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【電磁気学】第13講 ベクトルの微分⑤-2階微分

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$2$階微分

勾配、発散、回転はナブラ演算子を$1$回だけ使って出来る偏導関数であるが、ナブラ演算子を$2$回用いれば$5$種類の$2$階偏導関数を構築することが出来る。

勾配$\nabla T$はベクトルであるから、以下のように発散と回転が取れる。

(1)勾配の発散:$\nabla\cdot(\nabla T)$

(2)勾配の回転:$\nabla\times(\nabla T)$

発散$\nabla\cdot T$はスカラーであるから、以下のように勾配が取れる。

(3)発散の勾配:$\nabla(\nabla\bmsv)$

回転$\nabla\times T$はベクトルであるから、以下のように発散と回転が取れる。

(4)回転の発散:$\nabla\cdot(\nabla\times\bmsv)$

(5)回転の回転:$\nabla\times(\nabla\times\bmsv)$

$2$階偏導関数の可能性はこれだけで尽きているのである。順番にこれらの式を計算していってみよう。

(1)
勾配の発散を計算すると以下のようになる。

\begin{equation}
\nabla\cdot(\nabla T)=\left(\hbx\dfrac{\partial}{\partial x}+\hby\dfrac{\partial}{\partial y}+\hbz\dfrac{\partial}{\partial z}\right)\cdot\left(\dfrac{\partial T}{\partial x}\hbx+\dfrac{\partial T}{\partial y}\hby+\dfrac{\partial T}{\partial z}\hbz\right)=\dfrac{\partial^2T}{\partial x^2}+\dfrac{\partial^2T}{\partial y^2}+\dfrac{\partial^2T}{\partial z^2}\tag{42}
\end{equation}

この結果は、$\nabla^2T$あるいは$\Delta T$と略記され、$T$のLaplacian と呼ばれる。Laplacian については後で詳しく見ていくことにする。スカラー$T$のLaplacian はスカラーであることに注意せよ。時折、我々はベクトルのLaplacian $\nabla^2\bmsv$の話をすることがある。これは、$x$成分が$v_x$のLaplacian であるようなベクトル量を意味していて、以下のように書くことが出来る。なお、単位ベクトルが位置に依存しているような曲線座標では、単位ベクトルも微分される必要がある。

\begin{equation}
\nabla^2\bmsv\coloneqq(\nabla^2v_x)\hbx+(\nabla^2v_y)\hby+(\nabla^2v_z)\hbz\tag{43}
\end{equation}

これはLaplacian $\nabla^2$の意味の便利な拡張に他ならない。

(2)
勾配の回転は常に$\bm{0}$である。

\begin{equation}
\nabla\times(\nabla T)=\bm{0}\tag{44}
\end{equation}

これはナブラ演算子の定義(39)より直ちに示せる。この性質は今後何度も活用することになる重要な事実である。もしかすると、(44)は$(\nabla\times\nabla)T$なのだから、同じベクトル同士の外積が$\bm{0}$であることから$\nabla\times(\nabla T)$は明らかに$\bm{0}$となるのではないかと思うかもしれない。この理由は示唆に富んだ考えであるが、正しい理由ではない。何故なら、ナブラ$\nabla$は演算子であって、通常の方法による掛け算ではないからである。実際には以下のような偏微分の積の形をした方程式が成り立つことから(44)の証明がなされる。

\begin{equation}
\dfrac{\partial}{\partial x}\left(\dfrac{\partial T}{\partial y}\right)=\dfrac{\partial}{\partial y}\left(\dfrac{\partial T}{\partial x}\right)\tag{45}
\end{equation}

もしもまだ上記のことが理解できなければ、$(\nabla T)\times(\nabla S)$の計算について考えてみると良い。果たしてこれは常に$\bm{0}$となるだろうか?$\nabla$を常微分に置き換えれば勿論成り立つが、$\nabla$の場合、これは一般には成り立たない。

(3)
$\nabla(\nabla\cdot\bmsv)$は物理学では殆ど現れることがなく、特別な名前もついていない。ここで、$\nabla(\nabla\cdot\bmsv)$はLaplacian とは同じではないということ、$\nabla^2\bmsv=(\nabla\cdot\nabla)\bmsv\neq\nabla(\nabla\cdot\bmsv)$に注意せよ。

(4)
勾配の回転と同様、回転の発散も常に$\bm{0}$である。

\begin{equation}
\nabla\cdot(\nabla\times\bmsv)=0\tag{46}
\end{equation}

これも定義から直ちに確認することが出来る。ここでも、$\bma\cdot(\bmb\times\bmc)=(\bma\times\bmb)\cdot\bmc$を用いた一見正しそうに見える誤った証明方法が考えられ得るということに注意せよ。

(5)
$\nabla$の定義から直ちに確認出来るように、

\begin{equation}
\nabla\times(\nabla\times\bmsv)=\nabla(\nabla\cdot\bmsv)-\nabla^2\bmsv\tag{47}
\end{equation}

である。第$1$項は(3)でやった計算に他ならないし、第$2$項はLaplacian に他ならないので、回転の回転は別段新しいものが現れる訳ではない。実際、(47)はしばしばベクトルのLaplacian を定義するために、直交座標で明示的に書かれた(43)よりも好んで用いられる。

ということで、結局のところ$2$階偏導関数はLaplacian $\nabla^2$と発散の勾配という$2$種類しか存在しないのである。発散の勾配というのは物理学では殆ど登場しないので、Laplacian が唯一重要かつ基本的な$2$階偏導関数なのだと言って良いだろう。上記のような手順を$3$階偏導関数でも繰り返すことは可能ではあるが、物理学では殆ど実用的なものではない。

ベクトルの微分についてのまとめをしておく。ベクトルの微分というものは、全てナブラ演算子$\nabla$及びそのベクトル的な性質と深い関連がある。つまり$\nabla$の定義さえ覚えておけば、残りは全て良いに構築することが可能なのである。

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