dagger}$

量子力学08

今回も引き続きスピンの問題を考えていきます。
具体的には、角運動量の合成が今回のテーマです。

角運動量の合成

例えば、軌道角運動量とスピン角運動量、あるいは$2$つの粒子のスピン角運動量同士など、複数の角運動量を合成して新しい角運動量を作りその固有状態を調べるというのは重要な問題である。$2$つの角運動量を記述する方法は直積状態合成状態で$2$種類存在する。以下、簡単のためスピン角運動量同士の合成について考える。

独立な$2$つのスピン角運動量$\hat{\bm{s}}_1$と$\hat{\bm{s}}_2$に対し、各固有方程式が次のように書けるとする。

\begin{equation}
\left\{
\begin{array}{rcl}
\hat{s}_1^2\Ket{s_1m_1}&=&s_1(s_1+1)\Ket{s_1m_1}
\hat{s}_2^2\Ket{s_2m_2}&=&s_2(s_2+1)\Ket{s_2m_2}
\hat{s}_{1z}\Ket{s_1m_1}&=&m_1\Ket{s_1m_1}
\hat{s}_{2z}\Ket{s_2m_2}&=&m_2\Ket{s_2m_2}
\end{array}
\right.
\end{equation}

$2$つの固有状態$\Ket{s_1m_1}$と$\Ket{s_2m_2}$からなる直積状態を以下で定義する。

\begin{equation}
\Ket{s_1m_1s_2m_2}=\Ket{s_1m_1}\otimes\Ket{s_2m_2}
\end{equation}

直積状態を用いると先の固有方程式は以下のように書き直すことができる。

\begin{equation}
\left\{
\begin{array}{rcl}
\hat{s}_1^2\Ket{s_1m_1s_2m_2}&=&s_1(s_1+1)\Ket{s_1m_1s_2m_2}
\hat{s}_2^2\Ket{s_1m_1s_2m_2}&=&s_2(s_2+1)\Ket{s_1m_1s_2m_2}
\hat{s}_{1z}\Ket{s_1m_1s_2m_2}&=&m_1\Ket{s_1m_1s_2m_2}
\hat{s}_{2z}\Ket{s_1m_1s_2m_2}&=&m_2\Ket{s_1m_1s_2m_2}
\end{array}
\right.
\end{equation}

次に合成状態を定義する。合成角運動量を$\hat{\bm{s}}_{\text{tot}}=\hat{\bm{s}}_1+\hat{\bm{s}}_2$で定め、$\hat{s}_{\text{tot}}^2$と$\hat{s}_{\text{tot}z}$の固有方程式を次のように与える。

\begin{equation}
\left\{
\begin{array}{rcl}
\hat{s}_{\text{tot}}^2\Ket{s_1s_2s_{\text{tot}}m_{\text{tot}}}&=&s_{\text{tot}}(s_{\text{tot}}+1)\Ket{s_1s_2s_{\text{tot}}m_{\text{tot}}}
\hat{s}_{\text{tot}z}\Ket{s_1s_2s_{\text{tot}}m_{\text{tot}}}&=&m_{\text{tot}}\Ket{s_1s_2s_{\text{tot}}m_{\text{tot}}}
\end{array}
\right.
\end{equation}

このときの$\Ket{s_1s_2s_{\text{tot}}m_{\text{tot}}}$を合成状態という。ここで、非自明ではあるが$[\hat{s}_{\text{tot}}^2,\hat{s}_{\text{tot}z}]=0$である。$m_{\text{tot}}$については$m_{\text{tot}}=m_1+m_2$が明らかに成り立っているが、$s_{\text{tot}}$についての関係は非自明である。$\hat{\bm{s}}_{\text{tot}}=\hat{\bm{s}}_1+\hat{\bm{s}}_2$をベクトルと考えれば、以下の式が成り立つことが直観的に分かる。

\begin{equation}
s_{\text{tot}}=s_1+s_2,s_1+s_2-1,\cdots,|s_1-s_2|
\end{equation}

合成状態$\Ket{s_1s_2s_{\text{tot}}m_{\text{tot}}}$を直積状態$\Ket{s_1m_1s_2m_2}$で次のように展開する。

\begin{equation}
\Ket{s_1s_2s_{\text{tot}}m_{\text{tot}}}=\sum_{m_1,m_2}C^{s_{\text{tot}},m_{\text{tot}}}_{m_1,m_2}\Ket{s_1m_1s_2m_2}
\end{equation}

このときの展開係数$C^{s_{\text{tot}},{\text{tot}}}_{m_1,m_2}$をクレブシュ・ゴルダン係数と呼ぶ。この係数を全て求めることができれば直積状態から合成状態への書き換えが完了することになる。これを角運動量の合成と呼ぶ。

合成角運動量の昇降演算子を$\hat{s}_{\text{tot}\pm}=\hat{s}_{1\pm}+i\hat{s}_{2\pm}$と定義する。このとき、この下降演算子は合成状態に対して以下の関係式を満たす。

\begin{align}
&\hat{s}_{\text{tot}-}\Ket{s_1s_2s_{\text{tot}}m_{\text{tot}}}\nonumber
=&\sqrt{(s_{\text{tot}}+ m_{\text{tot}})(s_{\text{tot}}- m_{\text{tot}}+1)}\nonumber
&~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~\Ket{s_1s_2s_{\text{tot}}(m_{\text{tot}}-1)}
\end{align}

一方、直積状態に対して以下の関係式を満たす。

\begin{align}
&\hat{s}_{\text{tot}-}=(\hat{s}_{1-}+\hat{s}_{2-})\Ket{s_1m_1j_2m_2}\nonumber
=&\hat{s}_{1-}\Ket{s_1m_1}\otimes\Ket{s_2m_2}+\Ket{s_1m_1}\otimes\hat{s}_{2-}\Ket{s_2m_2}\nonumber
=&\sqrt{(s_1+m_1)(s_1-m_1+1)}\Ket{s_1(m_1-1)j_2m_2}\nonumber
+&\sqrt{(s_2+m_2)(s_2-m_2+1)}\Ket{s_1m_1j_2(m_2-1)}
\end{align}

以上の関係式を利用して、角運動量の合成を以下のステップで行う。

  • $m_1=s_1$、$m_2=s_2$の状態、すなわち、それぞれの$z$成分が最大の状態を作る。このときの直積状態$\Ket{s_1s_1s_2s_2}$と合成状態$\Ket{s_1s_2(s_1+s_2)(s_1+s_2)}$は完全に一致する。
  • 上で作った$z$成分が最大の状態の式

\begin{equation}
\Ket{s_1s_1s_2s_2}=\Ket{s_1s_2(s_1+s_2)(s_1+s_2)}
\end{equation}

の両辺に下降演算子を掛け続けて合成状態を生成していく。

  • 残りの状態がいくつなのか数えて、直交条件からそれらの状態を決定する。

 

 

 

例として、$2$つの電子からなる合成系について考える。ここでは$\Ket{s_1s_2s_{\text{tot}}m_{\text{tot}}}$を$\Ket{s_{\text{tot}}m_{\text{tot}}}$と略記することにする。

  • 電子のスピンは$\frac{1}{2}$なので、$2$電子合成スピン角運動量$s_{\text{tot}}$の取りうる大きさは次の$2$通りである。

\begin{equation}
s_{\text{tot}}=\left|\dfrac{1}{2}\pm\dfrac{1}{2}\right|=1,0
\end{equation}

  • この系が取りうる直積状態は$\Ket{\uparrow}_1\Ket{\uparrow}_2$、$\Ket{\uparrow}_1\Ket{\downarrow}_2$、$\Ket{\downarrow}_1\Ket{\uparrow}_2$、$\Ket{\downarrow}_1\Ket{\downarrow}_2$の$4$つである。$\Ket{11}=\Ket{\uparrow}_1\Ket{\uparrow}_2$に下降演算子を作用させて、

\begin{equation}
\Ket{10}=\dfrac{\Ket{\downarrow}_1\Ket{\uparrow}_2+\Ket{\uparrow}_1\Ket{\downarrow}_2}{\sqrt{2}}
\end{equation}

を得る。これに更に下降演算子を作用させて、
$\Ket{1-1}=\Ket{\downarrow}_1\Ket{\downarrow}_2$
も得ることができる。

  • $\Ket{10}$と直交する状態$\Ket{00}$は以下のように取ることができる。

\begin{equation}
\Ket{00}=\dfrac{\Ket{\uparrow}_1\Ket{\downarrow}_2-\Ket{\downarrow}_1\Ket{\uparrow}_2}{\sqrt{2}}
\end{equation}

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。